第4話.勝利者なんていらない Bパート

 啖呵を切った颯が、紅愛に飛び掛かる。この時点で三割ほど変身が解除されていたが、そんなことで颯は止まらない。


「学習しないやつ」


 紅愛が再び触手を呼び出し、颯に狙いを定める。


「トンファーネル!」


 颯の背中に隠れながら、綺羅がトンファーを遠隔操作し、紅愛の触手をビームで焼き切る。


「颯ホームラン!」


 颯は再び呼び出したハンマーを、紅愛のお腹に叩き込み屋外へとふっとばす。


「っ!  なかなかやる……けど、そう簡単にはさせない」


 紅愛はさらに触手を増やし、それを足場にした。


「ギガドリルスピン」


 束になった触手が螺旋起動を描き二人に迫る。


「貰った!  綺羅きゅん!!」


 颯は、ハンマーをシールドに切り替えて受け流しギリギリで逸らす。

 しかし、それでもシールドは抉られ二撃目は受けられそうになかった。


「トンファービーム!!」

「っ!  ギガドリルスピン!!」


 綺羅は本日何度目かわからないトンファービームを撃ち込むものの、紅愛の触手とぶつかり合う。ビームは触手を溶かし、触手もまたビームを分解する。一進一退の攻防だ。

 もはや、プライドのぶつかり合いであり、負けると思ったほうが負けるだろうし、先に力尽きても負けるだろう。


「あああああああっ!!」


 綺羅は叫ぶ。気持ちで負けないためにも気合をいれるためにも叫ぶ。

 対して、紅愛は言葉を発する余裕もなく、歯を食いしばり全力でぶつかる方針を取った。


 はじめに動いたのは綺羅だった。

 さらにトンファーを増やし、飛ばして触手の側面を狙った。


「トンファーネル!」

「っ!  卑怯」

「颯の分があるから、仕方ないね!」

「でもそっちがその気なら」


 紅愛は、一本の触手を地中から綺羅に向かわせ、即座に腹部を貫かせた。


「んぐっ!」

「中からならこちらも分解しやすい」

「……はぁ……なら、ここからは根性比べだね。トンファーサンダー!」


 綺羅は、自身を貫いた触手にトンファーで触れながら次の手に移る。

 電撃技だ。触手を辿り紅愛にダメージを与えるが、貫かれている以上綺羅にもダメージが及ぶ。

 正直なところ、颯の変身が解除されたらその時点で敗北確定なので、時間がない。それに気づいた颯も既に省エネモードで闘いを見守っている。

 綺羅の変身も、紅愛の変身もそれぞれ少しずつ解除されていく。

 紅愛はここで、表情を歪め攻撃の手を緩めた。いや緩めざるおえなかったのだ。


「勝っ……た?」

「や、やったやった!」


 二人がはしゃいでいると、唐突に綺羅の真上に次元の裂け目とでもよぶような切れ目が発生した。


「これは、なんだろう」

「それが魔王になるための最終切符だよ。はぁ……はぁ……疲れた」


 息を切らしたアスタロトが説明する。


「……ふぅ。幻月はなんとか生きてたので、颯は向こうで助けて上げてくれ」

「えっ、うん」

「綺羅は俺と一緒に、次元の裂け目に入ろう」

「先に回復とかしなくて平気?」

「あー……俺を暫く抱きしめておいて。気休めだけど傷は塞がるし多少の回復もするよ」

「わかった」


 綺羅はアスタロトを抱きかかえる。


「あの子の名前は?」

「紅愛とか言ってた」

「そか。紅愛、屈辱だろうけど力を借りるよ」

「っ……負けたわたしに選択肢はないから」


 その言葉を受け、綺羅は紅愛の側にいき、アスタロトを押し当てた。


「……おい、綺羅。なんで紅愛に俺を押し付ける」

「そりゃ、わたしよりボロボロじゃん?  回復してもらわなきゃ」

「ったく、しょうがないなぁ」


 こうして、次の戦いに向かうための回復を行ったのだった。



「ありゃ、こっちも酷いな。幻月さーん?  颯さんだよー」

「……ここに来たということは、向こうはちゃんと勝てたみたいですね?」


 ところどころクレーターのようなものができた戦場の真ん中で、幻月は大の字になって倒れていた。

 その姿は痛々しくも清々しく、颯には輝いて見えた。


「そうだね。綺羅きゅんがこれから次元の裂け目に突入するよ」

「そうですか……それじゃこのお仕事も終わり。ですね」

「この後はどうなるの?」

「さぁ……なんとも、強いて言えば綺羅さんの勝利を願って待つくらいでしょう」

「ははっ、確かに」

 

 

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