第1話.Wi-Fi産まれブルーライト育ちの魔王さま Bパート

『Code Of Kira』


音声が聞こえたかと思っている間の、ほんの一瞬で希望の衣装が変わった。

その姿は一言でいうと魔法少女のような姿であった。

基本色は青。差し色でところどころにオレンジ色が使われていた。


「……あれ、なんで動けるんだろ?  バグ?」

「君が魔王となる器だからだよ」

「あーはいはい。なるほど……わかんないけどそのパターンね?  細けぇことは一旦後でいいや。この姿の名前はなんてーの?」

「名前?  君の魂の名前を使えばいいよ。よく知らないけどなんかあるんでしょ?」


希望は自身の手足を見たり、先程の受けごたえで何となく状況を察した。

変身したのだ。恐らくVtuberとしての外面に近くなっている気がする。

であれば、自身の状態よりも決め台詞を発するほうが重要だと考えている。

スイッチが入らないからだ。まあそれはそれとして、後で今の状態用の挨拶は用意しようと誓った。


「Wi-Fi産まれブルーライト育ちの二度咲きVtuber! 鋼輝羅。定刻どおりただ今配信!」


そのまま何となく武器をイメージしたら、トンファーが現れたので、深く考えずに握る。

そのまま一歩踏み込むと、一瞬で幻夢の懐まで飛び込んだ。

それに気づいた幻夢が先程同様に攻撃を始めるが、先程と違いスローモーションに感じた。

どうやら鋭い爪を使った突きだったようだ。輝羅はトンファーでそれを受け流す。


「踏み込みが足らんな」


戦えるとわかり、輝羅はニヤリとした。


「イメージするんだ、最強の君を!  それが力となり立ち塞がるものを打ち砕く!!」

「承知ぃぃぃ!」


アドレナリンがドバドバと溢れ出ているのを感じる。

トンファーをクロスさせ、高らかに叫んだ。


「トンファァァァビィィムッ!!」


トンファーの交差部から極太なビームが炸裂し、幻夢の頭を貫いた。


「成敗っ!!」


そのままビームを振り下ろし、両断した。

すると、幻夢から黒い粉のような光の粒子が飛び散りだした。


「デビュー戦としては上々だ。さっ、そいつを取り込んで」

「どうやるの?」

「近くで手をかざせばいいよ」

「わかった」


輝羅が手をかざす。すると、輝羅の手のひらに黒い光の粒子が取り込まれていく。


「それを集めるとレベルが上がるよ」

「レベル制なんだ。まあ色々教えてくれるかな?  出来るだけ隠し事はなしで」

「いいよ。そうだな……このままここでちょっと待ってていいかい?  連れがいるんだ」

「いいよ。合流したら家で混みいった話をしよう。とりあえず……」


ここで変身がとけ、希望は元の姿に戻った。


「あ、戻った」

「今のレベルだと維持できるのは2分30秒ってところか。平均より上だね」

「えっ、短っ」

「まだ器だしレベル1だから仕方ないね。っと……名乗ってなかった。アスタロトだ。よろしくマスコットだと思ってくれ」


アスタロトは恭しく頭を垂れた。


「俺は魔王を見出しに来たんだ。その為に、次元力の上限が最も高そうな君を選んだんだ」

「次元力?」

「それが高ければ高いだけイメージ通りの力を生み出せる。一旦それだけ分かれば十分。詳しくは後でね」

「そして、彼の待ち人がこの妾よ」


希望の左耳元から囁くように声が聞こえた。

びくりとしながらもそちらを見る。

そこには、数ミリ先に褐色肌で二本角の銀髪女性の顔があった。


「ガチ恋距離じゃん!!!」

「?」


希望は後退り、全身をチラ見する。

和風の衣装……見方によればくノ一なのかも知れないし、シスターかもと言われたら、薄目で見ればそう見えなくもないかも?  といったものだった。

どっちを選んでも、お前のような○○いるか!  という突っ込みが必要になるラインだった。


「えっっっっど!  ぺぇ暖簾じゃん!!  リアルで見れると思ってなかった」

「ぺぇ……?」

牙鬼幻月きばおにげんげつ。形式的には保険会社のOLよ」

「えっ……ってことはこれスーツってことぉ!?」

「そうだけど?」

「やべぇ世界の人じゃん」


幻月はきょとんとしてるが、アスタロトは冷めたい目で希望を見ていた。


「希望。彼女は君の戦闘をフォローしてくれる人だよ。武門の名家なので、安心していい」

「……なるほど、制限時間問題」

「そういうこと。後は君の家で話そうか」

「まぁ……そうだね。そうしよう」


これが、一縷希望の運命の分岐点であった。

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