第29話 イケメン古沼、行動開始
春百合ちゃんが反撃を開始しない以上、俺単独で反撃するわけにもいかない。
まずは、春百合ちゃんが動き出してからということになる。
古沼は春百合ちゃんと何としてでも付き合いたいのだろう。
次々に甘い言葉を投げかけてきた。
言葉だけでなく。声音も甘い。
「俺の家は資産家だから、きみにいろいろ贅沢をさせてあげることができる。里島さんのことが、とても好きなんだ。俺はきみの為なら、すべてを捧げることだってできる。才色兼備で、誰に対しても分け隔てなくやさしい里島さん。わたしはそんなきみに心を奪われてしまったのだ。ああ、愛しい里島さん。俺は君にとことんまで尽くしたい。このきみのことを想う気持ち、俺の全力をもって伝えたい」
こういう言葉に、何人の女性たちは心を奪われてきたのだろう。
「さあ、俺と付き合って、恋人どうしになり、一緒に幸せの階段を上っていこう。きみのことを幸せにできるのはただ一人。俺だけなんだ」
古沼は甘い声音でそう言うと、春百合ちゃんに手を差し伸べてくる。
春百合ちゃんは蒼ざめた表情のまま。
俺はその手を春百合ちゃんから遮ろうと思った。
もし、春百合ちゃんが、その手を握ってしまったら、告白を受け入れたことになってしまう。
そんなことをさせるわけにはいかない。
古沼は上辺でしか女性を大切にしない男だということは、今までの女性遍歴からも容易に想像できることだ。
春百合ちゃんも、古沼と付き合うようになったら、一か月程度は楽しい時間を過ごせるかもしれない。
しかし、今まで付き合った女性たちに対する対応からすると、遅くても半年で飽きて、新しく好きになった女性に乗り換えるのは間違いなさそうだ。
そうなれば、普通の失恋以上に心の痛手は大きくなると思う。
実際、今まで付き合った女性たちの中には、心を病んでしまった人もいるようだ。
春百合ちゃんにそういう目には合ってほしくはない。
合ってほしくはないんだけど……。
普通、このような甘い言葉、甘い声音で話をされたら、心は動いてしまうと思う。
春百合ちゃんも例外ではないかもしれない。
春百合ちゃんがそれを受け入れるというのであれば、どうにもならない。
それに今までの俺は、春百合ちゃんのことを嫌がってきた。
そういう俺が、春百合ちゃんの選択に対して、介入をする権利はあるのだろうか?
いや、ないと思う。
春百合ちゃんが古沼を選択したとしても、何も言う権利はない。
ただその選択をしないように願うだけだ。
古沼は、春百合ちゃんに差し伸べようとしていた自分の手に、春百合ちゃんはその手を差し伸べる様子がないので、自分の手を一旦途中で止めていた。
しかし、
「さあ、一緒に幸せになろう。ます手と手を握り合おう」
と言って再び手を差し伸べてくる。
俺は黙って見ているしかなかった。
春百合ちゃんに選択にまかせるしかなかった。
しかし、それでも春百合ちゃんが古沼を選択しないように願っていた。
ただ……。
以前にも同じようなことがあった気がする。
そういう気持ちが急激に湧き出してきた。
幼馴染は、俺と仲が良く、恋人どうしになっていたこと。
その幼馴染が女性経験豊富なイケメンに心が動かされてしまったこと。
そして、その幼馴染がそのイケメンに寝取られてしまったこと……。
そういうシ-ンが心の中で次々に浮かんでくる。
今まで生きてきて、そういう経験をしたことはない。
しかし、どこかでそういう経験をした気がする。
春百合ちゃんが先程言っていた前世でのことだろうか?
俺の中では、まだ前世というものの存在は信じられないでいる。
でもこのままでは同じような経験をしてしまうという思いが、心の底から湧き出してくる。
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