第26話 イケメン古沼登場

「里島さん、俺だよ。古沼好冬(こぬまよしふゆ)!」


 春百合ちゃんに声をかけてきたのは、古沼。


 小学校と中学校の時は、俺たちと同じ学校だったが、高校は別になった。


 イケメンで、小学校の頃からモテていた。


 中学生の時は、学校一のモテ男と言われていたものだ。


 俺とクラスは一緒になったことはなかったので、話をしたことはなかったが、その噂は聞きたくもないのに聞こえてきていた。


 既に十人近くの女性と付き合ってきたと言う話だが、驚くべきことに、同時に二人の女性と付き合っていた時期があったとのこと。


 いわゆる二股というやつだ。


 俺はそういう話を聞くだけでも、古沼に好意を持つことはできなかった。


 どちらかといえば、好きではないタイプだ。


 でも、そこまでの話であれば、まだ驚くだけの話ですんだだろう。


 ところがこの古沼は、俺にも影響のあることをしていたのだった。


 それは、春百合ちゃんへのアプローチ。




 中学校三年生の春、古沼は春百合ちゃんを校舎の外れに呼び出して、


「俺はきみに惚れている。俺と付き合ってくれない?」


 と言って、告白を行い、交際を申し込んでいたのだった。


 とはいっても、「真剣な交際の申し込み」というよりは、どちらかと言うと、「ナンパ」のような乗りだったようだ。


 しかし、春百合ちゃんは、


「わたしには夏居くんという大好きな幼馴染がいるので、申し訳ありませんが、お付き合いはできません」


 と言って断った。


 古沼はそれまで女性に声をかけて、失敗をしたことがなかったので、大変驚いたようだった。


「こんなイケメンの俺を振っていいの? これほどのいい男はいないよ。きみは俺と付き合う為に生まれてきたんだ。俺はきみを楽しませることができる男だ。きっと素敵な世界に招待することができるだろう」


 と古沼は甘い口調で言った。


 こういうことを甘い口調で言われたら、心を動かす人も多そうだ。


 でも春百合ちゃんは、


「わたしには夏居くんしかいないんです。申し訳ありませんが、あきらめてください」


 と言い返したそうだ。


 古沼は、


「そこまで言われたら仕方がない。一旦はあきらめよう。でもいずれまたきみにアプローチしたいと思っている。その時は絶対にきみの心をものにしたい」


 と言って、その場を去っていった。


 春百合ちゃんは、告白をされる度に、律儀にも俺に報告をしてくれていた。


 俺としては、他の男の恋人になってもいいくらいに思っていたので、春百合ちゃんが告白を断ったという報告を聞く度に、


「俺のことを気にせず、付き合えばいいのに」


 と思っていた。


 とはいうものの、本人にはそういうことはなかなか言えないので、


「どうして告白を断ったの?」


 ということを毎回聞くようにしていた。


 すると春百合ちゃんは、それに対して必ず、


「わたしの好きなのは浜海ちゃんだけ。浜海ちゃん以外に心を動かす男の人はいないの。それは、今だってそうだし、これからもそうなの」


 と言ってくれていた。


 俺に対して、律儀に報告をするのも、俺のことしか好きになることはないからだと言っていた。


 古沼の告白の時も同じやり取りをしていたが、またアプローチをすると言ってはいたというものの、他の告白者と比べても、時間は短い方だったということで、その告白を聞いた時点では、それほど心に残る存在ではなかった。


 しかし、イケメンで人気があるので、以前から好意は持てないタイプだった。

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