【2023年12月10日】Web小説『キクナの怨』の第七話

 続きは明日書くと言っていたのに、昨日は更新をしませんでした。

 すいません。でも、最近、日付や時間帯の感覚がよく分からなくなっているので、この先もそういったことが起きると思います。いえ、もしかしたら、気が付いていないだけで既にやってしまっているかもしれませんね。

 でも、どうにか最後まで書きたいと思っているので、よろしくお願いします。なんたって、遺言書なのですから。




 前の話で書いたように、Web小説サイトとTwitterでネット小説作家として活動する傍ら、私は大学生としての日常も忙しく過ごしていました。

 真面目に講義を受け、掛け持ちしているバイトに明け暮れる中、古本屋で読まなければならない本を買い漁って読み、格安SIMのスマホで見なければならない映像作品を鑑賞し、ホラージャンルの最先端を知る為にありとあらゆる情報を、コンテンツを、寝る暇を惜しんで吸収していました。

 そんな中、サークル活動にもぼちぼちと参加していました。というより、部室にいることが多くなったといった方が正しいでしょうか。

 別に、人恋しかったわけではなく、バイトのシフトまでの時間潰しの為に過ごす場所として都合が良かったというのが理由でしたが、そうなると必然的にサークルメンバーと一緒に過ごすことも多くなりました。そうなると必然的に交流が生まれ、声を掛けられてちょっとしたイベント――心霊スポット巡りやホラー映画鑑賞——に参加するようになりました。

 かといって、別にそれが何らかの実りになることはありませんでした。

 加入してみて気が付きましたが、オカルト研究部だというのに、ホラーを熱心に愛している者が、ほとんどいなかったのです。

 全員合わせても二桁に満たない人数の上、幽霊部員同然の者もいたので、交流するメンバーは限られていましたが、誰もかれも低能な人間ばかりでした。

 とても年上だとは思えない、軽薄というものが服を着て歩いているかのような、どの大学にも百人はいるであろうウェーイが口癖のヘラヘラ男、I。

 エモいが口癖の、ボイスレコーダーで日常会話を録音することが趣味だとかいう、美人で勉強もできる癖にフニャフニャした天然キャラを気取っていた女、Y。

 一眼レフを首から下げてベレー帽をかぶり、自分は普通の人間とは一味違いますとでも言いたげな顔をしていた癖に、いつもYの御機嫌取りに徹していた女、M。

 彼らはきっと、なんとなく楽しそうだし、なんとなくそういうのが好きだから、なんとなくサークルに入ったのでしょう。一応、ホラージャンルのものを好いてはいるようでしたが、にわかと呼ぶのもおこがましいほど、知識に乏しい人間でした。

 書き出せばキリがありませんが、洒落怖くらいしか知らない癖にホラー好きを名乗っていたと言えば、想像がつくでしょうか。

 それとも、スティーブン・キングによる原作を読んだことが無い癖に、ITの映画版、それもリメイクされた方だけを見て、怖くてエモいペニーワイズ最高などと宣っていたと言えば、想像がつくでしょうか。

 ともかく、彼らはそんな軽薄でホラー愛のない低能な連中でした。ああ、チャイルド・プレイのチャッキー人形のキーホルダーをこれ見よがしにぶら下げたりもしていましたね。どうせ、〇ィレッジヴァンガードで買ったのでしょう。ITとチャイルド・プレイのグッズをこれ見よがしに身に着けている人間なんて、大してホラーが好きでもない、周りからサブカル愛があると思われたいだけの人間です。

 そんな風でしたから、サークル活動に参加しても、それは形式的なものに過ぎませんでした。ぼちぼちとした会話をする程度の交流はありましたが、特別、仲良くなるようなこともありませんでした。付き合っても、メリットなど無いと思いましたから。

 ただ―――、

 一人だけ、私と同じように心の底からホラーを愛している人間がいました。

 K先輩です。

 既に大学を卒業していた、いわゆるサークルOBの人でしたが、K先輩だけは違いました。

 最初はホラー映画のTシャツをいつも着ていたり、LINEの文面が気持ち悪かったので身構えましたが、拙い交流を繰り返している内に分かりました。K先輩だけは知識に富んだ、小説や映画、漫画、心霊映像、はたまた実話怪談と、ありとあらゆるジャンルのホラーを心の底から愛していた、本物だったのです。

 ですから、私はK先輩にだけは、心を許していました。他の低能な連中からは、OBの癖にしつこく部室やイベントにやって来る未練がましいオタク男と言われて蔑まれていましたが、K先輩だけは本物だったからです。それに、

 口下手でしたから、上手に会話をすることはできませんでしたが、K先輩からは、これまで他人から向けられてきた嘲笑や愚弄、侮蔑といった悪意の念を一切感じませんでした。ホラーを心の底から愛している人であると同時に、私のような人間に優しく接してくれる、稀有な人でもあったのです。




 ですから、決してサークルに入って悪いことばかりというわけでもありませんでした。

 K先輩のような、同志とも呼べる、尊敬できる人に出会うことができましたし、何より低能な連中に囲まれているおかげで、自分に自信が付いたからです。

 Twitter等のネット上ではその辺にいるちょっとホラーに詳しいだけの人でも、現実では誰よりもホラーを愛している志の高い人という自負を得ることができたからです。

 私は、あいつらとは違う。あんな奴らとは違う。私には、やっぱり才能があるのだ。普通の人以上の、教養と知識があるのだ。

 だから、きっと大成するはずだ。

 そんな風に思っていました。




 書いてきて辛くなってきたので、続きはまた明日書きます。

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