第22話 わたしは浜海ちゃんのことを想い続けていく

 俺は春百合ちゃんに話をした。


 春百合ちゃんのことを嫌に思っているという内容だったので、これだけでも幻滅される可能性があると思っていた。


 それならばそれで構わないと思っていたのだが……。


「浜海ちゃん」


 春百合ちゃんの表情は穏やかだった。


「わたし、物心がついた頃から、浜海ちゃんがわたしのことを嫌がっていることは、幼い心ではあったけど、認識はしていたの。浜海ちゃんが今話をしてくれた通り。周囲の人たちは、浜海ちゃんがわたしのことを避けているだけで、子供にありがちな異性に対する態度だと思っていたようだった。でも、そういうものではなかった。わたしのことを心の中の相当深いところで嫌がっているように、幼い心ながら思っていた。言葉には出していなかったというのは、浜海ちゃんの言う通りだけど、態度でそれは認識できるから」


 俺は春百合ちゃんの話を黙って聞いている。


「大七郎ちゃんも寿屋子ちゃんも、浜海ちゃんがわたしのことを、恥ずかしさから避けているだけで。歳を重ねてくれば、浜海ちゃんとわたしが同じようなカップルになることを期待していたように思う。でも浜海ちゃんのわたしに対する気持ちは、幼い頃から変化がないようだった。わたしのことを避けているだけだったら、多分、気持ちは変化しただろうと今ででも思う。変化がないということは、わたしを嫌に思う気持ちが変化しない、もしくは逆にその気持ちが強くなっていると思った。それで、このままだと仲良くなるのは難しいと思っていたの。ただ、それにしても、浜海ちゃんがわたしのことを嫌に思う理由がわからなかった。幼い頃からのことを思い出してもわからない。浜海ちゃんに迷惑をかけたことはないと思ったし、浜海ちゃんの悪口を言ったこともない。まして、浜海ちゃん以外の男性に心を動かされたこともないの。それは理解をしてほしいと思っている。浜海ちゃんがわたしのことを嫌がっている理由はわからない。でもわたしは浜海ちゃんのことが好き。もし浜海ちゃんがわたしのことを嫌いになったとしても、わたしは浜海ちゃんのことを想い続けていく」


 俺は話を聞いている内に、心が沈んできた。


「春百合ちゃん、俺は、そこまで春百合ちゃんに好かれる理由がわからない。俺は春百合ちゃんのことを嫌に思っているし、さっきは、言葉でもそう言った。それなのに、俺に幻滅するどころか、『浜海ちゃんのことを想い続けていく』とまで言ってくれている。普通だったら、とてもうれしい言葉だ。でも俺には、そう言ってもらえる資格はないと思っている。俺は今日春百合ちゃんと話をするまで、春百合ちゃんには、つり合いがとれて。ふさわしい男性と結婚することを望んでいた。その方が俺も気持ち的に楽だ。そして、春百合ちゃんにとっても幸せなことだと思っていた。でも今日、春百合ちゃんの想いを聞いて、心が沈み始めている自分がいる。春百合ちゃんは俺のことをこんなに想ってくれているのに、依然として俺の心の底では、春百合ちゃんに対する嫌な想いが弱くなっていかない。なぜこういう心になってしまうのだろう? 普通だったら、春百合ちゃんに心が傾いていくはずなのに? 俺は一体これからどうするべきなんだろうと悩み始める自分がいる」


 おさまってきていた頭痛が、また少しずつではあるが盛り返し始めていた。

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