第32話 俺を一途に想ってくれる春百合ちゃん

「俺は里島さんの幼馴染。幼馴染として、今までずっと過ごしてきた。しかし、残念ながら、恋としての意味での好きという想いは、まだまだ持つことはできない」


 その言葉を聞いて、ますます春百合ちゃんが落ち込んでしまっている気がする。


「ならば、俺が里島さんの恋人になったら、祝福してくれればいいと思う。これで話はもう終わりだろう?」


 胸を張って言う古沼。


「話はまだ途中だ。俺は里島さんの幸せを望んでいる。里島さんにふさわしい男がいれば、そして、その男が里島さんを幸せにすることができるのなら、その男と恋人どうしになってくれればいいと思っていた」


「その男の条件に合うのは俺だから、俺が里島さんの恋人になればいいだろう」


「でもあなたは、今まで、たくさんの女性と付き合っては捨ててきた。その中には、俺に相談してきた人もいる。心が壊れる寸前だった。せっかくあなたのことを信じて、恋どうしになったのに、その想いは無惨にも打ち砕かれた。もし里島さんがあなたに対して付き合うことをOKして恋人どうしになったとしても、あなたはそういう酷い仕打ちを今度は里島ちゃんに対してするだろう。俺は、幼馴染として、それを黙って見ていることはできない。今すぐ里島さんのことをあきらめて、この場を立ち去ってほしい」


 古沼と話をし始めて最初の内は。心が沸き立っていたが、話をしている内にだんだん冷静になってきた。


 それに対して、


「俺が里島さんに酷い仕打ちをするだと? そんなことをするわけがないだろうが」


 と古沼は怒気を含ませながら言う。


 古沼の心は沸き立ってきていた。


 こういう時は、冷静になった方が強いはず。


 これなら古沼に勝てそうだ。


 そう思い始めていると、古沼は、


「きみがそう言うなら、里島さんに聞いてみよう。俺と付き合うのか。それともきみの言うことに賛成して、俺とは付き合わないのか?」


 と言った後、春百合ちゃんに、


「幼馴染としての意識しかなく、里島さんのことを好きだと言えない夏居くんと、里島さんのことを熱愛し、幸せにできる俺と、どちらを選択する? もちろん俺だよね」


 と胸を張って、いや、傲然とも言える態度で言う古沼。


 春百合ちゃんは、古沼の方を向くと、


「わたしは夏居くんが、わたしのことをこういう場でも好きだと言ってくれないことに落胆をどうしてもしてしまいました。でもその後、わたしの幸せを願っていると言ってくれました。うれしいことです。古沼くん、わたしはあなたのことをイケメンで魅力的な方だと思っています。モテるということも理解はできます。でもわたしはあなたとは付き合いません。わたしは夏居くんのことが好きです。わたしの幸せを願ってくれる夏居くんが、わたしのことを好きになってくれるまで、いつまでも待ちます」


 と厳しい表情で言った。


「どうしてこんなやつのことを好きでいられるんだ。今までの女性は、俺が声をかければ全員、俺と付き合ってくれたと言うのに……」


「わたしはあなたにいくら言われても、付き合う気はありません。わたしは夏居くんのものなのです」


 さらに厳しい表情で言う春百合ちゃん。


 俺は、こういう表情をしている春百合ちゃんを生まれて初めて見たと言っていい。


 俺のことをそこまで想ってくれている。


 俺の心は熱くなり始めるともに、嫌な存在だと思う気持ちは弱まっていく。

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