第17話 俺と話をしたい春百合ちゃん

 それからも俺たち四人の状況は以前と変わらないまま過ぎていく。


 少なくとも夏になるまでは、このままの状態で進むのではないかと思い始めていた。


 しかし……。


 ゴールデンウィークが間近にせまってきたある日の放課後。


 もうほとんどのクラスメイトが教室を離れていた。


 大七郎と寿屋子ちゃんも、俺たちにあいさつをした後、教室を離れていた。


 大七郎も寿屋子ちゃんは、中学校でもテニス部に入っていたが。高校になってもテニス部に入っていて。部活に向かっている。


 大七郎は中学生の時、テニス部のエースだったが、高校生になってからもエースとして期待をされているようだ。


 俺も帰ろうとして、ドアの方向に向かおうとしていると、


「浜海ちゃん、今日これから時間ある?」


 と言ってきた。


 帰宅部の俺だが、家に帰れば家事をしなければならない。


 そして、ギャルゲー、勉強とすることは一杯ある。


 俺は、


「俺には時間はないんだ。それじゃ、俺は帰る」


 と言ってその場を去るつもりだった。


 しかし、春百合ちゃんは、今までにない真剣な表情をしている。


 何か話したいことがあるに違いない。


 高校入学後、まだそれほど周囲の人とは話をしていない俺。


 今のところ、いつも話をしているのは大七郎ぐらいしかいない俺と違って、春百合ちゃんは、すぐに周囲の人と話すようになっているので、話の相手に事欠くことはないだろう。


 ちょっとした悩みならば、親友と言っていい寿屋子ちゃんもいる。


 それなのに俺に声をかけてきたというのは、悩みの相談なのかもしれない。


 もちろんただ雑談がしたいだけの可能性はなくはない。


 しかし、俺たちは幼馴染。


 悩みの相談の可能性があるとしたら、相談に乗るべきだろう。


 気乗りはしないが、相談に乗るぐらいの時間は作ってもいい。


 いや。まだ春百合ちゃんは話がしたいとも言っていない。


 推測でどんどん考えを進めてもしょうがない。


 まずは、時間があることだけを伝えよう。


 そう思った俺は、


「時間はあることはあるな。少し付き合ってあげてもいいよ」


 と言った。


 すると春百合ちゃんは、


「ありがとう」


 と言った後、


「申し訳ないんだけど、わたし、浜海ちゃんと二人きりで話をしたいことがあるの」


 と言ってきた。


 今までも春百合ちゃんは、俺と二人きりで話したいと言ってきたことはある。


 しかし、今日の春百合ちゃんは、今までと雰囲気が違う。


 俺は春百合ちゃんと、二人きりで話すのは、いつも気乗りがしなかった・


 しかし、今回は、かなり悩んでいる様子なので、話を聞かないわけにはいかない。


 嫌な思いをするとはいっても、幼馴染なのだ。


 悩んでいるというのであれば、相談に乗ってあげて、助けなければならない。


 俺は、


「じゃあ、これから、校舎の外れに行って話すことにしない? 春百合ちゃん、今日の部活はないんでしょう?」


 と聞いた。


 春百合ちゃんは、美術部に入っている。


 幼い頃から、絵の才能を周囲に認められていたこともあって、周囲の評価は高い。


 今まで各コンクールに絵を出したことはないが、周囲からは挑戦をすすめられていた。


 とはいうものの、絵を描くことそのものは好きで熱中しているのだが、画家の道に進む気はないという話。


 したがって、コンクールにも絵を出す気は今後もないようだ。


 趣味の一環と割り切っているのだと思う。


 中学生の時入っていた美術部では。主に風景画を描いて、その才能を発揮していた春百合ちゃんだったが、高校に入ってからも、風景画を中心に描いていくようだ。


 しかし、趣味の一つであるアニメのキャラクターについても描くことは多い。


 オリジナルのキャラクターを描くことも増えてきた。


 春百合ちゃんの描くキャラクターはみなかわいい。


 この点では、俺は春百合ちゃんのことを尊敬している。


 オリジナルのキャラクターでの同人誌を出してもいいのではないかと思っているが、美術部で絵を描く方を優先しているので、なかなか難しいかもしれない。


 でもいずれは出してもらえるといいなあ、という気持ちを持っていた。


 春百合ちゃんは、俺が、


「今日の部活はないんでしょう?」


 と言ったのに対し、


「うん。今日は部活がないので、これから話をしたいと思ったの。学校内で、とも思ったんだけど、それよりも浜海ちゃんの家で話をしたいと思った。でも、幼い頃ならそれができても、今の様に心の距離がある状態では、浜海ちゃんの方も抵抗があることは理解している。しかし、それでも、もし、浜海ちゃんさえよければ、浜海ちゃんの家で話がしたいと思っているの」


 と応えてきた。

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