交差しない気持ち

夜依伯英

交差しない気持ち

【中学一年生の男の子】

 中学に入ってすぐ、僕は彼女に恋をした。それは正しく霹靂だった。ヘキレキ、なんて最近覚えた言葉だけど、僕は彼女の隣に相応しい男になりたいから、勉強も頑張っているのだ。

 彼女は今日も綺麗な黒髪を靡かせながら、トラックを走っている。僕と彼女の距離は、あまりに遠い。それは僕がいる美術部の部室と陸上部が使っているあのトラックとの距離を意味しているのではない。いや、そんなの誰でも分かるか。

 そんな馬鹿な独白の傍ら、僕の視線はしっかりと彼女の身体、滑らかな曲線を描く胸部と臀部、長距離選手らしく引き締まったお腹と脚を舐め回していた。今日はこれで沢山──

「おい、何見てるんだ。集中しろ」

 ああ、先生の邪魔が入った。


【中学三年生の女子】

 先輩は、今どこで何をしているんだろう。一度身体を重ねただけで、私は彼に染まってしまった。ぽっかりと空いた穴をどうにか埋めようと、何人もとセックスをしたけれど、それは刹那の快楽に終わった。

 もう忘れようと、そう決心して、今日も自分に向き合う。この残り二百メートルで、私は生まれ変わるんだ。そんなことを思ったのも束の間、その距離がだんだんと近づく感覚が、私に刻まれた彼への憧憬を再起させる。

 三年になって胸が二サイズ大きくなっても、走り込みでスタイルが良くなっても、或いは休日に覚えたメイクが上達しても、彼へはきっと届かない。そんな虚無感が胸の中に、澱のように留まっていた。

 そんな毎日。それはずっと続くのだと思っていた。でも、その日は違った。部活帰りに習慣化したスマホのチェック。友達じゃないアカウントからのLINEが二件。

『久しぶり、莉奈』

『瑛人だよ! 覚えてる?』

 心臓が飛び上がる。それだけならきっと普通の乙女なのだ。私は下腹部が湿るのを感じていた。


【高校二年生の男】

 ああ、今日の女も外れだったな。顔は八十点。胸盛りすぎだろ。少なくともCはあったと思ったのにな。俺は昨夜のあれを格付けしながら、明日会う女を求めて延々と右スワイプをしていた。しかし、大抵の女は底が知れている。加工厨、貧乳、地雷、地雷系は好きだが本当に爆発するとは聞いていない。人生で二度も刺されるのはごめんだ。

 そうだ。昔抱いた奴がいたな。あいつは俺のことまだ好きだろうな。破瓜の相手が自分であることへの圧倒的自負心。俺は馬鹿な同級生との股間比べで負けたことはなかった。陸上と弓道で鍛えた身体は、夏になれば毎年逆ナンの的になる。

 あいつ、名前なんだっけ。ああ、思い出した。

『久しぶり、莉奈』

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