第21話 他の男に寝取られてしまうという思い

 春百合ちゃんは、


「俺のことしか好きになったことはない」


 と言っている。


 こういうことを言ってくれる女性は、今までもいなかったし、これからも現れるとはとてもではないが思えない。


 そういう素敵な女性の告白を受け入れなければ、後で絶対に後悔する。


 そういう思いは強くなってくる。


 だが、そう思っていくと、また頭痛が増してくる。


 そして、


「今は俺のことだけを想っているかもしれない。でも、それは今だけの話。いずれ他の男に寝取られてしまうのだ」


 という思いがまたしても心の中を占めてくる。


 この二つの思いが、俺の心の中で戦っていた。


 今までは、告白された場合、断ろうと思う気持ちが強かった。


 でも今はそうではない。


 春百合ちゃんは、俺のことを恋の対象として好きだと言っている。


 そして、俺のことしか思っていないと言っている。


 想像以上に俺のことを想っていて、ヤンデレ気味と言えるかもしれない。


 ここまでの気持ちを持っているとは思わなかった。


 その気持ちを思うと、断ることは難しい。


 しかし、そうは言っても、「寝取られ」の恐怖は心を覆ってしまうほどの勢いだ。


 俺の心はいったいどうなっているんだ?


「寝取られる」という話以前に、このまま相反した思いが心の中で戦いを続けていくと、やがて、心が壊れてしまう気がする。


 しかし、俺はなんとか心を立て直し始める。


 この告白に対しては、きちんと返事をしなければならない。


 その前に、ここまで春百合ちゃんは、俺のことを想ってくれるのだから、今、俺が思っていることを春百合ちゃんに伝えることが必要だ。


 今までの俺は、春百合ちゃんと向き合ってきちんと話をしたことがない。


 この機会に、きちんと話をしよう。


 それで春百合ちゃんが俺のことを嫌いになればそれでもいい。


 幼馴染としての関係が壊れるかもしれない。


 でもそれも仕方のないことだ。


 逆に、俺のことがもっと好きになる可能性もないとはいえない。


 もしそうなった場合は、春百合ちゃんの想いを受け入れる方向で検討しなければならないと思っている。


 とはいっても、その確率はとても低いものだと思う。


 どちらの方向になるにしても、正式な返事については、時間をもらうことにしたい。


 そう思った俺は、少し頭痛がおさまってきたので、春百合ちゃんに話をすることにした。


「春百合ちゃん、話をさせてもらえるとありがたい」


「もう大丈夫なの?」


「まだちょっと頭痛が残っているけど、話はできそうだ」


「それならいいんだけど。無理はしないでね」


「うん」


「春百合ちゃんは、告白の返事を聞きたいのだと思う」


「うん。聞きたいと思っているの」


「でもその前に俺の話を聞いてもらえるかな。この話をしないと、これからの俺たちの関係は、進まないと思っているんだ」


「それだけ大切な話なのね」


「そういうことになる。大切な話だ」


 俺は心を整えると、話を続ける。


「俺は春百合ちゃんと物心がついた時からの幼馴染。でもなぜかわからないのだけど、春百合ちゃんのことを嫌な存在だと思っていた。嫌いとまでは言わないが、一緒にいるのがいつも苦痛だったんだ。でも、そのことを誰にも言ったことはない。大七郎にも寿屋子ちゃんにも言ったことはない。春百合ちゃんにも、言葉で言ったのは、これが初めてだと思う。周囲の人たちは、春百合ちゃんに対して恥ずかしがっているだけだと思っていてくれていたけど、そうではなかったんだ。嫌な気持ちをずっと持ち続けていた。それでなるべく春百合ちゃんのことを避ける方向になっていた。俺っていうのは、こういう冷たい男だ。もし、俺のことをこれで幻滅するのであればしてもらった方がいいと思っている。そうすれば、告白という手間がかかることをわざわざすることはなくなるだろう」


 春百合ちゃんの反応は気になる。


 しかし、俺はそれでも一気に言い切った。

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