エピローグ



『前略 天川勇吾様

 先日の戴冠神殿との戦いからしばらく経ちましたが、その後の体調はいかがでしょうか。僕たち『採取調合クエストチーム』改め『破滅要因隔離チーム』は現在第一階層の西方にあるデッサ聖騎士団領に来ています。薬師寺さんが錬金術に使う素材を集めたいって言うから、しばらくはこの辺のダンジョンである『パレルノ山』で活動するつもりです。僕と渡辺さんがいるから心配は不要なので、くれぐれも旗野さんに会いに来たりしないように。闇堕ちしたら殺すからね。


 そうそう、監視用の使い魔から見てたんだけど、この頃ちょっと吉田くんとか辺見くんと距離が近すぎないかな? 親友とは言っても節度があるよね。きみの魂と身体は先生のものでもあるんだから、あまり勝手に扱わないように。それから夜にこっそり能見くんと特訓するのもどうかな。天川くんが強くなるのはいいよ? 僕以外の奴に勝手に殺されても困るし。だからといって深夜に二人きりっていう状況は誤解を招きかねないし、もうちょっとわきまえてほしい。


 天川くんの生活態度に関してはまだまだ言いたいことがあるけど、とりあえず今回はこのへんで切り上げます。

 先生に託された願いを忘れず、きちんとクラスメイトが全員揃った状態で帰還すること。それさえ忘れなければ、僕はきみを何があっても守るってことだけちゃんと覚えておくように。もしそれに失敗して闇堕ちなんてしたら、わかるよね?

 いつでも天川くんを見ているよ。


 葬送

 きみの守護者あるいは死神、今井北斗より』


 朝起きたらこんな感じの手紙が枕元に置いてあった時の感想を述べよ。

 人間体になって身支度を整えた天川勇吾は真顔になって呟く。


「シンプルにこわい。ていうかこれ『草々』の間違い、でいいんだよな」


 そうじゃなかった場合が嫌すぎる。

 今井北斗が自分に抱いている感情が仇に対する恨みや憎しみといった単純なものだけではないことには気づいていたが、それにしたって複雑怪奇にも程がある。

 難解な人間心理についての考察をひとまず棚上げにして、勇吾は寝室を出た。

 元から朝は早い方だが、他の部屋からもちらほらと運動部系の生徒が顔を出し始めている。男子用に割り当てられた宿舎はそこそこの賑わいで、勇吾は部活動の合宿を思い出して懐かしさを感じた。

 肩にトリ吉を乗せた竜太と眠そうな颯がこちらに気付いて声を掛けると、他の男子たちも次々とやってきた。


「勇吾、おはよう!」「勇吾、今日はイケメンじゃん」「あとでモフらせろ」「ちょっとは遠慮しろよ。にゃっさんにも嫌がられてたろ」「そうにゃそうにゃ、俺たちにも触られたくない場所があるにゃ」「あら、昨日は気持ちよさそうだったけど?」「おいナオミさんモードで男子エリアうろつくな!」「いまさらっとすげえこと言わなかった?」「あの、特訓だから。俺と天川もいたから」「うおっ隠岐いたのか」


 やや騒がし過ぎる気はするし、周囲からの勇吾に対する接し方もかなり変化している感じではあるが、これはこれで悪くないと思えるようになった。

 気安く声をかけてくれるクラスメイトたちも、以前よりもずっと頼もしく感じられるようになった竜太と颯も、みな大切な仲間たちだ。

 

(良かった、本当に)


 戦いの後、勇吾たちは拠点をアンチクエストシティに移していた。

 オリヴィアが管理する『未認可神殿』なる施設を利用し、そこで力を蓄えながら今後の戴冠神殿との戦いに備えるためだ。

 勇吾、竜太、颯の三人は連れ立って水場に顔を洗いに行く。

 異世界風の環境ではあるが、住環境に関しての不便は以前ほど感じていない。

 本質的には魂を中心に肉体を再現しただけの存在である勇吾たちにとって、元通りの生活を完璧に再現する必要はない。

 だが、それでも可能な限り快適さを提供しようとしてくれているオリヴィアの心遣いはとてもありがたかった。


「勇吾、今日は俺と颯でクエスト進めながら新しいペット探しもやる予定なんだけど、そっちの予定は?」


「聖女組が三日ぶりに帰ってくる予定だから、その状況次第かな。守梨が今回も裏社会で勢力を拡大できるようなら、第二階層の『奴隷商会』と接触できるかもしれないんだってさ。上手くいけば『奴隷化破滅』に陥ってる『指標インジケータ』たちを救出できる」


「いいじゃん、正義っぽい。ヴィラネスファイブ本格始動だな」


「そうだけど、皆が普通に『それ』受け入れてるの、慣れないな」


 そもそも悪役令嬢が正義というのは何か変な感じがする。

 竜太と颯はすっかり『そういうノリ』に馴染んでおり、オリヴィアとの会話の受け流し方も心得つつあった。守梨などはまだげんなりした顔になることもあるのだが、このあたりは当事者性の問題だろうか。

 

「とりあえず食堂寄ってからオリヴィアさんの所に顔出してくる」


「メシかー。腹とかあんま減らないけど、忘れないようにしないとな」


「結愛のスキルを鍛える意味もあってお得だしな。つーか竜太、お前こないだのお礼とかした? こういうとこでポイント稼いだ方がいいんじゃね?」


 他愛ない雑談をしていると、ふとした拍子にこういう流れになることがある。

 高校生の男女が集まっているのだから自然と言えば自然だが、そういう関係や感情が破滅に繋がり得る勇吾は少々複雑な気持ちだった。

 それはそれとして、友人たちの関係が上手く行ってくれるなら素直に嬉しい。

 あとは単純に『あの気の多い竜太』がひとりの女子にべた惚れしているのはちょっと面白い。からかいまじりに口を開く。


「オリヴィアさんに聞いたんだけど、クエストで選ばれる『運命の相手』って同じ転移者でも大丈夫らしいよ。婚約破棄ルートが改変されたから、本来の相手だったどっかの『異世界王子様』との縁は切れてるって。今がチャンスじゃないかな」


「マジか。行っちゃう? 俺、行くべき? 流れ来てるのか、これ?!」


 興奮した様子の竜太を見て、勇吾は少し不安になった。

 こういうことは片方だけで決まるものではない。

 なるようにしかならないので、成功を祈ることしかできないが。

 

(それは、俺も同じなんだよな)


 旗野詩織。今は薬師寺花鶏たちと共にいるであろう彼女は、今頃どうしているのだろう。あの黒曜石の如き美男子と出会っていたりはしないだろうか。

 どれだけ不安に思っていても、勇吾の願いが叶うとは限らない。

 諦めないと決めた。

 それでも、届かないかもしれない想いに胸を焦がす日々は苦しくせつない。


(アトリが一緒なら、『シオリンに変な虫が付かないようにあたしが守る!』とか言ってそうなんだけど。あいつもどうしてるんだか)


 食堂で須田美咲たちと合流し、太田結愛と瀬川莉子が共同で用意した日韓折衷の朝食を楽しんだ後、勇吾はひとりで大通りを抜けて街はずれに向かった。

 アンチクエストシティの防衛隊として活躍中の良心ちゃんとカーくんのコンビに挨拶をしてから、関所と砦が一体化したような巨大な建造物に入っていく。

 怪物たちの侵入を防ぐ市壁の上部から聳え立つ、物見の塔。

 この街で最も高い場所。

 彼女は、よくそこから世界を見下ろしていた。

 

「オリヴィアさん、おはよう」


「おはようございます。ふふ、すっかり人間体の維持にも慣れたようですね」


「それはまあ、あれだけ特訓すればね」


 楽しそうに微笑むオリヴィアは、いつものようにふわふわと浮いている。

 その場から浮いた、不自然な存在に感じることはもうほとんどない。

 涼やかな凛々しさと、朗らかな高貴さ。

 彼女を前にすると、穏やかな春の風が吹いたような心地がする。

 勇吾はふうと息を吐いて、身体の緊張をほぐした。


「ユシャ~」


「はい、お疲れ様でした。こちらにどうぞ」


 立ち上った白煙の中から現れたマスコット体の勇吾は、尻尾を振り振りしながら差し伸べられたオリヴィアの手を「ゆーしゃ、ゆーしゃ」とよじ登った。

 移動するときは肩の上。お話しするときは手のひらの上。

 これは二人の間でなんとなく決められた、明文化されていないルールだった。


「『ざまぁの墓場』の様子はどうだったユシャ?」


「依然として変化は見られません。やはり第五階層に存在する闇の根源を浄化しなければこれまで破滅していった『指標インジケータ』たちを救うことはできないようです」


「そうユシャか。こっちも、ヴィラネスセンサーであちこち探してるけど、次のヴィラネス候補は中々見つからないユシャ」


 カヅェルとの激闘には勝利したものの、先は長い。

 取り戻したオリヴィアの力はまだ五分の一だ。

 これから先に待ち受ける戴冠神殿との戦い。

 この世界の真相を知らぬままこちらと敵対する転移者たち。

 次なる階層で待ち受ける困難。

 救われるべき『指標』と、哀れなザマミローたちの浄化。


「やることいっぱいユシャよ~」


「まあまあ、いいではありませんか。可能性は希望です。破滅回避ルートを考えることも悪役令嬢の醍醐味ですからね。国から離れて独立独歩、責任を胸に、自由を謳歌することのなんと素晴らしいことでしょう!」


「調子が出てきたユシャ。オリヴィアはいつも楽しそうで羨ましいユシャ」


「そうでしょうそうでしょう。もっと言って下さいな」


 ふふん、と胸を張るオリヴィア。

 軽そうな少女の身体は風に流されそうなほど細いが、自信に満ちた表情を見ているとどんな力でも動かせないようにも見える。

 本当に、不思議な少女だと思う。

 勇吾はこれまでの全ての過去を思い出せたわけではない。

 それでも、彼女は三十九度の破滅を前にしても諦めなかった。

 何度だって彼を救いに舞い降りてくれたのだ。


「どうしてオリヴィアさんは、いつもそんなに優しくしてくれるユシャ?」


 オリヴィアはきょとんとした表情で勇吾を見返した。

 なぜそんなことを訊くのだろう、と言わんばかり。


「当たり前のことだから、ですが?」


 質問の意味が分からない、と少女の顔が言っていた。

 勇吾の方も同じ気持ちだ。オリヴィアのことが全くわからない。

 しばし首を傾げて見つめ合う二人。

 それから勇吾はふと思い出したように、ややぎこちなく話題を変える。


「ユシャ。こうしてヴィラネスのパートナーになってからしばらく経つユシャ? だからってわけじゃないけど、オリヴィアって呼んでもいいユシャ?」


「それ、マモリに指摘されたから言っているわけではないですよね?」


 冷ややかな声にぎくり、と身を固くしてしまった。

 目の前にいる優しいはずの少女の目から、あたたかな光が消えていた。

 灰色の視線。闇のような両目がマスコットをじいっと見つめている。


「マスコットになったから。そういうことを言って、わたくしより先にマモリのことを名前で呼び始めましたよね? それはなぜ? ミサキやユア、リコのことも『本当の意味で仲良くなった』と言いながら呼び捨てにしてますよね?」


「いやっ、それはっ、前にオリヴィアさんに『名前呼びのハードルが高い』って指摘されたのが気になって、ユシャ」


「オリヴィア『さん』、ですか?」


「オリヴィア! オリヴィアです、ユシャ!」


 こわい。かつてないほどオリヴィアが剣呑な目つきになっている。

 なぜだろう。虎の尾を踏んでしまったような気分だ。勇吾はここにきて、これまであまり意識しないようにしていたことに向き合う必要が出てきた。

 オリヴィアと二人きりでクラスを離れ、アンチクエストシティを拠点に特訓を続けた日々。その時は忙し過ぎて気にならなかったが、不自然なまでに彼は女性と接する機会がなかった。この街には大勢の女性転移者がいるにもかかわらず、だ。

 それはクラスメイトたちと共にこの街で過ごすようになってからも同じ。

 勇吾はマスコット状態の時には柳野九郎にゃっさんと双璧をなす女子の人気者である。しかしオリヴィアは『勇吾の尊厳』を盾にして可能な限り彼を女子と二人きりにしないというルールを作り上げていた。


「ユーゴさん。いいえ、これからはわたくしもユーゴと呼ぶべきでしょうね」


 声が冷たい。ぞっとするような鋭利さすら感じる。

 首元を優しく撫でる指先は、まるでナイフのようだった。


「じつは監視用の使い魔から見ていたのですが、この頃ちょっとマモリと距離が近すぎると思うのです。わたくしと同じヴィラネスと言っても限度がありますよね。彼女には心に決めた人がいるのですよ? 妙な間違いが起きないようにしばらくは聖女組で行動してもらっていますが、今後はそうも言っていられません。ユーゴも気を付けるように。それから夜にこっそりナオミと特訓するのはどうなのでしょう。ユーゴが頑張って強くなろうとしてくれるのは嬉しいです。だからといって深夜に二人という状況は誤解を招きかねません。聞いていますか? なぜ嫌そうな顔を?」


「いや、なんか、既視感がユシャ」


 シンプルにこわい。

 なぜだろう。数々の破滅を回避したはずなのに、何か別の種類の危機が生まれてしまっているような気がしてならない。

 目を逸らす勇吾の態度に不満を抱いたのか、オリヴィアは小さな子供のようにぷくーっと頬を膨らませた。


「うー」


 何なんだその反応は、と言いたくなった勇吾だが色々と我慢してコメントを差し控えた。オリヴィアは珍しく不満を顔全体で表現していた。


「ユーゴ。いいですか。わかっていないようですから言っておきます」


「ユシャ?」


「わたくしは四十回、繰り返しています」


「ユシャ。ありがとうユシャ」


「素直にお礼が言えていいコですね。ならもう少し想像力を働かせてみましょうか。つまり、わたくしは四十回あなたにあることをしているのですよ」


 首を傾げる。

 何が言いたいのかわからない。

 答えが返ってこないことにますますむくれたオリヴィアは、顔を赤くしながらご立腹を表明した。拳を握ろうとしてから『さすがにマスコットにはまずい』と気付いて人差し指で強めにつつくこと四十回。


「いいですか! わたくしは! 四十回も! いえ、この前の戦いの直後も含めれば四十一回も! ユーゴに口づけをしました! ゼオーティアで最も高貴な青い血を宿した、このオリヴィア・エジーメ・クロウサーが唇を許したのです! あなたには相応の責任が発生しています!」


 最後の一突きがあまりに強烈で、勇吾は悲鳴を上げてしまった。


「ユシャ?!」


 本気でびっくりした。

 演技としてのキスシーンだとか、必要に迫られての行動だったとか、そういう意識でやっているものだとばかり思っていたのだ。

 だが目の前の少女は本気で怒っているようだし、頬を赤くしている。血が青いというのはあくまでも高貴な血であることの比喩表現のようだった。

 つまり、年相応にそういうことを意識していると見ていい。


「ユシャ~でも~マスコットの場合はノーカウントということも、ユシャ」


 『天川くんってかっこいいよね』みたいなことを言っていたクラスメイトの大半がマスコットになってから『かわいいけど対象外』みたいな認識に切り替わったせいか、勇吾はひどく腑抜けたことを口走ってしまう。

 それがまずかった。


「は? わたくしは悪役令嬢ヴィラネスですよ? マスコットが相手でも真剣恋愛可能ですが? まさかユーゴ、あなたは覚悟をしていないと?」


「ひゅっ」


 息を吸い込もうとして、変な声が出てしまった。

 オリヴィアの目は据わっている。

 彼女はいつだって本気だった。

 冗談のようなことを言っていても常に全力。

 つまり、誤解の余地がない言動も、とぼけようのない詰め方も、勇吾は真正面から受け止めるしかない。

 軽やかに浮き上がる少女の、信じられないほど重い熱情を。


「そうだ、ユーゴ。いまここで婚約しましょう」


「なんでユシャ?!」


 唐突な提案に勇吾は飛び上がった。

 にこりと微笑んだオリヴィアはとても愛らしいが、勇吾はその後ろに肉食獣が見えたような気がした。虎とかそのあたりの、小動物では絶対に勝てないやつだ。


悪役令嬢ヴィラネスポイント獲得のためです。これから何度も婚約と婚約破棄を繰り返し、くっついたり別れたりを繰り返すのです。これによりわたくしは『元婚約者属性』と『元カノ属性』を手に入れ、どんな邪魔な女が相手であろうと最強の悪役令嬢として対抗可能です。さあ、誓いを!」


「ユ、ユシャ~! 待って欲しいユシャ、心に決めた人が」


「ユーゴの目の前にいるのはわたくしです! シオリンではありません! なんですか、そんなに嫌なのですか?! 暴れますよ! いくじなし! バカユーゴ! せっかく結婚できるようになったのに!」


「ユシャ~?! 急に怖いユシャ?! オリヴィアはもっと、理性的」


 というわけでもなかった。常に衝動や感情が突っ走ってるタイプである。

 びしびしと指が絶えず突きを入れてくる。とても痛い。

 小動物が相手だろうと容赦しないという、密かな暴力性の発露だった。

 容赦なく手が出てくる感じには少しだけ覚えがあった。

 どちらかと言えば、勇吾の周囲だと薬師寺花鶏によく似ている。


(そういや、あいつも良く知らんけどアニメとか漫画とか、そういう趣味が色々あるんだっけか。意外と気が合うのかもしれない)


 軽い現実逃避を始めてしまうほどオリヴィアの勢いは物凄い。

 勇吾は泣きそうだった。

 こんなことがあっていいのだろうか。

 無数の破滅に包囲された時に舞い降りた救世主。

 絶体絶命の勇吾に手を差し伸べて、破滅を回避しようと言ってくれたオリヴィア。

 その彼女が、まさかこんな。


「そのはっきりしない態度。なんということでしょう。まさかユーゴがなあなあで引き延ばしを続けるラブコメ主人公と化してしまうだなんて」


「いや、はっきりごめんなさいするユシャ。オリヴィアは大切なパートナーだけどそういう対象としては見れないっていうか」


「あなたを殺してわたくしも死にます」


「ユシャー?! 前言撤回ユシャ! 未来の可能性は無限大ユシャ! まずはお友達から始めてゆっくり考えていく時間が必要だと思うユシャ!」


 情けない発言だが、判断を間違えば本当に死んでいた。

 どこからともなく取り出した包丁を握るオリヴィアの目は本気だった。


(終わりだ)


 まさかこんな身近に、とてつもない爆弾が潜んでいようとは。

 鎖がじゃらりと鳴る音がした。

 破滅の足音。勇吾にとっての困難に繋がる因果が結ばれた音だ。

 一難去ってまた一難。

 破滅を回避した勇吾を待ち受けていたのは、更なる破滅。


「良かった。わたくしのことがどうでもよくなったわけではないのですね」


「ユシャ! ずっと一緒ユシャ!」


「ふふ。ええ、ずっと一緒です。生まれた時からずーっと。死が二人を分かつまで」


 幸せそうに寄り添う仲睦まじい二人。

 勇吾とオリヴィアの運命には、いつだって破滅がついてまわる。

 大切だけど少しおかしくて、振り回されてばかりだけど支えてやりたくなる弱い所もあって。そんな少女に対して、自分はどう向き合うべきだろうと勇吾は悩む。

 不吉な祝福。

 召喚者げんきょうにして救世主。

 破滅回避の道を示す破滅そのもの。

 少年にとって、少女は守護者であり、死神でもあった。


「誓うユシャ。これからも、オリヴィアと破滅を回避するユシャ」


 試練を乗り越えた少年は、その才能を見事に開花させて役者として羽ばたいた。

 新たな役柄は変身ヒロインと共にあるマスコット。

 ある時はロマンスの相手として、またある時は傍に寄り添う心の支柱として。

 見事に全うしなければ、奈落の底へと真っ逆さま。

 しばらく舞台から降りることはできそうにない。

 天川勇吾の破滅回避は、まだ始まったばかりだ。




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