第19話 二人で歩く
春百合ちゃんの言っている公園は、大七郎と寿屋子ちゃんの家の近くにある。
昔住んでいたマンションからも近い。
幼い頃は、四人でよく遊んだものだ。
今住んでいる春百合ちゃんの家と俺の家からは、それぞれ七百メートルほどの距離。
ほどほどの大きさがあり、木々に覆われていて、近所の人たちの憩いの場になっている。
ただ、今日は平日で、もう夕方になってきているので、今の時間であれば、人は少ないと思われる。
二人で話す場所としては、学校の中よりも良さそうだ。
「じゃあ、そこにしよう」
俺は春百合ちゃんにそう言った。
こうして俺たちは、公園で話をすることになった。
公園に向かう俺たち。
会話は二人ともないまま。
最近は、二人だけでこうして歩くことはほとんどなくなっていた。
幼い頃は、二人だけで歩いていても、緊張することはなかったが、それは春百合ちゃんのことをただの幼馴染と思ってきたからだろう。
しかし、今は、俺も思春期。
嫌に思っていた相手も、ここまでの美少女になってくれば、緊張しない方が無理な話だ。
胸のドキドキが少しずつ大きくなってきている。
これは俺にとって、計算が違う話だった。
普段通り冷静な対応ができると思っていた。
長年、嫌に思っている相手だから、緊張することはないと思っていた。
それがこのままだと難しくなり始めている。
春百合ちゃんと一緒にいる時間が長くなればなるほど、胸のドキドキが大きくなって、心が壊れてしまう気がしていた。
俺は春百合ちゃんに心を動かされ始めているのだろうか?
いや、そんなはずはない。
今まで春百合ちゃんのことを嫌がっていた俺だ。
でも、この気持ちは今までとは違うものだ。
心がどんどん沸き立ってきている。
ああ、このままでは心が壊れてしまう……。
こうなったら、なるべく短い時間で、ちゃんにアドバイスができるようにしたい。
そう思いながら。公園に向かって歩いていた。
俺たちは公園の中に入った。
新緑の季節になっていて、さわやかな風が吹くようになり、公園の木々も薄い緑に覆われてきている。
近くに人はほとんどいない。
俺は春百合ちゃんと二人きりで話をするのは、嫌な気持ちが根底にあった。
しかし一方では、心が沸き立ってきていて、苦しい思いもしていた。
俺は公園の中に入ると、新緑のさわやかな空気を吸いながら、心を整えようと努力した。
そして、
「悩みを相談したいということだと思うので、きちんと力になっていこう!」
という思いに自分の心を集中させることにした。
その甲斐あって、次第に俺の心は集中し始める。
これならば、春百合ちゃんの相談に対応することができそうだと思った。
それにしても何の悩みで相談しようとしているのだろう?
俺は改めてそう思う。
相談ごとと言えば、まず思いつくのが恋の相談。
大七郎と寿屋子ちゃんは中学二年生から付き合っているが、中学生の時までは異性と付き合ったことのない人たちの間でも、続々とカップルが誕生していた。
春百合ちゃんも好きな男子生徒ができたのだろう。
恋のことであれば、本来は寿屋子ちゃんに相談すればいいと思う。
俺はまだ女性と付き合ったことはないので、恋の相談ごとをされても困るところがある。
でも、その恋が成就すれば、もう俺は春百合ちゃんと一緒にいないでも良くなる。
嫌な思いをしないでもよくなるのだ。
力になれるかどうかはわからない。
しかし、相談には乗ってあげよう。
嫌な思いをしてきたとはいっても、幼馴染として一緒に今まできた女性だ。
そう思いながら、俺は春百合ちゃんと話をしようとしていた。
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