【2023年12月7日】Web小説『キクナの怨』の第五話
私の生い立ちについてはもう十分書いたので、ここからは大学生、及びネット小説作家になってからのことを書こうと思います。
私が進学したのは東京の、いわゆるFランと揶揄される大学の文学部でした。
小説家になるのならば、高名な作家の先生方のように、名門大学の文学部に入れば良かったのかもしれませんが、私の人並みの学力と貧困な経済力では、それが限界でした。
それでも、私は自分の辿り着いた環境に満足していました。
曲がりなりにも、かつて住んでいた不毛の田舎では経験することのできない、文学的な大学生活を送ることができたからです。
自分は、東京にある大学の文学部で、文学について学んでいる。
それだけで、満足でした。あんな低能な人間ばかりいる鈍臭い田舎でずっとゴミ箱扱いされて生きていくより、何十倍も、何百倍もマシでした。
それに、何よりも、私はこう考えていました。
自分には、きっと小説家としての才能があるはずだ。だったら、どんな環境に置かれていようと、凄いものを書けるはずだ。
現に、時代としてそういう流れが来ていました。スマートフォンとインターネットが発達したことによって、気軽に個人で創作した物を世界に発信することができる世の中になっていたのです。個人ブログ然り、SNS然り、YouTube然り……。
Web小説サイトも、そんな術の内のひとつでした。大手出版社が運営している、誰でも無料でユーザー登録できるWebサイトでは、誰でも気軽に小説を書いて作品として発表することができます。公式に開催されるコンテストで賞を獲ったり、人気が出たりすれば、作品が書籍化され、小説家としてデビューすることもできます。
だったら、大学のランクなど関係ない。独学で文学を学び、理解と教養を深め、自分の実力のみで勝負できるのならば―――。
現に、活動の場として選んだこのWeb小説サイトも、そういったことを謳っていました。
誰でも、書けて、読めて、伝えられる。
なんと素晴らしいキャッチコピーでしょうか。
だから、私は大学デビューすると同時に、ネット小説作家〝清白キクナ〟としてデビューしました。
広大で可能性に満ち溢れているインターネットの海に、小さな船で一人、漕ぎ出したような気分でした。
自分で決めた新しい名前と人格を得て、生まれ変わったような気分でした。
私の人生はこれからだ。
これから、何もかもが始まるのだ。
そういう風に思っていました。
それから、大学生としての生活とネット小説作家としての生活が始まりました。
学生御用達の安アパートを借り、リサイクルショップで必要最低限の家具を一式揃え、百均ショップで生活用品を一通り揃え、中古ショップで売られていたノートパソコンを買って、日々バイトと授業に明け暮れながら、忙しい生活の合間に、念願の小説を書き始めました。
金銭的な援助を受けることができなかった為、バイトはいくつも掛け持ちしました。色々なバイトを経験しましたが、一番良かったのは古本屋のバイトです。大好きな本に囲まれて仕事をするのが、楽しくてしょうがありませんでした。逆に一番嫌だったのは、コンビニ店員のバイトです。世の中の人には軽く見られているようですが、あんなにも大変で心が疲弊する仕事も、早々無いのではないでしょうか。もう二度と、経験したくありません。
話が逸れました。辛いことを思い出すと、つい筆が乗ってしまいますね。
大学では、誰よりも真面目に講義を受けていたと思います。さすが、Fラン大学と揶揄されているだけあり、周りには怠惰な者が溢れていました。
大卒という肩書きが欲しいから、とりあえず適当に進学したのだという者。まだ自分が何をしたいのか見出せなかった為、とりあえず進学したのだという者。高校を出てすぐに働くのが嫌で、まだ遊び惚けていたかったから進学したのだという者。そんな人間で溢れていました。彼らは口を揃えて、「仕送りをもらっている」、「いざとなれば実家を頼る」、「毎日が楽しければそれでいい」とも言っていました。
許せませんでした。
私がどれだけの思いでここまで――大学まで進学してきたのか、怒鳴り声で説明してやろうかと思いました。
でも、そんなことはしませんでした。何も考えていないような低能な人間に構っていたら、低能が
だから、私は友達を作りませんでした。文学について学ぶのに、別に友達なんて必要ありません。一人でも、学べるものは学べます。
ただ、サークルにだけは入ることにしました。
最初は入るつもりは無かったのですが、ホラー系の、いわゆるオカルト研究部と称されるようなサークルが存在していたのです。
私は、小説家志望でしたが、同時にホラー作家志望でもありました。幼い頃から好んで読んでいたのは怪談や怪奇幻想、ミステリーなど、ホラージャンルのものばかりでした。何故だか分かりませんが、ホラーな物語を読んでいると、怖いというよりも、胸がすくような気持ちになれたのです。だから、Web小説サイトにて処女作として書き始めていた作品も、ホラー小説でした。逆に言えば、ホラー小説以外はそこまで興味が無く、ホラーが書きたくて仕方がありませんでした。
このサークルに入れば、ホラーについての教養を深められるのではないか。勧誘してきた者の話を聞くに、真面目に活動しているわけでは無さそうだが、小説家、作家になる為には、心霊スポットに行ったりするような経験も必要なのではないか。
そう考え、そのホラー系のサークルに入りました。
今では、とても後悔しています。
あんなサークルに入らなければ、今、私は、こんなことにはなっていなかったでしょうから―――。
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