第4話.勝利者なんていらない Aパート

「トンファァァァビィィムッ!!」


 この夜、散発的に狙われていることを利用したレベリングを行っていた。綺羅も10人ほど倒し、ようやくレベル3になった。

 倒した相手は、近くの空き地に敷いておいたブルーシートの上に放置している。


「ふぁ〜……そろそろ交代の時間かな?」

「そうだね、お疲れ様」


 綺羅は変身を解除し、希望へと戻る。


「颯の番の間に少しでも休んでおこ」

「そうだね。かなり疲弊してるみたい」

「二時間で10人だもの。多すぎるよ」


 希望が自分の家の方を向くと、何かが高速で突っ込んでいくのが見えた。


「……何あれ?」

「わからないよ。でも、やばそうだ。幻月の方に確認しに行ってくる」

「そんじゃ、わたしは家に向かうね。嫌な予感しかしないや」

「奇遇だね。俺もだよ」



 時間は少し遡り、幻月は、希望たちと距離を取り仕掛けてくる人数を調整していた。

 一旦、侵攻してくる敵が止んだこともあり、小休止をはさむ。

 すると、高速で移動してくる魔王の器がいた。

 その肩からアスタロトと似たような存在が飛び降り、幻月の前に姿を表した。


「邪魔するよ」


 幻月は、弓を構える。


「牙鬼幻月さん、あんたに恨みはないが、うちのこが覇道を歩む間だけでも足止めさせてもらうよ」


 言葉が終わるとともに、敵の両脇にガトリング砲が現れ、一斉射される。

 幻月は、弓の連射で応戦する。


「やはり、こんな玩具じゃあんたを止めるには至らないか」

「わかってるのなら、手を変えてみればよいのでは?」

「そうだね……じゃ、こうだ」


 敵は、ガトリング砲を増やしながら攻撃をし続けた。

 幻月も流石に撃ち落とすのを止め、回避に専念する。


「へぇ、中々ね。こんなに強いなら向こうについていけばよかったのに」

「彼女は、レベル9。大勢が決まる戦いは直接魔王の器同士じゃないと、ねぇ?」

「っ!?  それじゃ、せっかくだから名前も聞いてあげてもいいけど?」

「情報になるから教えないよ。もうしばらく君の時間を貰うよ」


 その言葉に、幻月は武器を構え直す。


「いいでしょう。ならさっさと倒して援護に向かうのみですから」



変身リリースマイハート!」


 所変わって、颯である。

 家の屋根ごとぶち破って侵入してきた相手と対峙していた。

 相手は、正統派の魔法少女といった出で立ちであるもののさめた目で、颯を見据えていた。


火神紅愛ひがみくれあ。その名を刻み倒れなさい」

「そう簡単に颯さんはやられないよ!」


 颯は、最短距離で紅愛との距離をつめ、ナイフを振り抜こうとする。

 しかし、視界の外から衝撃を受けた。


「ぐぇっ!?」

「とどめ」

「っ! 泊流忍術パートツー、狂い咲きの夜桜!」


 颯は、無理矢理超加速のランダム機動で距離をとった。

 全体を俯瞰すると、紅愛を中心に触手が展開しているのを理解した。

 太いものと細めのものを数本。それが紅愛の武器なのだろう。

 逃げ場などとっくになく、正面からやり合うしかなかったのだ。


「さあ、ここからどう攻略する?」

「全部まとめてたたっ斬るだけだよ!」


 颯は、意を決して近場の触手を斬ってみようとナイフを突き立てた。

 しかしそれは颯の予想に反し、ナイフが溶ける形で呆気なく希望が絶たれたのだった。


「なん……で?」

「次元力を分解して吸収する力があるの。近接タイプの貴女では相性が悪いでしょうね」

「それなら、触手を避けるだけでしょ!」


 颯は、壁や天井さえも床に見立て、立体的軌道で加速しながら、次の手を考える。


「光になれーー!」


 颯は、巨大ハンマーを呼び出し、分解されきる前に紅愛を殴り飛ばす選択を取った。だが、これは失敗に終わる。

 巨大にしたことで死角が増えてしまい、触手の接近を見逃してしまったのだ。

 細い触手が颯の両足に絡まり、機動力を奪う。

 さらに、次元力を奪われる事で徐々に変身も解除されていく。


「チェックメイト」

「それはどうかな?」

「?  ……まさか」


 紅愛が颯から視線を外し、窓の外をみると、ビームが眼前まで迫っていた。

 そのビームは紅愛に直撃し、維持できなくなった触手が緩み、颯は離脱した。


「お待たせ颯」

「綺羅きゅん。助かったー。あいつの触手に触れると分解されちゃうみたい」

「えっ、つよ……」


 瓦礫の中から紅愛が現れる。

 その姿は、多少の疲弊が見て取れるものの致命傷には至っていないようだった。


「折角直撃したのに、威力が足りなかったみたいね」

「こっちだって連戦続きだから多少疲れてるんだよねぇ……颯!」

「こっからが本番だよねぇ!」

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