18 夜陰の恋

夜陰は、彼女に恋をした。


彼女は、夜陰のことに気づいていなかった。彼女は、夜陰が見えないからだ。


夜陰は、彼女のそばにいたかった。彼女の笑顔や涙や声や香りを感じたかった。でも、夜陰は、彼女に触れることも話しかけることもできなかった。夜陰は、彼女に影響を与えることができなかった。


夜陰は、彼女の日常を見守っていた。彼女が学校に行くときも、友達と遊ぶときも、家で勉強するときも、寝ているときも、夜陰は彼女の後ろについていた。


夜陰は、彼女が他の男の子と話すのを嫉妬していた。彼女が他の男の子に笑顔を向けるのを悲しく思っていた。でも、夜陰は、何も言えなかった。何もできなかった。


ある日、彼女が帰り道で事故に遭った。車が突然飛び出してきて、彼女をはねた。彼女は血まみれになって路上に倒れた。


夜陰は、慌てて駆け寄った。彼女の顔を見た。彼女は意識がなかった。息もしていなかった。


夜陰は、泣き叫んだ。助けてくれと叫んだ。でも、誰も聞いてくれなかった。誰も気づいてくれなかった。


夜陰は、彼女の手を握った。温かさが残っていた。でも、すぐに冷たくなっていった。


夜陰は、彼女に告白した。

「好きだよ」

と言った。

「ずっと好きだった」

と言った。

「一緒にいたかった」


すると、不思議なことが起こった。


彼女が目を開けた。


彼女が笑顔を見せた。


彼女が

「ありがとう」

と言った。


そして、彼女が

「私も」

と言った。


夜陰は、驚いて聞き返した。「私も?」


彼女は、

「私も、ずっと好きだった」

と言った。

「一緒にいよう」

と言ったのだった。


夜陰は、信じられなかった。嬉しくて涙が出そうだった。


「本当?」


「本当」


「どうして?」


「どうしてって……」


彼女は、夜陰の顔を見つめて言った。

「あなたは私の影だから」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る