第4話 俺の心は壊れていく

 蒼乃ちゃんと俺の家は隣どうし。


 部屋も二階にそれぞれある。


 幼い頃から、夜、両方の窓を開けて、おしゃべりをすることも多かった。


 しかし、今日は、蒼乃ちゃんの部屋の窓は閉め切られている。


 そして……。


 二人の仲睦まじさを伝える声が、小さくではあるが聞こえてくる。


 こちらも窓を閉めていて、聞きたくはないのだが、それでも耳に入ってくる。


 二人だけの世界に入り、幸せ一杯になっているに違いない。


 俺はそれを聞く度に心が壊れていく。


 もういい加減にしてほしい!


 今日一日で、蒼乃ちゃんとの関係は壊れてしまった。


 俺は蒼乃ちゃんの幼馴染。


 幼い頃から、ずっと一緒だった。


 幼稚園から小学校、そして中学校から高校。


 思い出は数多くある。


 幼馴染だと、年を経るに従って、疎遠になることが多いという話は聞いていた。


 しかし、俺たちにはそれはあてはまらなかった。


 高校一年生まで、ずっと親しい間柄だった。


 その間に、俺はだんだん蒼乃ちゃんに恋をするようになっていた。


 俺のことをいつも大切にしてくれてくれたこと。


 特に中学校一年生の時に両親が離婚はしなかったものの別居して、高校一年生になってからは、この家に一人住んでいる俺の家事を助けてくれたこと。


 これが蒼乃ちゃんのことが好きになった一番大きな理由だった。


 ただ、蒼乃ちゃんはどんどん美しくなっていっていた。


 幼い頃からその片鱗はあったのだが、中学生の時点で既に学校一の美少女と言われるまでになっていた。


 高校になってからは、さらにその美しさに磨きがかかっている。


 そんな蒼乃ちゃんに俺は、だんだんつり合いが取れなくなっていると思うようになった。


 それでも蒼乃ちゃんに心が傾いていた俺は、蒼乃ちゃんに告白して、恋人どうしになりたいと思うようになった。


 ただの幼馴染ではいたくなかったのだ。


 蒼乃ちゃんは男子生徒からの人気が高くなっていき、告白する人もでてきていたということもある。


 今のところは断っているようだが、いつ蒼乃ちゃんの心をつかむ男子生徒が現れるかわからない情勢だった。


 そこで俺は蒼乃ちゃんに、高校二年生の始業式後の休日に告白した。


 蒼乃ちゃんとつり合っているとは思えない中での告白で、成功するかどうかは五分五分だと思っていたが、蒼乃ちゃんは俺の告白を受け入れてくれた。


 俺は有頂天になり、その後、デートもすることができたので、幸せいっぱいだった。


 蒼乃ちゃんも笑顔で一緒にいてくれるので、幸せを味わっていたのだと思っていた。


 しかし……。


 それは俺のただの思い込みだったのだ。


 蒼乃ちゃんは池好に告白されると、あっという間に、池好の恋人になってしまった。


 もう俺のことなど全く意識していないだろう。


 幼馴染としての関係まで壊れてしまった。


 もう俺の家事を手伝いに来ることはないだろう。


 一緒に登下校することもないだろう。


 しょせん俺は、池好の魅力に足下にも及ばない人間でしかなかったのだ。


 俺だって、蒼乃ちゃんのことが好きだった。


 結婚して、幸せな生活をしていきたい。


 俺は、そういう夢を思い描き始めていたのだった。


 それがすべて壊れてしまった。


 もう俺は生きる気力を失ってしまったのだ。


 それが体に大きく影響したのだろう。


 その後、間もなく病気になり、入院をした。

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