17 糸電話の声

「お父さん、糸電話ってどうやって作るの?」

小学生の娘が、父親に尋ねた。


「簡単だよ。空き缶二つと紐があればいいんだ。空き缶に穴を開けて、紐を通して結ぶだけ。それで、一方の空き缶を君に渡して、もう一方を僕が持つ。距離をとって、空き缶で話すと、音が伝わるんだよ」


「へえ、すごいね。でも、どうして音が伝わるの?」


「それはね、空き缶が振動することで、紐に音波が伝えられるからだよ。紐が振動すると、もう一方の空き缶も振動して、音が聞こえるんだ」


「なるほど。じゃあ、作ってみようよ」


「いいとも。さあ、空き缶と紐を探そう」


父親と娘は、家の中を探し回って、必要な材料を集めた。そして、糸電話を作って、遊び始めた。


「お父さん、聞こえる?」


「聞こえるよ。どうだい、面白いでしょ」


「うん、面白い。でもね、お父さん」


「なに?」


「糸電話って、本当は魔法なんだよ」


「魔法? どういうことだい」


「実はね、糸電話で話すときは、心の中で思ったことが相手に伝わるんだよ。言葉じゃなくて、気持ちが伝わるんだ」


「そうなのかい。じゃあ、今君は何を思ってるんだい」


「今はね……お父さんが大好きだって思ってるよ」


娘はそう言って笑った。父親も笑って応えた。


「ありがとう。僕も君が大好きだよ」


二人はしばらく糸電話で会話を楽しんだ。しかし、そのとき父親は気づかなかった。


娘の口から出た言葉と、糸電話から聞こえた声とは、微妙に違っていたことに。

本当にそれは娘の心の言葉だったのだろうか。

今となっては知る由もない。

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