第7話 これまでの人生

 俺は夏居浜海(なついはまうみ)。高校一年生。


 今日、入学式を迎えようとしていた。


 桜が咲いていて、吹く風も柔らかいものになってきていた。


 俺が校舎に向かって歩いていると。


「おはよう!」


 という声が後ろから聞こえてきた。


 俺が立ち止まると、幼馴染の位棟大七郎(いとうおおしちろう)と初町寿屋子(はつまちすやこ)ちゃんと里島春百合(さとしまはるゆり)ちゃんがやってきた。


「浜海、寿屋子ちゃん、そして、春百合ちゃん、これからもよろしくな。高校二年生でも、いい思い出をたくさん作っていこうぜ!」


 大七郎がそう微笑みながら言うと、寿屋子ちゃん、そして春百合ちゃんも微笑んだ。


 俺は今までの人生を思い出していた。




 俺には幼馴染が三人いる。


 大七郎と寿屋子ちゃん、そして、春百合ちゃんだ。


 幼稚園の頃からの付き合い。


 クラスが違うことはあったが、疎遠になったことは一度もない。


 幼馴染だと、結構高校生ぐらいになると疎遠になるという話を聞くが、俺たちにはそういうところが全くない。


 このまま恋愛に発展していけば、理想的な幼馴染との関係ということになるのだろう。


 男性二人、女性二人の組み合わせなので、好きな人がどちらかに偏らない限り、二組の恋愛へと順調に進んだと思う。


 しかし……。


 組み合わせの成立は一組だけだった。


 大七郎と寿屋子ちゃん。


 この二人は、幼稚園の頃から想いを寄せ合っていて、中学校二年生の時に正式なカップルになっていた。


 寿屋子ちゃんはポニーテールの美少女。


 気は幼い頃から強く、やきもちやきということもあって、大七郎が女性と親しそうに話をしていると、


「わたしというものがありながら! 浮気をして! こんなにわたしは大七郎ちゃんのことを愛しているというのに!」


 と言って怒り出してしまう。


 大七郎は、テニス部のエース候補でモテる為、女性と話す機会も多くなる。


 寿屋子ちゃんとしては、それが気に入らないのだろう。


「大七郎ちゃんはわたしのことだけ愛していればいいのよ」


 ややヤンデレなところがあり、大七郎も困惑することはある。

 しかし、キスどころか二人だけの世界にも既に入っていて、ケンカは多いものの、おおむね仲は良好に推移している。


 うらやましい。


 では俺と春百合ちゃんの方はどうなのかと言うと……。


 俺たちは、物心ついた時には一緒にいた。


 そして、同じマンションの階の、しかも隣に住んでいた。


 大七郎も寿屋子ちゃんも同じマンションに住んでいたが、同じ階ということはなかったので、より一層誓距離にいたということがいえると思う。


 普通だったら、幼稚園の時点で親密な関係を築けるところだと思う。


 しかし、理由はわからないのだが、俺は春百合ちゃんと二人で一緒にいるのが嫌だった。


 嫌いとまではいかなかったが、子供心に嫌な気持ちを春百合ちゃんには抱いていた。


 普通だったら、その時点で疎遠になっていきそうなものだ。


 幼馴染として成立することはなかったと思う。


 ところが、そうはならなかった。


 俺には大七郎と寿屋子ちゃんという親しくなっていた人たちがいた。


 この二人とは自然と仲が良くなっていた。


 春百合ちゃんはこの二人と仲が良かったので、この四人で遊ぶことが多くなった。


 俺はこの中に春百合ちゃんがいるのは嫌だった。


 できれば大七郎と寿屋子ちゃんの三人で遊びたかった。


 しかし、大七郎と寿屋子ちゃんは春百合ちゃんを入れた状態で遊ぶことを好んだので、俺は何も言うことができなかった。


 小学校一年生になる直前に、俺たち四人は、それぞれ一戸建ての家に移っていった。


 今までは、至近距離のところに住んでいたのだが、離れ離れになってしまったのだ。

 

 大七郎と寿屋子ちゃんは隣どうしの家となり、俺の家から五百メートルほど離れたところに住むことになった。

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