第5話

次の日の朝。朝練があるため、俺は6時に起きる。俺んちは中学がすぐそこで家からも見える。兄貴はまだ寝ている。俺は母親に「おはよう。」と言いシャワーを浴び、髪をセットしてごはんを食べ、家を出た。そういえば昨日の子、何部なんだろう、と思ったがすぐに学校に着く。だいたい俺は1番最初に着く。というよりも1番に着く様にしている。理由は1年でまだまだ初心者だから、モップ掛けや準備をするためにも誰よりも早く着く様にしている。同じくらいに先生が来て鍵を開けて行く。この先生は女バスの顧問だ。今日の朝練は女バスとコートを半分こ、もう1フロアはまるまる女バレが使う。俺は中に入り、ボールを準備し、モップ掛けをした。途中で他の1年も来て一緒に準備する。朝は眠いからそんなに会話は無い。先輩たちが揃うまでシュートの練習をするがそんなに時間は無く、みんな集まり、朝練を開始する。朝練でも同じくコートの真ん中をひたすら往復して走る。そしてタップ練習。朝練は短く30分ほどしか無い。顧問から集合がかかり、朝練は終わる。先輩達はすぐ制服に着替えるが、俺たち1年はこの時間、少しでも自主練をしたいのでぎりぎりまで残る。俺は隼人に1体1をやろうと言った。隼人は背が低いが足が速く、ディフェンスが得意だ。だからよく1対1の練習を一緒にやる。「そろそろ俺に勝てるようになったかな?」と隼人が言う。俺はそんなに隼人に負けた事はない。ただの煽りのパフォーマンスだ。今日は俺も気分が良いから乗ってやる。「おいおい、俺が1回でも隼人に負けたことがあったかよ?隼人こそそろそろ俺のこと止めてみろよ。」思ったより言葉が出た。なぜか今日の俺は燃えているがいい感じに集中している。「おー!上等だよ!」と手首と足首をぐるぐる回している。相変わらずふざけてんな。俺のオフェンス。身長差で勝っても意味が無い。両手でクロスさせるように交互にドリブルをつく。クロスオーバーという。なんでか本当に今日はいい感じだ。俺は左のドリブルが苦手だ。単純に利き手じゃないからだ。俺が左のドリブルをしないのは隼人もよく知ってる。だからそこを狙う。何度かクロスオーバーをした後、右手でボールを持った瞬間に肩を入れ、潜る様に抜き行く。隼人は落ち着いてついてくる。そうだと思った。大きく右足を蹴ると同時に右手で思いっきり左手にボールをクロスオーバーさせる。隼人は意外だったのか動きが遅れる。だが俺も少し左手でボールを取り損ねる。一瞬の隙を見て隼人は離れた俺の方へ詰める。いつもは細かく見えていないが、今日は良く見えていた。隼人が右足を上げ、左足を蹴り出し詰めてくる瞬間、俺は左手のボールをまた右手にクロスオーバーさせた。右手なら多少荒くてもコントロールできる。ちょうど俺と隼人が同時に動き、俺は隼人を抜き去る。ここまでくれば負けない。そのまま俺は隼人を置き去りにしたままレイアップを決めた。これは俺の勝ちだが、なんとなく頭がボーッとしていた。狙っていたがたまたまできた?「うわー今のはやられたわ!今までで1番良かったわ!」と隼人が言う。隼人はこういう時は正直に言う。だが俺の頭にはあまり入ってこない。

「ほら、隼人も来いよ。」と隼人にボールを渡す。相手の方が身長が低いと抜かれ易いため、こっちもかなり腰を落とす。隼人が何か言っていたが全然入ってこない。左でくる、そう思って動いたらやはり隼人は左に来た。止めた。「これは俺の勝ちだな!」と俺が言うと、「まだまだ!」と言って一歩下がり、そこからブサイクなフォームでシュートを打った。お前、そこから届かねーだろ、、、。ボールは全然飛んでおらず、真っ直ぐリングにぶつかった。リングに当てるゲームじゃねーぞ。そのまま俺らとは反対のコートへボールが転がっていく。そっち女バレじゃねーかよ。朝練はとっくに終わっていて着替えも終えていて校舎にみんな向かっているところだった。よりによってそこに転がっていく。なんか昨日もこんな感じじゃなかったっけ?校舎に向かっている子の前をボールが横切り、壁に当たって動きが鈍くなる。その子が少し悩んだ様な動きをした後、ボールを拾ってくれた。優しいな。女バスは結構スルーするのに。同じ学年か先輩かも制服だと分からない。俺はバスケ中は割とガツガツしているため、昨日みたいに吃らなかった。「すいません。ありがとうございます。」わりとハキハキと言う。拾ってくれた子は俺より頭1つ分背が小さく、綺麗な黒髪のショートカットだった。顔は見えてないが、なんとなく見たことあるような気がした。

その子がこっちを見た。その瞬間、さっきまでプレーに集中していた俺はどこかに行き、頭は冴え、鼓動が速くなった。綺麗な二重に大きな目。朝練のせいか少し頰が赤い。それは昨日、公園でボールを拾ってくれた子だった。またかよ!と俺は思いつつ、でも朝から会えて嬉しかった。何か話そう。名前は?そう思っていたがその子は昨日とおんなじ投げ方で俺にボールを投げ、無言のまま友達と走って行ってしまった。ああ、待って!と言えるわけも無く俺はただそのまま後ろ姿を目で追っていた。また名前を聞けなかった。そう思っていたら、その子と一緒にいた、これまた知らない女の子が「さっきやばかったね!」とあの子に話していた。俺のことか?いや何もしてないしなーと思いつつ気になったがその後の会話は聞こえなかった。「はあああ〜。」と言ってため息をついてフロアへ戻るともうみんな着替えていた。やばい、遅刻する!俺はすぐにボールをしまって練習着を脱ぎ、シーブリーズを適当に塗りたくって制服に着替え、ダッシュで教室へ向かった。

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