【2023年12月11日】Web小説『キクナの怨』の第八話

 毎日更新をしているつもりですが、毎日更新できているのでしょうか。

 ずっとスマホで書いているので、画面に表示されている日付を確認すればいいのでしょうが、見てもよく分からなくなってきました。脳があまり働いていないのかもしれません。

 それでも、辛いことを思い出していると自然と指が動くので、まだ大丈夫でしょう。なので、続きを書きます。




 サークルの方でそんなことがありながら、私は相変わらず小説を書いていました。新たに長編をプロットを練りつつ書き進め、短編も執筆し、公開する度にTwitterで宣伝し、似たような活動をしているアマチュアの人たちと互いに励まし、応援し合いながら、ホラー書き、ネット小説作家として活動していました。

 人気作家とは言えませんでしたが、自分の作品を決まって読んでくれる人も数名現れ始め、少ないですが、他者から評価してもらえるようになりました。

 当時の私が生き甲斐としていたのは、そんなネットを介して得られた他者からの評価でした。これは誇張表現ではありません。本当に、そう思っていました。現実では、評価などひとつももらえなかったからです。

 私は、周囲の人間にネット小説作家だと知られることを恐れていました。「お前みたいな奴が小説なんか書いているのか」と、言われるのが怖かったからです。馬鹿にされることが怖かったからです。なので誰にも、多少なりとも交流のあったサークルの人間にも、小説を書いていることは秘密にしていました。

 もしかしたら、K先輩には打ち明けても良かったのかもしれません。K先輩は、他人の夢や目標を馬鹿にするような人ではありませんでしたから。先輩として、同志として、アドバイスや応援をしてくれたかもしれません。

 でも、私は一歩踏み出すことができず、幽霊部員ではありませんが、幽霊のような部員として、サークルに居続けました。




 そんなある日のことでした。いつものように部室でバイトのシフトの時間まで文庫本を読んで過ごしていると、声を掛けてきた者がいました。

 それは、低能な連中の、Iであり、Yであり、Mでした。

 どういうことかというと、私はなぜか、その三人から、それぞれ部室で二人きりになった時に、話しかけてこられたのです。

 話題はそれぞれ違いましたが、共通していたのは、どれも他の誰かには話せないようなこと、言わば心境の吐露ということでした。

 Iは、実は自分にはWebライターになる夢があるということ。

 Yは、実はIのことが異性として気になっているということ。

 Mは、実は昔から小説を書いているということ。

 それぞれからそのことを言われた時、訳が分かりませんでした。なぜ、自分にそんなことを言うのだろう。普段、滅多に会話をしないから、口が堅い人間だとでも思ったのだろうか。そんな風に思いました。

 でも、しばらくしてから気が付きました。

 彼らは、私のことを心の底から見下していたのです。だから、私に誰にも言えないようなことを打ち明けたのです。

 別に、大学ではいじめられるようなことはありませんでしたが、みんな分かったのでしょう。察したのでしょう。見透かしたのでしょう。

 私がゴミ箱のような人間であるということを。

 心当たりはありました。中学生の頃にも、高校生の頃にも、仲良くも無い普段は私をいじめているような人間が、誰にも言えないような秘密を打ち明けてくることがあったからです。実は誰々の財布を盗んだのは自分なのだとか、実は親友である誰々の彼氏と昨日性交渉をしただとか、実はあの教師の車の窓ガラスを叩き割ったのは自分なのだとか……。

 なぜ、そんなことをするのか。それは、私がゴミ箱だったからです。

 ゴミ箱に、発言権はありません。ただ、他人の吐き出すものをひたすら呑み込むだけです。何を吐き出そうが、吐き出し返すことはないのです。仮に吐き出したところで、誰も気にも留めません。ゴミ箱のような立場の人間が何を言っても、耳を貸す者などいないのですから。

 ですから、みんなは私に誰にも言えないような秘密を打ち明けたのです。王様の耳はロバの耳という寓話を御存じでしょうか。あれと同じ理屈です。みんな、誰かに誰にも言えないようなことを言いたくて仕方がないのです。それが、地面に掘った穴ではなく、私だったというだけのことです。

 話が逸れました。それで、打ち明けられた結果はと言うと、私も同じように、それぞれに私の秘密を打ち明けました。

 Iには、実は私にも小説家になるという夢があるということ。

 Yには、実は私にも気になっている人がいるということ

 Mには、実は私も小説を書いているということ。

 秘密を打ち明けられたからでしょうか。なぜか、私も同じように身を削らなければならないと思ったのです。

 いえ、もしかしたら、私は彼らと仲良くなりたかったのかもしれません。低能な連中だと見下していましたが、心のどこかで友人と呼べる存在を欲していたのかもしれません。

 だから、心を開いてみようと思いました。内心ではゴミ箱だと見下されていたのかもしれませんが、彼らは私をいじめてはいませんでした。

 だから、もしかしたら友人になれるかもしれないと思いました。心を開くことによって、ゴミ箱だと思われなくなるかもしれないと思いました。

 でも、それは盛大な勘違いでした。

 三人共、私を平気な顔で裏切りました。

 私ことゴミ箱は、結局ゴミ箱で在り続けるしかなかったのです。




 寒くて指が動かなくなってきたので、続きはまた明日書きます。

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