第十七話 墓底のエルピス




 鮮血と死。目を覆うような破滅の予兆。

 多田良心たたらこころはへたりこんだまま、その光景を呆然と眺めていた。

 事の成り行きを呆然と眺めていると、抱えた兜がかたかたと音を立てる。


「あの二人が本当に死ぬとは思ってなかったか? だよな、俺はそういうふうに説明したし、お前の感覚も微調整した。苦労したぜ、『てめえの命より刃を鍛える方が優先』なんていかれた家のガキに自爆特攻させねえようにすんのはよ」


「カーくん? あれ、でも、あっちもカーくんで」


 困惑する心は自分の手元にいる兜のカヅェルと、いましがた異様な力で部屋の光景を塗り替えた恐るべき長身の男を見比べた。

 あれもカヅェルだ。おそらく、人型の方が本物。


「俺は分霊ぶんれい付喪神つくもがみの中間みてえなもんだ。お嬢のせいで本体からは切り離されちまったよ。今はもうお前の物語の登場人物に過ぎない。はっ、同病相憐れむってな。どうも俺らは『お似合い』だと思われたらしいぜ」


 皮肉げに笑ってみせる兜のカヅェル。

 本体から放たれる剣呑な気配とは対照的に、兜のカヅェルには依然として『ほわほわ』という感じの安心感が残っていた。

 本物のカヅェルはオリヴィアが作り出した空気を塗り替えてしまったが、どうやら器物である兜のカヅェルの変質までは元に戻せなかったらしい。

 『この兜は自分の味方だ』と心は無条件に信じているのか。

 幼子がぬいぐるみを抱きしめるかのように、兜をぎゅっと抱え込む。

 実際、お喋りな兜は小さな子供に語り掛けるような声音だった。


「こないだ俺が言った楽しいごっこ遊びは終わりだ。斬った斬られたで武器の性能褒めあって、武芸の冴えに拍手喝采、そういう見世物じゃねえんだよ。俺の武具が生み出すのはただの暴力だ。ココロ、お前の大好きな『美』とは違う」


「でも、でも」


 いやいやをするように首を振る心。

 まるでききわけのない子供だ。

 それでもカヅェルは辛抱強く少女と言葉を交わす。


「後悔してんのか? 違えな。しょせん俺らは自他問わず命に価値なんて見出せねえ『ひとでなし』だ。ああ、『おもしれー奴』がいなくなったのがつまんねーか」


「私は、そうじゃなくて」


「その内実がどうあれ、ダチが死んだのがショックってんなら健全なこった。まだ『まともなふりしてる自分』に戻れるってことだからな。ココロ、お前よぉ」


 戦場に黒い靄が立ち上る。異形の怪物が出現し、その正体が明らかになる。

 不可避の破滅を前にした生徒たちには絶望が待ち受けている。

 直前までの明るく楽しい、希望に満ちた空気は既に失われた。

 だから、ここにあるのはその残滓だけだ。

 あまりにも微かな、光。


「またあいつらと楽しいことしてえか?」


「うん」


 何の理屈も通っていない。正義や倫理、合理性による判断ではない。

 無軌道な暴走や無思慮な蛮行、不条理な言動や幼稚な暴力。

 多田良心を構成する基本要素の中にあった純粋な稚気。

 『楽しいことが好き』という少女の根幹が、その意思を生んだ。


「じゃあ、少し待て。気配を研ぎ澄ましてろ、タイミングを逃すなよ。すぐそこまで来てる。チャンスは一度だ、その時が来たら突っ込め。んであの二人の死体をお仲間のとこに引っ張っていけ」


「どうして? そんなことしても」


「めんどくせーバグ連鎖コンボがあんだよ。てめえもお仲間の活躍見てただろ」


 心は小首を傾げた。

 何かを思い出そうとして、はっと息を呑む。


「えーっと、うんちの大鎌くんはばっちいけどイケメンだったよね」


 兜のカヅェルは深々と溜息を吐いた。


「おめー本当によぉ。ああもういいから俺の言うこと黙って聞いてろ、馬鹿は無駄に頭使う必要ねえってことがよくわかったぜ」


「わあ、カーくんって付き合いたくないタイプの彼氏っぽい」


「また洗脳すんぞてめぇ」


 軽口の応酬。緊張感の欠如。

 全てが絶望に包まれていく中、その場所だけは空気が違っていた。




 天川勇吾は勇者のはずだ。

 けっして『ザマミロー』などという異形の怪物ではない。

 だが目の前の現実はその常識を否定する。

 なら、勇吾がいままで当然だと思っていた全ては本当に正しかったのか、そこから疑う必要があるのではないのか?

 疑念、疑念、疑念。

 記憶への不信。意識の欠落や洗脳。不鮮明な虫食いの過去。

 オリヴィアが指摘していた、『先生』と『バスの運転手』。

 それから不自然に考えないようにしていた、あの四人。


『この結末は全て、先生たちが背負うべき罪だ。オリヴィアさんを信じず、三十九回も君を切り捨て続けた僕たちの。だから僕は、教師として責任を取ろうと思う』『これで僕を殺せるのは君だけだ。そして次も同じ結末になった時、君を殺すのは』『原作にこんな展開はなかったの。あなたは旗野さんの攻略対象でいればよかっただけなのに。どうして最大の異物になっちゃうかな』『さようなら、勘違い勇者さん』


 目の奥に、ひどい痛みと違和感がある。

 遠い向こうから聞こえる声。忘れてしまいたい苦痛。耐えられない真実。

 その全てが、怖気づく勇吾を正当化してくれた。

 これは見る必要の無いものだ。だから無理に思い出さなくてもいい。

 まともな神経では我慢なんてできない、直視する価値のない醜悪な記憶。

 オリヴィアが見せてくれた、あのクラスメイトたちとの煌めくような一瞬。

 絆の存在を信じさせてくれるような景色とはかけ離れた、最悪の現実。

 舞台は舞台。虚構は虚構。

 そうだとわかっていても。


(ザマミロー。あれは本物の俺だ。なら、俺が見ていたのは未来じゃなくて)


 死、破滅、終焉、最悪のビジョン。

 それはすべて、既に起きてしまった事実。

 過去に破滅していった『勇吾たち』が経験した悪夢そのもの。

 『いまここにいる勇吾』は、その記憶を継承した『何か』に過ぎない。

 そうだ。事実は『こう』だ。

 よりにもよって、天川勇吾は『悪役ヴィラン』だった。

 たまたま、いまそうなっていないだけ。

 オリヴィアが必死に抑えているだけの、災厄の種。

 それが自分という存在の正体だ。 


『ハッハー! 来い、ザマミローども! 俺サマの鎧がお前の身体だ! オラ戦え戦え! 激情がてめえの燃料だ!』


『イーッヒッヒ! あたしゃカヅェルとは違う。ザマミローをちっぽけな武具なんかと融合させるぅ? 馬鹿言うんじゃないよ。さあおいで、動く城ムービングキャッスル!』


『ホホホ、どうやらザマミロー様はわたくしめの用意した奴隷がお気に召したようですな? 結構でございます。さあさ、存分に欲望を解放されるとよろしい』


 断片的な記憶がふたたび蘇る。

 破滅の先にある未来。

 黒い靄のような怪物となった後の記憶。

 無数の鎧兜や刀剣を操る長身の大男。

 浮遊するウィッグを従える腰の曲がった老婆。

 奴隷の鎖を束ねる頭巾を被った細身の男。

 三人の使役者に呼び出され、何かと融け合い、衝動のままに暴れまわり、人を傷つけた。それを必死に止めようとしているのは、孤独に戦う変身ヒロイン。


(オリヴィアは、ずっと俺が誰かを傷つけようとするのを止めてくれた)


『もし、あなたの中にある暗い感情が溢れそうになったら。どうかわたくしがいることを思い出してください。あなたには悪役令嬢ヴィラネスがついております』


 真実の多くはまだ謎に包まれている。

 現実は絶望に満ちている。

 過去と記憶は苦痛だらけで、直視することは恐いけれど。

 いまここにいる勇吾は、まだ終わっていない。

 まだ、希望は確かに残っている!


『勇吾さん』


『この、バカユーゴ!』


 遠い声を思い出す。

 どうしてか二つ響いた呼び声が、勇吾の意識に火を灯した。

 時間にすればごく一瞬。

 刹那の間に呼び起こされた断片的な記憶を頭の隅に追いやり、勇吾は現状に立ち向かう意思を固める。能見鷹雄と柳野九郎は死んだ。カヅェルの力は絶望的で、現れたザマミローは不吉な気配を漂わせている。


(諦めるな! オリヴィアは俺にはできないようなすごい『おまじない』を幾つも知ってる。上手いこと俺がはったりで時間を稼げば)


 カヅェルの本来の狙いは勇吾の闇堕ちだったはず。

 つまり本命の作戦に失敗したこの状況は彼にとって妥協の産物というわけだ。

 なら、勇吾が闇堕ちの兆候を見せたなら?

 戦って勝てる相手ではない。勇吾の演技で少しでも『やっぱり闇堕ちするまで様子を見るべきかもしれない』と思わせることができれば、時間稼ぎができる。


(実際の解決策はオリヴィア頼みになるけど。タイミングを見て、あのザマミローたちに感化されたふうを装う!)


 演技プランを即興で組み立て始めた勇吾の目の前で、状況は少しずつ動いていた。

 ザマミローを従えたカヅェルは、すぐに生徒たちに襲い掛かるようなことはしていない。その方向にはオリヴィアがいるからだ。

 浮遊する少女を見ながら、男は宥めるような口調で言った。


「戻って来いよ、お嬢。俺も一緒にキルディール様に頭下げてやる。こだわりの強さはまじない使いの美徳だが、俺らの努力もちっとは汲んでくれや」


「お断りですわ! ザマミローを使って悪さをするのはおよしなさい!」


 怒りも露わに叫ぶオリヴィアを見て、カヅェルはやれやれと肩をすくめる。


「つーか正直、俺にはお嬢のこだわりがよくわかんねーよ。尊厳だか何だか、そんなに大事かね? 贄は贄、肉は肉、家畜は家畜だ。ガチョウを肥らせるためにムリヤリ餌ぶっこむのが可哀想ってのはまあそうだろうが、でもフォアグラは美味いわけだろ? 俺ら雲上人がどのツラ下げて反省すんのよ。割り切れって」


「開き直りです! もっといい解決策を探るべきだと、わたくしは何度もっ」


 それはきっと何度も繰り返した平行線の議論だったのだろう。

 お互いがうんざりしたような感情と共に言葉をぶつけ合っている。

 カヅェルの方がその傾向はより顕著だ。

 だから、彼がひどく重大な事実をなげやりに吐き捨てた時、勇吾はそれをうっかり聞き逃しそうになってしまった。

 それは、絶対に看過できないことであったはずなのに。


「そもそも始めたのはお嬢だろうが。召喚者が日和ってんじゃねーよ」


(は?)


 意味がわからない。

 いや、召喚という言葉の辞書的な意味は理解している。

 誰かを呼び出すことだ。一般的には裁判の時に用いられる。

 あるいは、破滅する過程でクラスメイトたちから聞いた『ファンタジー世界のお約束』においては『異世界などの離れた空間から様々なものを瞬時に出現させる魔法のこと』だということもわかる。

 呼び出されるのは、古くは悪魔と相場が決まっていた。

 だが異世界ファンタジーの文脈では、召喚されるのは『異世界人』だ。

 オリヴィアが召喚者というのなら、それはつまり。


「召喚者? それってどういう」


「そのまんまの意味だよ。なーお嬢、別にばらしてもいーよな? 事故ってことにしてんの、初期の連中みたいにキレ散らかして反抗されっと処理すんのがめんどいってだけの理由だしよ。ワンチャンもうちょい絶望とか搾り取れるかもしれねえし?」


 勇吾を見ながら意地悪そうな笑みを浮かべるカヅェルは、こんな状況だと言うのに楽しんでいるようにも見えた。

 それは、アリを潰す幼児のような。

 あるいは勝ちの決まった試合で格下相手に遊んで見せる傲慢な選手のような。

 勇吾は、とても嫌な気持ちを思い出した。


「かーんたんな真相だよ。事故で異世界にワープしちゃった? ちっげぇ~よ、ばぁ~か。これはみんな大好き異世界召喚でえ~す。で、召喚者はそこのお嬢。我らが麗しのオリヴィア・エジーメ・クロウサー様ってわけだ」


 理解できない。理解したくない。あってはならないことだ。

 オリヴィアはずっと味方だった。

 彼女はきっと『最初の回』からこの時に至るまで、勇吾にとって誰よりも信じられる最大の味方だったはずなのだ。


「なんで」


「なんでそんなことするのかって、会話でおおよそ察しがついてるだろ? 生贄だよ生贄。育てて肥え太らせて世界槍の深層で収穫。いい感じの『候補』がいれば特に目をかけて重点育成。そいつから絞り出した生贄パワーと出身世界と結ばれた因果を使って本番の次元航行ってわけだ」


「次元、航行? 何のためにそんな」


「決まってんだろ。行くんだよ、この場合はてめぇらの世界に突っ込む。ご存じ異世界転移ってやつさ。こっちからそっちにな」


 話を聞いていた委員長の村上が驚いて思わずといったふうに声を上げる。


「それってまさか、侵略?!」


「あ? まあ場合によっちゃ、いや」


 カヅェルは一瞬だけ片方の眉を上げて言い淀み、すぐさまにやりと意地悪そうな笑みを浮かべてからこう続けた。


「そーだな。てめぇらの国で暴れんのも悪くねえかもしれねえな。核はねえにしてもそれなりの軍備はあんだろ? 俺サマの世界に戦車だの戦闘機だのを写しとくのも楽しそうじゃねえか? まずはてめぇらの地元から、ひたすら殺しまくるのもいい」


 カヅェルはいま、デタラメを口にして勇吾を絶望させようとしている。

 そうだ、彼の本来の計画を考えればそう考えるのが自然だ。

 ならその目論見を利用してやろう。敵の思惑通り『ザマミロー』に成り果てる可能性をちらつかせて、オリヴィアが逆転の策を繰り出す時間を作る。


(それがいまの俺がやるべきことだ)


 演技は息を合わせることがなによりも大切だ。

 勇吾はオリヴィアの方を見て、信頼すべきパートナーの表情からその考えを読み取ろうとした。目が合った。怯え、震えながら勇吾を見る少女の瞳。

 どんな表情の仮面にも覆われていない、剥き出しの愚かさと幼さ。

 隠し事を暴露されてしまった、罪人の顔がそこにあった。


「全部、お前のせいだったのか」


 光があった。

 確かに、そこには希望があったはずだ。


「答えろよ。俺たちがこんな世界で苦しんでるのは、お前の仕業だったのかよ」


 無風の中空に、オリヴィアは動きも何もなく浮かんでいる。

 場違いに浮いている少女は、まるで見えない糸で吊り下げられているようにも見えた。高い場所に晒されるという、終わらない罰の過程。誰からも見上げられることから逃げられないという、回避不能の宿命がそこにある。

 それを受け入れ、胸を張るオリヴィアを美しいと思った。

 違う。それは嘘でしかない。

 彼女はずっと、破滅から逃げ続けていただけだ。


「ええ、その通りです」


 真実を隠し続けた卑怯者は、そうしてようやく罪を認め。


「全て、わたくしのわがままのせい。本当に、ごめんなさい」


 ひどく陳腐な謝罪で、決定的な希望なにかを終わらせてしまった。

 その喪失には覚えがある。

 絶対的な信頼の喪失。

 庇護者からの裏切りだ。


『すまない勇吾。お母さんとあの子はもうこの家には帰ってこないんだ』


『勇吾くん。私のこと、無理にお母さんって思わなくてもいいからね』


『ごめんな天川。僕は生徒たちみんなを守らなきゃいけない。だから』


 始まりの破滅。一回目の裏切り。

 異境に戸惑う四十一人の中で、口火を切った最初の加害者。

 彼を模範として四十回のうちの三十九回、誰もが残酷に一人を切り捨てた。

 『生徒を守る』なんてひどい大嘘だ。

 そう、全てが偽り。

 反射的に爆発したのは、子供の癇癪だった。


「謝って済むわけないだろっ!」


 周りにいる生徒たちが驚き一歩引いてしまうほどの激昂。

 誰よりも先に、誰よりも激しく、勇吾は感情を露にしていた。

 演技ではない。張り付いた笑顔ではない。

 本当の、心から感じていた『善いと思える感情』。

 それが失われた瞬間の痛みが、勇吾を凶行に走らせた。

 なまくらの模造剣ではなく、腰から引き抜いたブーメランを投擲する。

 何度も繰り返した動き。

 あまりにもあっけなく命を奪う凶器。

 それは弧を描くように浮遊する少女の身体に吸い込まれていった。


「あっ」


 呆然とするオリヴィアはブーメランが通過した場所を見下ろす。

 投擲された凶器は少女の腹部を服ごと引き裂き、貫通して抜けていった。

 反対側が見えている。

 オリヴィアの身体に、大穴が開いていた。

 勇吾は自分がやってしまったことの意味を遅れて実感し、ひゅっと短く息を吸い込む。次の瞬間、誰も想像していなかった出来事が起きた。


「言ったよね。次も同じ結末になった時、君を殺すのは僕だって」


 戻ってきたブーメランをキャッチした勇吾が、反射的にその勢いを利用して背後からの強襲を防げたのは奇跡だった。

 もともと視野は広い方だ。

 激情に駆られながらも、オリヴィアへの攻撃を止めようとしたカヅェルが何か見えない力によって吹き飛ばされたのを視界の隅で知覚していた。

 だから、何かがやってくる予感だけはあった。

 あとは勘と運だ。


「なんで、お前が」


 刃先まで黒い、禍々しい装飾の剣。

 オリヴィアのかけたおまじないのおかげなのか、ブーメランはかろうじてその見るからに凶悪そうな武器を防いでくれていた。

 刃の向こう側で涼しい顔をしているのは、久しく顔を見ていなかった男子だ。

 彼はクラスの男子で最も小柄で線が細く、荒事とは無縁そうに見えた。

 長い前髪の後ろには整った顔立ちと長い睫毛。

 美少年と呼ぶに相応しいその男子は、誰よりも先に四人のグループを作って別行動を開始していた異端児だ。

 ここまでずっと『流れ』の外に潜んでいた彼の名は今井北斗いまいほくと

 勇吾の脳裏に、とてもあっけない破滅の記憶が蘇る。

 ゴミを掃除するかのように、無関心な目でかませ勇者を叩き潰す圧倒的強者。

 だが、いまの彼は。


勇者きみにはゲームクリアとゲームオーバーが存在する。僕を殺せるのは君だけだ。同じように、君を終わらせてやれるのも、ラスボスぼくだけなんだよ」


 粘ついた憎悪と燃えるような憤怒が入り混じった、ぞっとするような執着。

 まるで仇に向ける視線。覚えのある感情だ。先ほどの勇吾がオリヴィアに向けていたのが、きっとほぼ同質の殺意だったはずだから。

 勇吾は、自分が本気で憎まれるということの恐怖を肌で感じていた。



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