第3話 俺の声は幼馴染には届かない
俺と蒼乃ちゃんではつり合いがとれない。
そんなことは蒼乃ちゃんから今さら言われるまでもないことだ。
普通だったら、自分で自分のことを、
「学校一の美少女」
などと言うものなら、恰好の攻撃の的になるだろう。
しかし、彼女については、全くそういうことはない。
学校内の誰もがそれを認めるほどの存在だ。
俺が蒼乃ちゃんと付き合うことができたのは、幼馴染であったこと以外の理由は残念ながらないと言っていい。
それはわかってはいるのだけど……。
蒼乃ちゃんの話は続く。
「わたしは冬一郎くんに告白された。わたしにとっては、夢のような話だった。学校で一番のイケメンに告白されたのだから。その瞬間から、わたしは冬一郎くんのものになった。冬一郎くんは、わたしに対する心配りも素敵だった。翌日のデートは心から楽しいものだった。それだけ冬一郎くんがわたしの為に尽くしてくれたということ。あなたともデートはしていた。でもそれは、冬一郎くんとは雲泥の差だった。そこまでしてくれる冬一郎くんのことがわたしは大好きになった。ああ、あの日のキス、そして、二人だけの世界……。今思い出してもうっとりしちゃう」
俺は話を聞いている途中から気分が悪くなってきた。
そんな話、聞きたくない。
蒼乃ちゃんの恋人は俺。
蒼乃ちゃんのファーストキスも、初めての二人だけの世界も、すべて俺が相手になるはずだったのだ。
しかし、俺は何一つ蒼乃ちゃんとはできなかった。
蒼乃ちゃんは、もう俺の手の届かないところに行ってしまった……。
「どうだ、夏井。もう蒼乃さんは俺にラブラブだ。もうあきらめろ」
「俺は、俺は、あきらめたくない……」
そうは言うものの、力が入っていかない。
「まだあきらめないのか。全くしょうもないやつだ。ならば、俺と蒼乃さんの仲睦まじいところをお前に見せつけてやろう」
そう言うと池好は蒼乃ちゃんを抱き寄せて、
「蒼乃さん、好きだ」
と言って唇を蒼乃ちゃんに近づけていく。
「冬一郎くん、好き」
蒼乃ちゃんも唇を近づけていく。
そんなあ!
俺は叫ぼうとするが、言葉にはならない。
そして、重なり合う唇と唇。
俺は呆然として二人のキスを眺めているしかなかった……。
やがて、二人は唇を離す。
池好は、
「これでお前も理解しただろう。蒼乃さんはお前ではなくて、俺を選択してくれたのだ」
と満面の笑みを浮かべながら言う。
「わたし、冬一郎くんのそばにずっといたい」
蒼乃ちゃんも微笑みながら言う。
「どうして、どうして、俺にそこまで打撃を与える必要があるんだ……」
「これぐらいしなければ、お前は蒼乃さんのことをあきらめないだろう。だから、徹底的に打撃を与えることにしたんだ」
「あまりにも酷い……」
「それだけじゃない。今日の夜、俺たちは、蒼乃さんの家で過ごす。蒼乃さんの両親は当分の間はいないということなんでね。そこで、二人の仲をより一層深めていくのだ」
蒼乃ちゃんの家は、俺の家の隣。
池好の言う通り、蒼乃ちゃんの両親は、今家にはいない。
蒼乃ちゃんの父親はこの春から単身赴任をしているのだが、生活環境が安定するまで、母親が一緒についていっているということなので、当分は母親も帰ってこない。
このチャンスをものにしようとしているということだ。
「冬一郎くん、そう言われると恥ずかしい」
もじもじする蒼乃ちゃん。
「これから二人で素敵な世界に旅立っていこう」
池好は、蒼乃ちゃんを再び抱き寄せながら言う。
「何を言っているんだよ、あなたは。どこまで俺に打撃を与えるんだ……」
俺の目から涙がこぼれてくる。
「じゃあ、そう言うわけで、俺たちは素敵な夜を過ごす。蒼乃さん、よろしくお願いします」
「では行きましょう」
二人は蒼乃ちゃんの家に入っていこうとする。
「蒼乃ちゃん、待ってくれ。まだ、話は終わっていないんだ。俺は蒼乃ちゃんが好きなんだ」
俺は蒼乃ちゃんに対して懸命に呼びかける。
しかし、その声は届くことはなかった……。
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