第20話 恋人どうしになりたい

 春の美しい夕方。


 風は少し冷たくなってきた。


 公園の中のベンチの前にいる俺たち。


「浜海ちゃん、わたしに付き合ってくれてありがとう」


 春百合ちゃんは少し恥ずかしそうだ。


 俺が思っている通り、恋の相談ごとなのかもしれない。


「それで、俺に話って? 相談ごと?」


 俺がそう言うと、春百合ちゃんは。


「相談ごとと言えば相談ごとになると思う」


 と少しうつむきながら話す。


「俺じゃ多分役に立たないかもしれない。それでよければ話を聞く」


 俺はこの瞬間、春百合ちゃんへの嫌な思いは薄まっていた。


 それだけ春百合ちゃんの力になりたいと思っていたのだと思う。


「ありがとう」


 春百合ちゃんはそう言った後、気持ちを整えた。


 そして、


「わたし、浜海ちゃんのことが好き。今までは幼馴染として好きだったけど、今は恋の対象として好きなの。わたし、浜海ちゃんの恋人になりたい」


 と恥ずかしがりながら、しかし、しっかりとした声で俺に言った。


 俺は最初、その言葉の意味がわからなかった。


 しかし、すぐに、それが俺への告白を意味するものだと理解をした。


 俺は春百合ちゃんに告白された場合、どういう対応をするべきか、その対応策を立てられないままきていた。


「好きな人を寝取られる」


 そのことを避ける為、断るしかないとは思ってはいたのだが、そうなると春百合ちゃんの悲しい表情を見ることになってしまうので、それを対策案にするのは躊躇せざるをえなかった。


 そうして迎えたのが、今日の告白だった。


「わたしは物心がついた時から、浜海ちゃんのことしか好きになったことはないの。浜海ちゃんこそがわたしの生きている意味。浜海ちゃんと一緒に歩めない人生なんて、何の意味もない。わたしは浜海ちゃんのもの。浜海ちゃん、大好き!」


 浜海ちゃんは、奔流のごとく、俺に対する想いを伝えてくる。


 その気持ちは理解できないわけではない。


 いや、これほど俺のことを、一途に好きでいてくれている子のことを嫌いになるわけがない。


 しかし……。


 そう言われれば言われるほど心がうずいてしょうがない。


 俺に対して今は熱い気持ちを持っているのかもしれない。


 でも、それは長続きするのだろうか?


 急に冷めてしまい、他の男性に心を奪われ、寝取られてしまうのでは?


 まだそういう経験はないはずなのに、その気持ちが急速に心の中を占めてくる。


「頭が痛い……」


 俺が頭を押さえて苦しみだすと、春百合ちゃんは、


「浜海ちゃん、大丈夫?」


 と心配そうに言う。


 でも、春百合ちゃんにそういうやさしい言葉をかけられると、なおさら頭痛は増してくる。


 それでも俺は、


「大丈夫、少し休めばおさまると思う」


 と気丈にも言って、ベンチに座る。


「浜海ちゃん、お医者さんに行った方がいいのでは? わたしもついていくから」


「いや、大丈夫だ。このまま五分ぐらいすればおさまってくると思う」


 俺はこの頭痛を一過性のものだと思っていたので、そう言った。


 春百合ちゃんは、


「じゃあ、少し休むことにしましょう。でも五分経ってもおさまらないようだったら、お医者さんのところに行きましょう」


 とやさしく言ってくれた。


 普通だったら、こう言われれば、心が傾くと思う。


 しかし、それでも俺は春百合ちゃんの存在を嫌なものだと思う気持ちがある。


 どうしてここまで俺は春百合ちゃんを受け入れることができないのだろう?


 春百合ちゃんは俺のことを想ってくれている。


 そのことを心の底では理解しているというのに……。

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