114 推し活の結末
「行ってくるわ。今日は推しの5周年イベントなの!」
真紀は輝く笑顔で家を飛び出した。
数年来の推しアイドル・レイジのために、時間もお金も惜しみなく注いできた。部屋には公式グッズが所狭しと並び、壁一面には彼のポスターが貼られている。
イベント会場はすでにファンで溢れ返っていた。興奮が肌にまとわりつき、熱気が空気を揺らす。推しの名前がプリントされた特攻服を着て、ペンライトを握りしめる真紀。レイジが登場した瞬間、割れんばかりの歓声が響いた。
「レイジー!! 愛してるー!!」
真紀の声は喧騒にかき消されたが、そんなことは気にならない。レイジはステージの上、誰よりも眩しく輝いている。彼の一挙手一投足に心が震える。
そして――アンコールの最中、信じがたいことが起きた。
「みんな、本当にありがとう。今日はこの場を借りて、特別な人を紹介します!」
レイジの手が空を切ると、舞台袖から美しい女性が現れた。会場は一瞬、凍りついた。
「彼女、僕の婚約者なんだ。」
静寂の後、ファンたちの悲鳴と怒号が吹き荒れた。だが、真紀は動じなかった。唇をきゅっと結び、ただ彼を見つめていた。
そして、彼女は呟いた。
「……ああ、ついにこの時が来たのね。」
懐から取り出したのは、小さなリモコンだった。スイッチを押すと、レイジが急に足を震わせ始める。
「おかしいな……体が……!」
次の瞬間、彼は音もなく崩れ落ち、無機質な電子音が響いた――ジジジ……システム異常。AIモード停止。再起動を開始します。
「そう、私の推しは初めから"理想の推しAI"だったのよ。」
真紀は満足げに呟きながら、後ろに控えるメーカー担当者に冷たく告げた。
「返品手続き、お願いできるかしら?」
担当者は慣れた手つきでレイジの体を引きずり、トラックへと運び込んだ。
「さ、次はどんな推しにするかしらね。」
真紀はスマホで新しいAIアイドルのカタログを眺め始めた。彼女の推し活は、終わらない。
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