第31話 俺は春百合ちゃんを守る
古沼に対してどう反撃をしていくか?
いや、それ以前に、俺は春百合ちゃんのことを、本当に好きではないだろうか?
俺は今まで、春百合ちゃんを嫌な存在だと思ってきた。
しかし、決して嫌いなタイプではない。
それどころか、タイプ的にはむしろ好きな方だ。
そして、なんと言っても春百合ちゃんは、幼い頃から俺のことを「好き」だとずっと言ってくれっていた。
幼馴染としての「好き」だったとはいうものの、好きなタイプになる理由の一つだった。
しかし、その気持ちは長年抑え込んできた。
抑え込んできたというよりは、その度に、嫌になる気持ちの方が大きくなり、抑え込まれてきたと言っていいだろう。
そして、嫌いなタイプとまではいかなかったが、決して好きなタイプではないと思いこもうとしていたのだった。
ただ、小学生の頃まではそうしてこられたのだが、中学生以降、思春期を迎えると、時々ではあったものの、春百合ちゃんの魅力に心を動かされるようになってきた。
それでも、その度に嫌な気持ちの方が卓越して、その気持ちを抑え込んでいたのだが……。
俺は一度、この春百合ちゃんのことを嫌な存在だと思ってきた気持ちと、きちんと向き合う必要があると思うようになってきた。
とはいうものの、今ここでというわけにはいかない。
春百合ちゃんへの思いはそれだけ複雑なものがあった。
ではここでの古沼への返事はどうするべきだろうか?
今この時点では、春百合ちゃんのことを好きだとはいえない。
しかし、好きになろうとする努力はしていきたい……。
俺の心の中で、様々な思いが浮かんでいると、古沼は、
「返事はできないようだね。ということは、きみは里島さんのことを好きではないということだ」
と言って、俺のことをあざけり笑う。
そして、
「浜海ちゃんはわたしのこと、結局、ただの幼馴染だとしか思っていないのね……」
とつぶやいた後、うつむいてしまった春百合ちゃんに対し、
「俺の思った通り、夏居くんは里島さんのことを好きではなかった。ただの幼馴染としか思っていなかったということだ。もうこんな男のことは無視して、俺とこれからの人生を歩んでいこう」
と言って、春百合ちゃんの方を向き、手を握ろうとする。
春百合ちゃんは、俺が返事をしないことに落胆しているのか、うつむいたまま。
このままでは、古沼が春百合ちゃんの手を握ってしまう!
そして、古沼の強引さに押し切られて、付き合いを始めてしまう!
俺は、今の俺は、まだ春百合ちゃんのことが好きにはなれない。
しかし、だからと言って、春百合ちゃんがこの男の餌食になるのを黙って見ているほどの、情けない男ではない。
俺の中で急激に春百合ちゃんのことを守ろうという意識が高まってくる。
春百合ちゃんには幸せになってほしい。
俺は古沼が春百合ちゃんの手を握ろうとする瞬間。
「古沼くん、ちょっと待て!」
と呼びかけた。
古沼は驚いて、俺の方を向く。
「俺に返事をする気になったようだな。まあ、どんな返事かは知らないが、聞いてやることにしよう」
依然として、俺のことをおちょくるような態度だ。
「ではあなたに返事をしよう」
俺はそう言った後、一旦言葉を切った。
春百合ちゃんは俺が守る!
そう強く思った後、俺は心を整えた。
そして、話をし始める。
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