願いの刃
@rihito0131
願いの刃
太陽の光が大地を照らし、エレミス王国の美しい城塞都市アヴァリアは今日も活気に満ちていた。その中でも闘技場は最もにぎわっており、人々の歓声が響き渡っている。国中から剣豪が集まり最強を決める炎輝武闘祭が行われているのだ。
観客たちの視線を一身に集めるは、白銀の鎧に身を包んだ美しき剣士である。
観客席にいる大勢の人々は口々に彼女の名を叫ぶ。肩まで届く金髪と深い碧色の瞳をした少女で、年齢は歳くらいに見える。
身長は高く、細身だが胸は大きくてスタイルが良い。
闘技場のフィールドの中央に立つアリアの手には剣があった。彼女が持つ赤い鞘に収められた剣は、会場の熱狂的な声援に呼応しているのか、禍々しくも赤い光を放っている。
彼女が持つのは魔剣だった。
魔剣というのは太古なる昔、魔族を統一していた魔王の誕生と共に生まれたと語られる強大な魔力を有した剣の事である。
それらは存在するだけで世界に影響を与えるものもあるという。
彼女が持つ魔剣の名は火煌剣カガヤキノ。大抵の場合、魔剣はアーカナムと呼ばれる古代の遺跡から出土したものであり、使用者の潜在能力を限界以上に高めるという特徴がある。
ただし、使い手の意志に反して所有者以外の人間にも危害を加えるという副作用のため魔剣の使用者は制限されている。
彼女が右手に持つ火煌剣を上段に構える。すると、まるでそれが合図になったかのように、対戦相手の男が大声で叫びながら突っ込んできた。
その男は速い。過重な鎧を身にまとってなおその速度を実現している。彼の武器は大きな両手斧であり、一撃でも喰らえば致命傷になるのは間違いない。
しかし、それはあくまで一般的な剣士であればの話だ。
彼女は静かに息を整えながら相手を見据えた。目で追うことが出来ぬほどの速度、だが彼女からしてみれば遅い。男の斧が振り下ろされる瞬間、その攻撃を掻い潜るようにして懐に入り込んだ。そのままの勢いで男の背後に回り込みながら抜刀する。
刹那、血飛沫が舞い散った。振り返ろうとした男の身体がぐらりと揺れ、地面に倒れ込む。
目にも留まらぬ一撃であった。その一撃に観客たちは沸き立つ。
歓声に包まれる闘技場の中心で、剣を納めると踵を返した。
彼女の腰の右側には、もう一本別の剣を帯びているが鞘に入ったままだ。
彼女の名前はアリア・ヴァレィ。
王国の剣士であり、最強の称号を欲しいがままにしている女性である。
次の日、アリアは男と対峙していた。
「お願いだ。次の探検、君も参加してくれないか」
その男は、銀剣士団で唯一剣聖の称号を手にしている男で名をソラス・ブレイドウィンドという。
銀剣士団とは、古来から続く大国の騎士団で、大国の秩序と平和を保つために活動している。
「頼む。この通りだ」
そう言って男は頭を下げる。
場所は王都にある酒場。いつものように一人で酒を飲んでいたところに突然現れたかと思うと、唐突に話しかけてきたのだ。
アリアは何も言わずに、ジョッキに入っていた酒を飲み干した。そして小さくため息をつく。目の前の男からは真剣さが伝わってくる。
だが――。 アリアはそれを承諾はしなかった。
「あんな事があってまだ私が、行くと思ってるの? 」
「分かってる……でも俺は君の力が必要なんだ!」
そう言うと、ソラスは深く頭を下げた。銀髪の前髪が垂れ下がり、彼の表情を隠す。
「それに君は、そんなことを言いながら炎輝武闘祭に出ている。まだ心残りがあるんだろう」
そう言われてアリアは黙り込む。
「しかも今回は君にもメリットがしっかりあるんだ」
アリアはそれを聞いて顔を上げた。
「次の探索の場所には聖天剣アウレリウスがあるという言い伝えが残っている」
聖天剣アウレリウスそれはこの世界にするものなら知らぬ者はいない伝説の魔剣。
それは太古の昔、まだ魔王が存在していた時代。
魔を討ち滅ぼそうと、神々の加護を受け誕生したと言われる最強の魔剣だ。その剣はこの世界のどこかに今も眠っていると言われている。
「この剣を手にしたものは、願いが叶うと言われている」
「そんなおとぎ話私が信じているとでも? 」
アリアは不機嫌そうな顔をした。
「でも、藁にもすがる思いな君は、これを信じざるを得ないはずだよ」
アリアの顔色が変わった。図星だったからだ。
彼女に残されている道は突拍子もないおとぎ話を信じるしかない。
「わかった。行くわ」
彼女の言葉に、ソラスは安心したような笑顔を見せた。
翌日、彼らは15人程で出発した。
アリアを含め総勢15名の探検隊である。
メンバーは、アリアを除いて皆、銀剣騎士団の一員だ。
アリアは、銀剣士団と共に遺忘の迷宮を探索するため、古代の神秘に包まれたその場所へと足を踏み入れた。しばらく進むと、大きな門が現れた。
その門を開くと、中は洞窟のような造りになっている。
どうやらこの迷宮は、自然に発生したものではないようだ。それはすぐに分かった。壁には古代の文字や彫刻が刻まれ、その意味や由来はまだ解明されていない謎に満ちている。さらに奥に進むと、扉があった。
そこからは、白い毛並みをした魔物が出てきた。狼の魔物である。
その数は10匹ほどだ。剣を持ったアリアと、ソラスが真っ先に前に出る。そして剣を振りかざし斬りかかる。彼女らは次々に襲い掛かってくる敵を一刀両断していった。
10匹の狼が一瞬にして倒された光景を見て、他の銀剣士団の面々は驚いている。
だがそれで終わりでは無い。
次から次に魔物が湧いてくるのだ。それもかなりの数である。
騎士団達も「負けてられないな」と言い戦闘に参加してくる。
そのときアリアの剣が輝き始めた。赤く、赤よりも赤く。
彼女の持つ火煌剣が魔力を放ち始めている。
最強と呼ばれている者が持つ魔剣が真価を発揮しようとしていた。
その剣は、持ち主の潜在能力を高めると同時に、邪悪な存在を引き寄せてしまう。
彼女は剣に語りかけるように呪文を唱えた。
「我が名は、アリア・ヴァレィ。契約に従いその力を示せ」
その瞬間、赤い光が彼女を中心にして爆発的に広がった。同時に、その光を浴びた全ての魔物は動きを止める。
そして、その光に触れただけで、魔物は灰となって消えていった。
それを見た騎士団達は
「すげぇ……」
と感嘆の声を漏らしていた。
「さぁ、先に進みましょう」
彼女は何事も無かったかのように歩き出した。
それから数日間、アリア達はひたすら迷宮の中を進み続けた。
しかし、一向に最深部へたどり着く気配がない。
まるでそもそも最深部が無いようだった。
だが、ある日、ついにそれを見つけた。それは巨大な石像で、台座には剣が刺されている。
その剣は大海を彷彿とさせる青を基調とした剣で、見てるだけで心が洗われるようだ。
「私達やったのね。ねぇソラス私が抜いてもいいのよね?」
「あぁ勿論。その為に来たんだろう?」
アリアがこの剣を抜こうとした瞬間、声が聞こえた。
《我は知謀剣、この世の知恵を司りし女神によって生み出されし聖剣なり。永劫の力秘めし聖なる剣を求む者よ、試練に臨む覚悟があるか?あらば知恵と力を示すべし。さすれば汝に我が知恵を授けよう。》
「もちろんよ」
アリアは迷わず答える。
「私には力が必要なの」
そう言うと、剣を手に取った。その途端、眩い光が辺り一面に広がる。
それと同時に、知謀剣と火煌剣が中に浮き始める。
そのふたつの輪郭がぐにゃりと歪み融合していく。
その現象にアリアは驚きつつも、何かを悟ったような表情をしている。
そして彼女の手にあるものは、一本の長剣。
その色は蒼と朱の混ざった、美しい色合いの剣だ。柄の部分には宝石が埋め込まれている。
知謀剣と火煌剣が融合した剣、その名は、燃焔智剣ヴォルカノノウジンという。
聖と邪、相反するふたつが共存しながら融合したそれはそれまでとは比べ物にならない力をアリアに与えていた。
「アリア一体それは?」
ソラスは恐る恐る聞いてきた。
「なんの事?」
「いや、なんでもない」
アリアは気付いていないが、アリアの髪は腰まで伸び、さらに色も綺麗な赤色になっている。瞳の色も同様にだ。
その姿はまさに、炎のように燃え盛る美しき乙女だった。
アリアは、銀剣士団と共に王都に戻った。
その道中、アリアは自分の変化に戸惑っていた。
自分の髪や目の色が変わっている事に気づいたからだ。
なぜ変わったのか。
アリアはそれを考えているうちに、ひとつの結論に達した。もしかするとこの力は魔剣によるものかもしれないと。
魔剣の中には使用者の姿形を変えるものが存在するからだ。
それに炎煌剣と知謀剣の力が合わさっているのだ。ありえない事ではない。
疑問を抱きながらも、それを深く考える前に、アリアは銀剣士団と別れ家に帰った。
その後、彼女はすぐに眠りについた。
それから暫く経ったある日、アリアは、銀剣士団の本部に居た。
「それで? 用事ってなんなんだい? 」
「私を騎士団に、入れてちょうだい」
それはソラスからしては、考えられない要求だった。
アリアは捜査に出ることを前まで好ましく思っていなかったからだ。
「勿論歓迎するよ。ただいきなりどうしたんだい? 」
「私、聖天剣探してみることにする」
「そんなおとぎ話は信じてなかったんじゃないの? 」
「まぁそうなんだけどさ。あんな事があったら信じるしかないじゃない」
アリアは、真剣な眼差しでこちらを見つめている。その決意は硬いようだ。
ソラスは、彼女が本気である事を察した。
「君が本気なのは分かった。だが本当に覚悟ができているのか? 君はまたあのようなことが起きても大丈夫だと言えるのか? 」
ソラスの言葉を聞き、アリアは目を閉じた。そしてゆっくりと目を開く。
その瞳には強い意志が宿っている。それを見たソラスは微笑みながら言った。
「強くなった見たいだね。」
そう言い残し部屋から出て行った。
数日後、アリアは銀剣士団の入団試験を受け見事合格し、晴れて騎士団の一員となった。
その日の夜はアリアの入隊祝いのパーティーが開かれた。
「それでは!アリアの入隊を祝って乾杯!」
「「「「「「かんぱい!!!」」」」」」
皆がグラスを掲げ、口々に言う。
その日は夜遅くまで賑やかな宴が続いた。
次の日の朝。騎士団の本部は騒然としていた。なぜなら一人の男が突然現れたからである。
その男は、全身を黒いローブですっぽり覆い隠し、身長は170cmくらいだろうか、かなりの長身だ。
顔はフードをかぶっていて見えない。そして、何より目立つのはその手に握られている大きな杖だろう。まるで巨大な樹木から削り出されたかのような代物だ。
「ソラスと話がしたい」
男は単刀直入に要件を伝えた。
団長である彼を呼び捨てにした事が気に食わなかったのか、周りにいた騎士達は彼を睨んでいる。
だが、男の雰囲気が只者では無いと感じ取ったのか何も言わずに道を開けた。
そしてその奥にいるソラスが姿を見せる。
男は、まず最初にこう尋ねた。
「次の捜査に俺を連れて行け」と。
しかし、 ソラスは少し困ったような顔をしている。無理もない。この男の正体が分からないのだから。
「まず君は誰なのかな?それとなぜここに来たんだい?」
「そんなことはどうでもいい。とにかく俺を連れて行け」
「ダメだ。君が何者か知らない限り連れて行くことは出来ない」
「いいや、お前はおれを連れて行くことになる」
そう言うと、男は懐に手を入れ何かを取り出した。
男が取り出したそれは、不気味に光っている。
ソラスがそれを見ると、虚ろな目になり、ぼーっとし始めた。
「ああ、分かった。君を連れて行くことにするよ」
彼は完全に男の術中にはまっていた。その光景を見ていた騎士達も動揺を隠しきれていない。アリアに至っては何が起きているのか理解出来ていなかった。
それからというもの、騎士団はこの男と、行動を共にすることになる。
そして時は流れ、1ヶ月後。
順調に捜査が進んでいたある時、聖天剣の情報を掴んだのだ。
その場所は、聖アルヴェリア帝国。
聖アルヴェリア帝国とは、帝国制度を採用した国で、皇帝が絶対的な権力を持つ。皇帝は神聖な存在とされ、神の使徒として崇められている。
聖アルヴェリア帝国とエレミス王国との間での関わりはなく国交も行われていない。その為、アリア達も、まだ相手国も、互いの事知りはしない。
帝国へは船で向かう。アリアと、ソラス黒いローブの男、ゼフィルス・シャドウハートというらしいが、その3人で船で移動していた。
目標は聖アルヴェリア帝国の近くの港街。そこには帝国への交通手段があるのだ。
アリアは船の甲板から海を眺めていた。彼女の髪は腰まで伸びており、その髪は風に靡いている。髪の色は赤色だ。目の色も燃えるような赤。だがその綺麗な外見とは裏腹にその表情にはどこか寂しさのようなものが感じられる。
しばらくすると、アリアは後ろを振り返り、右腰の剣に触れ呟いた。
「待っていてね」と。
それから暫くして、船は目的地に到着した。
アリア達の目の前にあるのは、とても大きな港町だ。
この港街の名前は、アルルメイヤ。
人口も多く、市場では様々な国の商品が並べられている。
「ここがそうなのね」
アリアは、初めての異国の地に胸を躍らせていた。
その時港にいた男から声が掛けられた。
「許可証を見せてもらおうか」
その言葉を聞き、ソラスは銀剣士団の許可証を見せた。
「確かに、じゃあ船をここに止めて置いてくれ」
そう言うとその男は、去っていった。
「ここで降りていいってさ」
「了解。じゃあ行きましょう」
船から降りると、アリアは、辺りを見渡した。
「ねぇどこに行くの」
そうアリアが聞く。
「帝国に行く準備を整えてくるから2人で観光していてよ」
「ちょっと待ってよ。こんなやつと一緒に居ろっていうの? あれから1ヶ月近く最低限しか喋ってないのよ。絶対怪しいわよ」
とアリアが小声でソラスに言う。
「大丈夫だよ。彼が悪い人じゃないことぐらい見れば分かるよ」
ソラスはこの男に出会ってからおかしくなってしまった。
だが聖天剣が目的のアリアに、断る術は無かった。
と、そこに一人の女性が話し掛けてきた。
お世辞にも綺麗と言える格好はしておらず、包み隠さず言うならばみすぼらしい。
「あなたは冒険者ですよね。お願いです。助けてください」
そう言われてアリアは困ってしまう。
ゼフィルスの方を見ると、女性には見向きもせず、歩き続けている。どうしようかと考えているが、そんなアリアを気にせずにゼフィルスは行ってしまう。
アリアは先に行ったゼフィルスを、引っ張って連れ戻し、話だけでも聞くように説得する。そうすると、ゼフィルスはため息をつきながら渋々了承してくれた。
アリアはホッとした様子で、改めて女に話を聞いた。
彼女は、名をアイナと言い、この港街の近くにある村に住んでいたそうだ。
彼女が言うには、少し前に、謎の男たちに村人達が襲われ、命からがら逃げて来たのだと。
彼女曰く、その村の人達は、その謎の男達に連れ去られてしまった。
だが、なぜ自分だけ逃げれたのかと言うと、ある男に助けられたからだ。
その男は、全身黒ずくめで、顔を隠すために仮面をしていたらしい。
「お願いです。村の人を助けてください」と、涙を浮かべながら懇願している。
それを見ていたアリアは、 困っている人がいて、自分に助けを求めてくれてるなら手を差し伸べるべきよ!と心の中で叫んでいる。
そんなアリアの心境を察してかゼフィルスが、「今回だけだぞ」と言った。その言葉を聞いた瞬間、アリアの顔がぱあっと明るくなった。
それから、アイナは、アリアとゼフィルスを連れて、自分の住んでいる村に案内することにした。
そして、少し歩いたところにその村はあった。
だが、そこには既に誰もいない。建物は破壊され、至る所に血の跡があり、見るも無残な姿になっていた。そして、死体も転がっている。
「何人かは男たちの拠点に連れて行かれました。追跡する魔法をかけているので着いてきてください」
と言って走り出した。
その後を、アリアとゼフィルスは付いて行く。そしてしばらく走ると、そこには一つの建物があった。
そこは、廃墟となった屋敷だった。
門には見張りと思われる人物が3人居る。アリアが突撃しようとするが、それをゼフィルスは手で制す。
ゼフィルスが指を鳴らすと、如何なる力を使ったか、見張りの男がバタンと倒れた。
それを見た、もう一人の見張りの男は慌てて駆け寄るが、そこでもまた倒れてしまう。
アリアはその光景を見て、目を丸くして驚いた。ゼフィルスはそんなアリアを無視して中に入っていく。
「アイナさんはここで待っていてください」
そのあとに続いて、アリアも入って行った。
中には地下へと続く階段が有りそこを下っていくと広い空間が広がっていた。
そこには何やら身支度をしている様子の男達と、捕らえられた村人が居た。
その中には子供もいる。
ゼフィルスはそれを確認すると、またもや指を鳴らそうとする。
だがその時、男達の仲間だと思われる人物が数人後ろの方に忍び込んでおり、斬りかかってきた。その斬撃を間一髪避けて距離を取る。ゼフィルスの頬には傷が出来ていた。
「帯びき出されたとも知らずにのこのこときやがってよぉ」
ゼフィルスは男の方に飛び出し、そのまま2人ともどこかに行ってしまった。
「俺達を舐めてんじゃねぇぞ!」
と残った男達は口々に言っている。
「お前らはもう終わりだ」
そう言い放ったのは闇色の剣を手にしたリーダー格の男だ。
アリアは燃焔智剣を抜き、殺気を放つ。
「あなた達本当に勝てると思ってるの?」
「ほざけぇ」
そう言いながら男はアリアの間合いに飛び込んでくる。
そして剣を横凪に振るう。
「遅いわ」
アリアはその斬撃を身を低くして躱すと、次の瞬間その建物がドゴォと崩れ落ちた。
剣を振るった先にある壁が切断されたのだ。
「嘘……」
「ほぉ上手く避けたか。ほら次行くぞ」
男は剣を上段に構えて振り下ろす。
アリアが、咄嵯にバックステップで回避すると、先程まで立っていた場所に大穴が空いた。
アリアは冷や汗を流している。その一撃は今まで戦ってきたどんな敵よりも重く鋭い。
「さっきまでの威勢はどうしたんだァ」
「あんまり調子に乗らないでくれるかしら」
アリアは剣を構えて男に突っ込む。
剣を振り上げるが、男はそれを難なく受け止めると弾き返す。
「きゃ」
アリアが体勢を崩した隙に男は剣を振りかぶる。
だがアリアは直ぐに立て直して男の攻撃を回避した。男の連続攻撃はまだ止まない。
休む暇も無く繰り出される攻撃をアリアはギリギリのところで防いでいる。
「くっ……はぁはぁはぁ」
「おいどうした?息が上がってんぜ」
「うるっさいわね」
男の魔剣が相手の消耗に共鳴する様に、終わりを彷彿とさせる魔力を発す。
そのまま魔力がどんどんと、底無し沼のように湧き出てくる。
その魔力に当てられたアリアは怯え、後ずさりしてしまう。
そして後ろにあった瓦礫に躓き、尻もちを着いてしまう。男はそれを好機と思ったか、一直線に飛び込んでくる。
アリアは恐怖で目を閉じる。だがいつまで経っても痛みが来ないため、恐る恐る目を開けてみると目の前には、アイナが言っていた、仮面を着けた黒ずくめの男だった。
「大丈夫か?」
黒ずくめの男は、アリアの安否を確認しつつ、相手を見る。
「てめえ、なんだその仮面は。なめてんのか」
仮面の男の姿を見て、黒ずくめの仲間の一人が怒声を浴びせた。
「仮面を着けながら俺の攻撃を見切れんのか」
男はそう言いなら魔剣を構える。
構えられた魔剣からは先程よりも強大な魔力が発せられている。
それは魔力だけで雄大な山々を彷彿とさせる。
そしてその魔剣が振られる。
否、振られる前に仮面の男が行動に出ていた。
目にも留まらぬ速度で背後に回り込み、手刀を首筋に放つ。
だが、それに気付いたのか、それとも本能なのか、男が振り返りながら剣を振るった。
金属同士がぶつかり合う音が響く。それは空間に激しい衝撃波を生み出す。
地面は揺れ、壁は崩れ、まるで世界の終わりのようだった。
男は刹那の間に百の攻撃を繰り出す。
その連撃は余りにも速い。
だが仮面の男はそれを上回る速度を出す。
一秒事に男の体から鮮血が散る。それでも男は怯まない。
男は相手に押されている今でも、その目は希望を失っていない。
そして次の瞬間男の魔剣が真価を発揮する。男の魔剣が、更に膨大な量の魔力を纏う。
そしてその刀身が一瞬で伸びる。
「ちぃ」
仮面の男はそれを見ると大きく後ろに下がった。
しかしそれを待っていたかのように、男が剣を振るう。
すると、今度は炎が出現し、剣の動きに合わせて、火炎放射器の様に放出された。
だがそれを物ともせず、男は接近して行く。
その勢いのまま、剣を振り下ろす。
男の剣が勢いよく振り下ろされると、空中に響く轟音とともに、剣先から強烈な衝撃波が広がった。その衝撃波は、周囲の瓦礫や木々を粉々に砕き、地面に亀裂を入れていった。
仮面の男は驚愕の表情を浮かべ、その場から素早く身をかわす。しかし、男の剣はそれに追いすがるようにして空を斬り、次々と爆発を引き起こす炎の刃を放ち続けた。
すると、仮面の男は固く意志を固め、手に持っている剣を激しく振り回す。すると、周囲の魔力が彼の剣に集まり始め、その刀身は輝きを増し、次第に透明な光に包まれていった。
そして、男の魔剣が発する光が変化し、剣全体が鮮やかな青色に輝き出した。その刀身からは雷のような稲妻が舞い、周囲の大気を荒らし始めた。
男は度肝を抜かれたが、恐れを抱く間もなく、反撃に出る。彼は先程と同様に、魔剣の炎の力を引き出し、炎の刃を形成すると、それを男に向かって放り投げた。
仮面の男は魔剣を高く掲げ、透明な青い光が舞いながら刃を形成していく。そして、炎の刃が男に迫る瞬間、男は一気に魔剣を振り下ろす。
すると、鮮やかな青い光が一瞬にして炎を貫き、刃を破壊した。剣先から放たれた稲妻が男に直撃する。
仮面の男は地面に叩きつけられ、苦痛に歪む表情を浮かべたまま動かない。
仮面の男は息を切らしながら、勝利の瞬間を感じながら立ち上がる。彼の魔剣は再び普通の形状に戻り、その青い輝きも消え去った。
その戦いをアリアは呆然と見ていることしか出来なかった。
「はぁはぁはぁ……」
男は自分の傷を確認する。致命傷は避けられているが、無数の傷を負っている。
「あなたは一体何者なの?」
「俺の名前はゼロだ」
仮面の男はそう答える。
「俺のことはいい。お前は捕まっていた人たちを助けてやれ」
そう言って仮面の男はどこかに行ってしまった。
「えっちょっと待ってよ」
アリアが叫ぶがもう遅い。
ちょうどその時、ゼフィルスが帰ってくる。
それからして、2人は村人達を助けると、ソラスが、手配した宿屋に居た。
ソラスとアリアと、ゼフィルスの3人で一つの大部屋を借りている。
3人で借りている。しかしこの部屋は、何部隊が泊まれるのかというぐらいには広い。
それは銀剣士団の団長であるソラスの、懐の広さを表していた。
それからは何事も無く3人は寝てしまった。
そして朝が来る。3人は身支度をして、街を歩いていた。
「ねえ、今日はどうするの?」
「そうだね。帝国への船の予約が取れたから、帝国に行こうか。ゼフィルスもそれでいいよね?」
そうソラスが問うと、ゼフィルスが頷いた。
そして3人は船に乗って、帝国に来ていた。
聖アルヴェリア帝国の街並みは、壮大で荘厳な雰囲気に包まれてる。中心には巨大な聖堂が聳え立っており、その尖塔は天空を突き抜けるか如くそびえ立っている。聖堂は石造りで築かれ、聖なる剣を象った飾りが施されている。
街の通りは舗装され、古き良き時代の趣を感じられる。建物は石造りの住宅や商店が立ち並び、街全体が一体となって聖なる剣の存在を讃えているようだ。
また、街の至る所には剣のモチーフが取り入れられており、それは噴水や街灯、看板などだ。
街の中心部には賢者の学院があり、そこでは知識と魔法の研究が行われている。学院は大きな図書館や研究所から成り、学者たちが知識の探求に励んでいる。
聖騎士団の本部も街に所在しており、堂々とした騎士団の本部が立ち並んでる。それはまるで騎士たちの勇気と誇りが具象化したようだ。
街は活気に満ちており、人々が行き交い、商店や露店でにぎわっている。祭りや儀式の時には街全体が祝福の空気に包まれ、人々の歓声や祈りが響き渡る。聖アルヴェリア帝国の街並みは、聖なる剣への信仰と帝国の栄光に満ちた、神性を感じさせる壮麗な風景である。
「この国にはギルドという制度があるようだね」
「なんなのそれ?」
アリアはそう聞き返す。
「簡単に言ったら、非公式の騎士団みたいなものだね」
アリアたち3人は、帝国でまずギルドと呼ばれる建物に入っていた。
ギルドとは冒険者や賞金稼ぎなどの個人や様々な団体が集まる組織だ。彼らは共同で任務を遂行し、報酬を得ることを目的とする。それに対しギルドは安定した仕事の提供や情報の共有、訓練施設の提供などの支援を行い、より良い環境を提供する。
「僕たちはこれからここで、依頼をこなしていこうと思うんだ」
ソラスは受付の女性に話しかける。
「あの、すいません」
「はい。ご用件はなんでしょうか?」
女性は優しく微笑みながら答えてくれた。
「えっと、ここのギルドに登録したいんですけど」
「分かりました。ではこちらにお名前とお住まいの地域を記入して下さい」
女性から3人分のから紙を受け取る。そこには氏名と年齢を書く欄があった。
そしてそこにゼフィルスとアリアの名前を書いた。
ソラスはサラサラッと書いたが、字が汚くて読めない。
だが、そこは流石と言うべきか、女性の方は笑顔で読んでくれた。
そして次は、試験を受けるかどうかの確認だった。これは任意なので、受ける受けないどちらでもいいらしい。しかし、ゼフィルスは既に登録しているので、自動的に免除されている様だ。
それから簡単な質疑応答があり、登録は完了した。
「早速クエストを受注したいんだけどいいかな?」
ソラスがそう聞く。
「はい。構いませんよ」
「エルディアンの冒険に行きたいんだけど大丈夫かな?」
エルディアンとは、聖天剣があるとされる遺跡の事だ。
それを聞いた受付の女性は、申し訳なさそうな顔をする。
「すいません。そのクエストは最近出たばかりの遺跡ですから、4人以上、しかも聖騎士団の元で訓練をしないと受けられないんですよ。訓練に出たら仲間も見つかるかもしれませんし、言ってみればどうですか?」
「じゃあ、そうします!」
アリアが嬉々として答える。
「ゼフィルスもそれでいいかい?」
「ああ、問題無い」
こうして3人は、聖騎士団の訓練に参加することになった。
聖騎士団の本部にやってきた訳だが、そこにはアリア達以外に10人程の人々が集まっていた。
そこに遅れて1人の少女がやってきた。
彼女は年齢は15歳程で小柄で華奢な体つきをしており、その童顔とは裏腹に豊かな胸元を持っている。
その瑞々しい肌は透明感があり、やわらかな触り心地を想像させる。顔は丸みを帯びてふっくらとした頬が幼さをさらに引き立てる。
彼女の大きな瞳は澄んでおり、無垢な光を宿しており、まるで妖精のようだ。
髪は豊かで、肩まで及んでいる。やわらかな質感とツヤがあり、軽やかに揺れる姿は活気と可憐さを映し出している。
彼女は修道女のような服を着ており、胸元が強調された衣装が彼女の巨乳を強調している一方で、彼女自身はその点に対しては恥じらいを抱いている。
また、頭にはヴェールを被っており、首には十字架のネックレスをつけている。そして、手には杖を持っており、まるで天使が舞い降りたかのような神聖さを感じる。
そうこうしているうちに、騎士団と思われる人達がやってきていた。
そして全員が集まった所で、騎士団長らしき人物が口を開く。
「ようこそ聖騎士団へ。今日は集まってくれてありがとう。私は聖騎士団団長のソフィア・ローランだ。よろしく頼む」
彼女は、白銀の髪を後ろで束ねた美しい女性だ。凛とした佇まいで、その眼差しはまっすぐ前を見据えている。
そしてその美貌はまさに女騎士という言葉が相応しいほどに勇ましく、男装の麗人とも呼べる風貌だ。
そんな彼女は、全員に語りかける。
今回遺跡攻略に訓練が必要な集理由は、最近見つかったばかりであり、まだ調査が済んでいない為だそうだ。
聖天剣があると言われているが、それはあくまで噂に過ぎず、聖騎士団が実際に行ったことは今まで一度も無かったのだ。
だから、今回は、万が一の事態に備えて、訓練が必要になったのである。
また、遺跡には強力な魔物がいる可能性もあり、その危険も踏まえた上で、今回の訓練が行われる事となった。
「まずは、4人で集まってくれ」
そう言われて人々は、各々4人1組になっていく。
だが、あとからやってきた少女が孤立してしまっているようだ。
その少女に向けてアリアは、手招きをする。
それを見た少女はちょこちょことアリア達の方へやってくる。
少女はアリア達のそばに来るとペコリと挨拶をした。
少女はお辞儀をすると同時に、サラサラの金髪が靡き、キラキラと煌めいていた。
アリアはそれに答えるように自己紹介を始める。
まずはアリアから。
アリアは名前を名乗る。
続いてゼフィルス。 ゼフィルスは名前だけしか名乗らなかった。
最後にソラスが。ソラスはとても爽やかな笑みを浮かべながら。
ソラス達は自己紹介を終える。
そして次に、少女はアリア達に質問を投げかけてきた。
それは当然といえば当然のことだろう。
何故ならアリア達がここにいる理由が全く分からないからだ。
「あの……あなた方はどうしてこちらにいらっしゃるのでしょうか? 見たところ冒険者のようでしたが、何か目的があるのでしょうか」
「それは、聖天剣を探しに来たんです」
「えっ!?」
少女は大きな声を出して驚いていた。
「えっと、あの、聖天剣ですか?」
「はい。そうですけど……」
「辞めておいた方がよろしいかと……。」
少女の顔が曇る。
だが、アリア達の意志は固いようで、引く気は無いらしい。
しかし、少女は続ける。
「それは、願いを叶えるという力を求めてですか?」
「えっと、そうですけど、なぜそれを?」
「もし本当に聖天剣あるとするならば、あれには防衛機能があると言われています。辞めておいた方が身のためですよ」
それでもアリアは辞めるつもりは無いようだ。
「私達にはどうしても聖天剣が必要なのです」
「……分かりました。でしたらこのことは忘れないでください。もし聖天剣など取るに足らぬのならば、かの剣に頼る必要もまたないでしょう。
その事はお心に止めておいてくださいね」
アリアは力強くうなずく。
少女は名前を名乗る。
「私はリリアと申します。天剣教団の見習いです。この杖は、私の師匠であるエレナ神父様から頂いたものです。神の加護を受けています」
その少女は杖を優しく撫でる。
「私は、神の意志に従って、この世界に平和と光をもたらすために、聖騎士団に入りました。私に対してだと大丈夫ですが、他の信徒の前でそれは言わない方がいいと思います。」
リリアは真摯な表情で語る。
「でも、あなた方がどうしても聖天剣を探したいというのであれば、私は止めません。ただし、その代わりに、私にも一つお願いがあります」
リリアはアリア達に訴えるように言う。
「それは、聖天剣を手に入れた後、その力を悪用しないでください。聖天剣は、神が人間に与えた試練だと思います。それを使って、人を傷つけたり、自分の欲望を満たしたりすることは、神に背くことです。もし、そんなことをしたら、神の怒りを買うかもしれません」
リリアは真剣な眼差しでアリア達を見つめる。
「あなた方は、聖天剣を求める理由があると言いました。でも、その理由が正しいかどうか、自分自身に問いかけてみてください。本当に聖天剣が必要なのか、本当に聖天剣が願いを叶えてくれるのか、本当に聖天剣が幸せをもたらしてくれるのか……」
リリアはしばらく沈黙する。
「私は、あなた方が幸せになってほしいと思っています。だからこそ、このことを言ったのです。どうか、よく考えてくださいね」
リリアは微笑む。
「それでは、これから一緒に訓練をしますね。よろしくお願いします」
リリアは礼儀正しく頭を下げる。
そして彼女達は訓練に取り組む。 その内容は様々で実技から座学にまで幅広い。
それを学べば、世の大半の遺跡での生存率はぐーんと上がるだろう。
そんな訓練を1週間ほど続けていき、遺跡探索前日になった時だ。
騎士団の団長であるソフィアからアリア達に召集がかかった。
なんだろうと思いながらアリア達は団長室に向かう。
扉を開けるとそこにはソフィアが待っていた。
彼女は椅子に座りながら口を開く。
それは明日から行われる遺跡探索についてだった。
「君達の班は優秀だ。だからリーダーを任せても問題無いと判断した。だから明日の作戦もリーダーとして指揮してくれないか?」
「私が、ですか?」
「ああ、そうだ。」
ソフィアはこくりと首を縦に振る。
「でも、私なんかがやってもいいのでしょうか?」
「もちろんだ。それに、君は強いんだろう?」
その言葉にアリアは強い肯定を示す。それを見たソフィアは少しだけ笑みを浮かべた。
そして遺跡探索当日。訓練に参加していた全員が集まっていた。
その数は三〇ほどだ。その中にアリア達もいて、他の冒険者達と話をしていた
それでは、遺跡探索の作戦について説明しよう。聖騎士団長のソフィアがそう言って、地図を広げた。
「ここが遺跡の入り口だ。ここからは、三つのルートに分かれている。それぞれには、魔物や罠が仕掛けられている可能性が高い。だから、各班は慎重に進んでくれ。目的地は、遺跡の最深部にあるとされる聖堂だ。そこに聖天剣があるかどうかは分からないが、少なくとも何か重要なものがあるはずだ」
ソフィアは地図を指差しながら、続けた。
「私は中央のルートを進む。左のルートは、アリアたちの班に任せる。他の班は各々が考えて、行くべき道に行くように。リーダーの指示に従って行動すること。リーダーは、思念通信の魔法で連絡を取り合って、状況を報告すること。もし何かトラブルがあったら、すぐに救援を要請すること。分かったか?」
「はい!」
全員が声を揃えて答えた。
「では、出発するぞ。神の加護を」
ソフィアはそう言って、中央のルートに向かった。
それを見たアリアたちも、左のルートへ向かう。
遺跡探索が始まった。
遺跡の先へ進むと、そこには大きな扉があった。
扉にはデカデカと、文字のようなものが書いてある。
「これは……何と書いてあるんだろう?」
アリアが首を傾げる。
「分からないな……」
ソラスも同じく首を傾げる。
「私も……」
リリアも同じく首を傾げる。
すると、突然扉が突然開き始めた。
「え!?」
驚く四人の目の前に、広がっていたのは暗黒だった。
「中に何があるか分からないよ……」
リリアは、暗闇を怖がるように、そっとアリアの後ろに隠れた
「大丈夫よ。私が付いてるから」
アリアが言いながらそっとリリアの頭に手を乗せた。
「そうだね。一緒に行こう」
その暗闇の中を進んでいく。すると、ちゃぷちゃぷと少しづつ足元に水が溜まっていく。
そして今は膝程にまで水嵩が来ている。
「ちょっと、なんでこんなとこに水があるの?おかしいわよ」
アリアとソラスは顔を見合わせる。そしてその時、
「うぁっ」
リリアがバランスを崩して、転んでしまった。
彼女の服は水に濡れることで透けていて、下着が見えている。
それを目にしたアリアは、男たちに気付かれる前に自分の上着を着せてあげた。「あ、ありがとうございます」
リリアは頬を赤らめながら礼を言う。
アリアは、恥ずかしそうなリリアを見て思わず苦笑いをした。そしてリリアに手を差し伸べる。
リリアはアリアの手を取って立ち上がる。
それからアリア達は数時間ほどこの遺跡を探索していた。
それでもなお、終わりは見えてこない。
「今日は、ここで休む事にしよう」
ソラスが収納魔法陣から、テントと食料など、一晩越す為に必要な物を取り出す。
「やっと休憩ね」
アリアが地面にちょこんと座りながら言った。
「本当に疲れましたねー」
それからアリア達は雑談をしていく。
そしてしばらくして、何故この探索にさんかしているのか、という話になった。
「ねえ、リリアはどうなの?」
アリアにそう問われるも、リリアは俯いたまま口を開かない。リリアが黙り込んでから少し経った時だ。
「言いたくないなら言わなくていいのよ」
アリアは優しくリリアに語りかける。
「私はね。死んじゃった彼氏が居るんだけどその人を生き返らせるために、天聖剣を探しに来たのよ」
アリアは懐かしむような目で、空を見上げる。
「だから、私は聖天剣を手に入れるまで止まれないの」
「ソラスさんは?」
リリアがそう尋ねると
「僕はアリアの付き添いのような感じだからね」
と答えた。
そんな時だ。突如、地面が大きく揺れた。
「きゃあっ!」
リリアが可愛らしい悲鳴を上げる。
それと同時に、巨大な岩が水面を突き破って、出てきた。
「これは……まさかゴーレム?」
その言葉と同時に、水の中から何かが出てきた。それは水のゴーレムだった。
「このゴーレムは聞いた事があります」
そうリリアがゴーレムの説明を大声で叫び出す。
「確か、この遺跡は古代文明の遺跡で、そこには守護者と呼ばれる機械の怪物がいると」
「それじゃあ、こいつは……」
「はい、おそらく」
そして、ソラスとリリアは同時に詠唱を始める
「我は、神の使い。今こそ、神の力を現せ。」
「熾烈なる炎よ、我が友に力を授けん。紅蓮の剣を以て、敵を焼き払い絶やせ!」
すると、リリアからは、天使のようなは翼が生え、アリアは手に持った燃焔智剣が信じられない程に魔力を放つ。
それはその魔力だけで空気を焼き尽くす程だ。
アリアは水を操る魔物とは戦った事がある。だが、水と戦うのは初めてだ。
アリア達は一斉に戦闘態勢に移る。「アリア!僕と、リリアでサポートするから、君の力で倒すんだ」
「わかったわ」
ソラスの掛け声と共に、アリアは駆け出した。
まずはアリアが燃焔智剣で、先制攻撃を仕掛ける。
その攻撃は空を斬る様に、水を斬り裂いただけだ。
それに続いてソラスも攻撃をする。
しかし、それもやはり、水を斬るだけで致命傷にはならない。
だが、ソラスはまだ斬り続けている。
今では、一秒の間に千を数え、今では瞬きの間に1万を超えた。
それからも更に加速し続け、今では世界すら気付けない間に無限の回数を斬っている。
ゴーレムは無限に斬り裂かれ、霧散して行った。
その水は無限に斬り裂かれた。つまりそれは消滅したのと同義だ。
しかしゴーレムは、無から湧き出てくる。
それは終わらない戦いだ。
例えここを空間ごと取り除こうとも、彼女達の前にゴーレムは姿を現す、永遠に。
だが、それでもアリア達は諦めない。
アリア達はそれからも、戦い続ける。
消滅させ、蘇る。それの繰り返し。
それがしばらく繰り返された頃、遂にゼフィルスが動いた。
「面倒臭いな。消えろ」
彼は、それだけ言うと手を横に振った。
すると、次の瞬間には全ての水が一瞬にして蒸発した。
前のように水が現れるといったこともない。
「何をしたの?」
アリアがそう疑いの目をかける
「ただの水を全て蒸発させただけだよ」
「蒸発?おかしいじゃない。今まではどれだけしても、現れてたのに」
「ああ、そうだな。俺が消したのは水そのものだからな」
「えっ!?」
アリアは驚きの声を上げた。
「まあ、細かいことは気にすんな」
その時だった。リリアが声を上げる。
「あれじゃないですか?」
そうリリアが指をさした先にあるのは天聖剣だ。
その剣は、まるで水晶の様な美しさを放っている。
「これが天聖剣のようだね」
ソラスがそう言うと、この場に"︎あれ"︎が現れる。
否、この瞬間既に現れていた。
それは、自身が何であるか、というのを語ってはいない。だがこの場にいる全員が、それが何か感じ取った。
そう神である。
その姿は無い。しかしそこにいるというのが明確に伝わってくる。
これこそが天聖剣の防衛機構なのだろう。
天聖剣の強大な力を認めたものにしか与えぬのだろう。
アリアも、ソラスも、全員誰も挑もうとはしない。神とはそういうものなのだ。
知力によっては知解不能であり、 言葉によっては表現不能である。故に、彼らはそれを前に動けないでいる。ただ、そこで佇んでいる事しかできないのだ。
しかし、そんなことでアリアが諦める筈も無い。
彼女は天聖剣の目の前に立つ。そして天聖剣に向かって、手を伸ばす。
そして天聖剣の柄を掴む。
しかし不思議な力で、それは阻まれる。「やっぱりダメか……」
「アリア、やるしかないんじゃないのかい?」と。そう吹っ切れたソラスが剣を抜きながらも声を発する。
「そうね」
「私も頑張ります」
そう可愛らしく、リリアもやる気を見せる
「私は貴方達の力を信じるわ」
そう言いながら、剣を振るう。
それは神に向かって振るわれる。
その刃は確かに神を捉えた。
アリアは驚愕する。
その刃は確かに、神の身体を切り裂いた。
だが、かすり傷1つ付いていない。
「貴様この剣に何用だ」
その声は、この場に似合わない程に静寂だ。
「私は天聖剣に願いを叶えて貰いに来たのよ」
「そうか、貴様の願いは男を蘇らせて欲しいのだな」
「ええ、その通りよ」
「わかった。では、我を殺してみろ」
するとその神の神性が少し弱くなった。人間でも手が届く程に。
「今なら我を殺せるぞ」
アリアは剣を構える。
「みんなは手を出さないでちょうだい」
その言葉に、ソラス達は一歩下がる。
アリアは走り出す。その速度は光速を優に超える。
その速度の攻撃を、神は軽々と受ける。そして、アリアは何度も攻撃を仕掛ける。
それはまるで、踊っているかのように、優雅で美しかった。
しかしそれは、神に太刀打ち出来る理由にはならない。
だがそれも、諦める理由にもならない。
「我は、汝を滅する」
神がそう言うとアリアが別空間に移動させられた。
そこは世界よりも大きく、何処までも無限に続く場所。そして、そこにはアリアと神の2人だけだ。
「ここは……」
「ここは我の世界だ」
ここに来てアリアが更に力を持ち始める。
もう少しで、願いが叶うということ、しかしそれが防がれているということなどが奇跡的に組み合わさり、アリアは今までにない力を出す事が出来るようになった。
この世界は全て、人々の摺り合わせで出来ている。
人々は個別に自分の世界を持っており、それぞれがその想像という何処までも広がる常識を持っている。つまりこの人々が住む世界では、どれだけ己の世界を出す事が出来るか、ということに他ならない。
アリアはここに来て、ピンチになる事で己の自己顕示力が、神をも上回る程になった。
神はそれを察し、焦る。このままだと、本当に殺される。だが、神は死ぬ事が出来ない。何故ならば、神は死という概念を持たないからだ。神はこの世界に、創造された時に、既に神として存在している。つまり、最初から神なのだ。故に、神に死というものは無くただの状態に過ぎない。
しかしそれは神の持つ世界での話だ。
今、神が死ぬとどうなるのか、それは誰にもわからない。
神はその事を、初めて恐れた。
だが、既に遅い。
「天聖剣よ、我が力を持って、この者の望みを叶えよ」
天聖剣は光を放つ。
そして、アリアが元の場所に戻ってきた。
「やった……遂に成功したわ」
そう言って、天聖剣は消えていった。
そして、アリアの恋人が蘇る。
「ただいまアリア」
アリアは優しく微笑む。
ゼフィルスとリリアはその様子を遠くから見ていた。
「まずは、あれをどうにかしなくちゃね」
「ああ、そうだな」
そこには瀕死の神が佇んでいる。
「ああ、死ぬとはこういう事か」
そして神は消えて無くなった。
「よし、これでクエスト達成だね」
「ええ、そうね」
そう言って、ギルドへ報告に向かった。
願いの刃 @rihito0131
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます