第27話 甘い声で話しかけてくる
春百合ちゃんが告白されてから、時間が経てば経つほど、嫌な思いが増してきた。
春百合ちゃんがもし古沼の告白を受け入れたとしても、決して長続きすることはない。
やがて、捨てられてしまうだろう。
一人の女性を愛し続けるというタイプではないからだ。
他の男はともかく、古沼の告白だけは受け入れてほしくはないと思っていた。
しかし、その後古沼は、春百合ちゃんのことなど忘れたように、女性遍歴を続けていた。
それに伴い、もう一度アプローチをしてくる可能性は低下したものと思い始めていた。
さらに、高校も違うところに通うことになったので、もうアプローチしてくる可能性はないだろうと思うようになってきた。
しかし……。
俺は、高校生になってから、春百合ちゃんが古沼の告白を受け入れて、一緒に楽しそうに過ごしているという夢を見るようになっていた。
毎日ではなくて時々だったし。目覚めた後、しばらくの間断片的に思い出すぐらいだった。
それでも古沼が登場して、春百合ちゃんと楽しくする夢を見るということは、俺にとっては決して楽しいこととはいえない。
もしかして、また春百合ちゃんに告白をしてくるのでは?
今度告白してくる時は、告白を受け入れるまで、甘い言葉を懸け続けるのでは?
古沼の攻勢から、春百合ちゃんを守りたい!
そう思い始めていた時に、古沼が声をかけてきたのだった。
「俺、春百合ちゃんのことが、好きで、好きでたまらないんだ、もう春百合ちゃんのことしか頭になかった。今日も、春百合ちゃんのことを想いながら学校から帰っていて、この公園は通り道だから歩いていたんだ。そうしたら、春百合ちゃんがいた。これは、春百合ちゃんと俺が赤い糸でつながっているということだよね。俺、感動して、涙がでてきちゃったよ。ああ、会えてよかった」
古沼が春百合ちゃんに甘い声で話しかける。
悔しいことだが、古沼はイケメンの上に、美しい声をしている。
モテるのも理解はしたくはないが、理解をしてしまう。
春百合ちゃんがこの甘い声にうっとりしなければいいのだけど……。
俺がそう思って春百合ちゃんの方を見ると、驚くべきことに、うっとりするどころか、少し蒼ざめているように思える。
ただいきなり返事をすることは、相手に失礼だと思っているのだろう。
そういう気づかいをする人だ。
俺は古沼のことがもともと好きではなく、春百合ちゃんを古沼のものにはしたくないので、すぐにでも、
「お前のようにすぐ女性を捨てる男と春百合ちゃんが付き合うのは、幼馴染として認めるわけにははいかない!」
と言って反撃をしたかった。
通う高校が違った今でも、古沼の情報は、聞きたくもないのに入ってくる。
それだけ古沼のイケメンぶりは鳴り響いているということだろう。
それによると、中学校三年生の時には合計で七人と付き合っていたそうだ。
その中では、二股をしていた時期もあるし、よりを戻した女性もいる。
今は、すべての女性と別れて、フリーになっているそうだ。
しかし、古沼と別れた、いや古沼が捨てたといっていい女性たちの多くは、古沼のことが忘れられないとのことで、よりを戻そうとしていた。
以前。よりを戻すことを一度はできた女性たちがいるので、全員、希望を持って動いていた。
古沼の都合のいいように利用されている気がする。
俺はその中の女性の一人である琴月(ことつき)つやのさんに、中学校三年生の時、相談を受けたことがある。
中学校三年生以降、俺のところにます男子の方から相談が来るようになった。
俺が頼りになる男だということを、大七郎が周囲の人たちに話すことによって、伝わり始めたからだと思う。
中学校二年生の終わり頃、俺は大七郎に相談を受けたことがあった。
「俺、だんだんテニスに自信がなくなってきているんだ。ここのところの試合で、連続で負けてしまっていて、もう勝てないんじゃないかと思ってしまっているんだ」
いつも自信満々で軽口をたたくことも多い大七郎が初めて見せた弱い姿だった。
「寿屋子ちゃんに自分がつらい思いをしていることを話したのか? お前たちは恋人どうしだから、まず話をすべきだと思うよ」
俺がそう言うと、大七郎は、
「いや、それはできない。俺は寿屋子ちゃんの前では、力強い英雄でいたいんだ」
と力なく言う。
そんな大七郎に対し、俺は、
「俺の口からは、『そんな弱気なことでどうする』と『お前らしくない。お前はもっと強い男だろう?』とか『努力が足りないんだから、もっと努力していくしかない』と言うことはできない。お前が毎日一生懸命努力していることは、俺もわかっている。今必要なのは、更なる練習ではないと思っている。むしろ、少し気分転換が必要だと思う、例えば、寿屋子ちゃんとデートをするとか、そういうことだ。お前たちは、恋人どうしになったというのに、デートをしたのは数回だそうだからな。これを機にもっとデートをした方がいい。そして、そのデートでお前の悩みを寿屋子ちゃんに伝えるべきだ。そうすれば、きっと寿屋子ちゃんはお前のことを癒してくれる。お前たちは、幼馴染であり、恋人どうしなんだ。遠慮し合うことなど何もない。そうして、それで気分転換ができれば、またテニスに力を言えることができるようになるはずだ。とにかく今は、無理にテニスに打ち込むと余計に悩みが深まっていくと思う。一日だけでいいから、そういう楽しくて癒しのある一日を作るべきだと思う」
と言った。
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