109 まさかの種明かしの結末
男は、古びたカフェで時間をつぶしていた。外は雨。退屈しのぎにスマホを弄っていたとき、不意に隣のテーブルに座る老人が話しかけてきた。
「きみは、種明かしが好きかね?」
突然の問いかけに男は少し驚いたが、すぐに気を取り直して微笑んだ。
「まあ、ミステリーなんかは好きですよ。」
「じゃあ、面白い話をしてあげよう。トリックがあるんだが、君がそれを見破れるかどうか、試してみないか?」
男は軽い気持ちで頷いた。
「いいですね。聞かせてください。」
老人は、にやりと笑って古ぼけた懐中時計を取り出し、男に見せた。
「この時計、少し変わっているんだ。これを使って、今ここで君に『これから起こること』を予言するよ。」
「ほう、どうやって?」
男は興味を引かれた。
「簡単だよ。」
老人は時計の針をくるくると回し始めた。
「今からちょうど3分後、あのドアから一人の男が入ってくる。彼は真っ赤な傘を持っていて、君の隣の席に座る。彼が席に着いた瞬間、私は種明かしをする。君は驚くことになるだろう。」
男は失笑した。
「そんな偶然があるわけないでしょう?」
だが、気が付けば時計の針はもう2分を切っていた。半信半疑のまま、男はカフェの入り口をちらちらと見ながら、時間が過ぎるのを待った。
2分55秒、56秒、57秒……ドアが開いた。
なんと、予言通りに赤い傘を持った男が入ってきた。男は無言で、隣の席に座った。男は愕然とし、目を見開いて老人に視線を移した。
「これで、君も驚いたかな?」
老人は静かに笑った。
「さて、種明かしだ。」
男は「どうやったんです?」と半ば興奮して尋ねた。
老人は時計を回しながら言った。
「実はね、この時計には特別な力があるんだ。未来をほんの少しだけ覗くことができる。それを利用して、ちょっとした予言をしてみせたに過ぎないんだよ。」
男はホッとした。
「なるほど、それなら納得です。未来を見る時計、面白いですね!」
老人は深く頷いた。
「でも、ここからが本当の種明かしだ。」
「え?」
老人は静かに立ち上がり、時計をそっと男の前に置いた。
「実はこの時計、未来を見るだけじゃなくて、物語の結末をも操作できるんだ。」
「操作?」男は眉をひそめた。
「どういうことです?」
「君の選択も、すべてこの時計で予め決められているんだ。実際、君が今驚いているのも、時計の指示通りだ。君がここにいる理由もね。」
「馬鹿な!」
男は思わず笑い飛ばしたが、急に全身が冷や汗で覆われた。カフェの中の景色が少しずつぼやけ、音が消えていくようだった。まるで夢の中にいるかのようだ。
「信じられないかもしれないが、君はただの登場人物に過ぎない。この時計は、私が物語の作者であることを証明してくれる。」
「じゃあ、俺は……物語の中にいるってことですか?」
老人は微笑んだ。
「その通り。君はこの瞬間に、自分がフィクションだと気づいた。ただ、それもまた私が決めたことだ。」
男の視界は次第に暗くなり、最後に見たのは、老人の手の中で静かに時を刻む時計だった。
気がつくと、男は自分の部屋で目を覚ました。何事もなかったかのように。
ただ一つ、机の上にあの古びた懐中時計が残されていた。
一体どちらが、フィクションの人物だったのだろう……。
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