82 わくわくしないハッピーエンド


真夏の夜、セミの声が響き渡る中、公園の一角で少年が缶ジュースを自動販売機で購入しようとしていた。100円玉を投入し、ボタンを押す。しかし、何も出てこない。もう一度ボタンを押してみるが、結果は同じだ。

少年はイライラし始め、何度もボタンを連打する。それでも自動販売機は反応せず、ただ冷たい金属の塊としてそこに佇むだけだった。

ふと、少年は自動販売機の側面に貼られた古いポスターに目を留めた。そこには、笑顔で缶ジュースを手にした子供たちの写真と、「わくわく、楽しい!」というキャッチコピーが書かれていた。


少年はポスターをじっと見つめ、そして呟いた。

「わくわく? 楽しい? こんなの全然楽しくない!」


そう言いながら、少年は自動販売機を思い切り蹴飛ばした。すると、自動販売機は音を立てて倒れ、中から無数の缶ジュースが飛び出してくる。

少年は呆然と缶ジュースの雨を見つめた。そして、ふと気づいたのだ。


この世の中、壊れた自動販売機のように、いくら頑張っても何も出てこないものばかりなのかもしれない。


しかし、その時、彼はさらに大切なことに気づく。時には、予期せぬ方法で、世界は応えてくれるのだ。自動販売機が壊れたことで、彼はただ一つの缶ジュースではなく、無数の缶ジュースを手に入れた。それは、予想外の幸運だった。


それでも少年は、缶ジュースを一つだけ手に取り、公園を後にした。その背中に、セミの声だけが虚しく響いていた。しかし、彼の心には新たな理解が芽生えていた。世界は時に厳しく、報われない努力を強いるが、それでも諦めずに挑戦し続ければ、思わぬ形で恩恵が訪れるのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る