フリマアプリ物語

ルビーのピアス

K18 ゴールドブレスレット 訳あり

『受取手続きが完了しました』


フリマアプリでゴールドのブレスレットを購入した。

素材はK18で、ダイヤモンドとサファイアがあしらわれた上質なブレスレットだ。

5,000円とお値打ち価格だったので、即時購入した。

想定外だったのは届いた商品を確認し、受取手続き完了ボタンを押したところで異世界に転送されたことだ。


正確には異世界に転送されたんだと思う。だって私の住んでいた世界には、猪を丸呑みにする植物など存在していないはず。

目の前で繰り広げられる恐ろしい光景に腰を抜かしていると、その植物がさらに巨大な恐竜に根っこごと食べられている。


「終わった」


今度の休日に、友達の未来と新しくできた映えスイーツのお店に行く約束をしていたのに。

その後は推しの誕生日会をひっそり行うはずだったのに。

軽い走馬灯を経験しながら覚悟を決めたその時、軽快な切り裂き音と耳をつんざくような恐竜の雄叫びが聞こえた。

思わず耳を押さえて蹲っていると肩を叩かれる。


「ひいい……」


ガクガクと震えながら後ろを振り向くと、白金色の鎧を身に付けた美少年がいた。目が覚めるような赤髪に金色の瞳は物語に出てくる勇者を思わせる。


「チェンジ!!」

「は?」


突然、薄暗い空間に放り出されたと思ったら、異世界転生する前の自分の部屋に戻っていた。


「……どういうこと?  異世界転生して、不思議な力を授かった私と勇者が力を合わせて世界を救ってハッピーエンドになるんと違うんか?  チェンジって……チェンジって……なんなん!? そりゃあ、私はパッとしない見た目ではあるけど、特別な力を持ってる(?)から貴方だけの判断で現実世界に戻したらいけないのでは!?」


留まるところを知らない怒りは、どんどん加速する。


「そっちがその気なら仕返ししてやるわ!」


その日、私は異世界への嫌がらせを始めた。

まずはゴキブリを10匹集めて入れた袋に、ブレスレットを巻き付けて異世界へ転送。我ながらよく10匹も集められたなと思うが、怒りのパワーで少しも苦は感じなかった。むしろ集まったときには高揚感まであった。これで復讐ができる。


「これを見たら、アイツはどう思うかな……。ケケケ」


転送して1時間後にブレスレットとともに、空になった袋が返却されてきた。


「よしよし、無事にあっちに届けられたみたいだね」


復讐を完了したら、胸がスっとして少し冷静になった。


「この1回だけで許してあげる……」


袋を捨てるために持ち上げてゴミ箱まで運ぶ途中、1枚の小さな紙が袋から落ちてきた。不思議に思って見てみると衝撃的な内容が書いてあった。


『やいブス! いくら自分が選んでもらえなかったからって、醜い仕返しをしてくるとは見下げ果てたぜ! どうせこんな事をしてくる位だから、そっちの世界でもお前は無価値なんだろう! チェンジして正解だぜ! じゃあなブス!』


読んだ後に身体中が真っ黒に染まった気がした。決めた。こいつが謝ってくるまで仕返しし続けよう。


次の日からカメムシ、ムカデ、ヘビ、巨大クモなどを袋に詰めて、異世界へ転送した。勇者は語彙力がないのか、毎回ほぼ同じ内容を紙に書いて返してくる。


気性の荒い猫とか野ねずみなども送ってみたが、可愛くてペットにしたと喜びのメモが入っていたため、虫系で攻めている。


でも、そろそろネタ切れしてきたので、ここで18歳の可愛い黒髪美少女を送り込んだ。今回はとても気に入ったらしく、1ヶ月は戻ってこなかった。


1ヶ月後、彼女は戻ってきて私にこう言った。


「任務が完了しました」

「どうだった? どんな顔をしてた?」

「最初は笑顔を向けたり、たくさん会話を楽しんだりしていたのですが、私が何なのかわかった時に泣き崩れておりました」

「そう……ケケケ! ざまぁみろってんだ!」


私が異世界に送った彼女はアンドロイドだった。彼女は人間に代わって家事をする高性能のアンドロイドで、一見しただけでは人間と見分けがつかないほど、皮膚の質感や視線、口の動き、体の動かし方まで人間そっくりに作られている。


「『オレが悪かった。もう許してくれ』とおっしゃっていました」


異世界の勇者は彼女に恋をしたのだ。彼女が感情を持たないアンドロイドだとは知らずに。私が受けた悲しみや怒りは、この復讐を持って収まった。


戻ってきた不思議なブレスレットはフリマアプリに「訳あり」と明記して出品した。すると直ぐに買い手がつき、新たな購入者の元へと届けられたのだった。

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フリマアプリ物語 ルビーのピアス @rubi-nopiasu

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