170日目 異世界-2

「なんだと……」

ショーンのおでこには青筋が出ている。


「ちょ、ちょっと待ってください。

 僕は外界へ行けるんですよね?

 ショーンは僕よりも強いですよ」

シトン様の発言には違和感がある。

たしかに外界へ行っている騎士団、彼らは強い。

しかし、ショーンがあの中に入ったとしても引けを取らない。


「タイラ達と戦ったとき、あの時点で今の僕よりも強かったはずです。

 現時点ならもっと……」

「狭間くん、騎士団の外界での戦いを見ただろう?(やれやれ……)」

シトン様が呆れたように言う。


「はい……あ……」

そうか……

あの統率された動き。

「あの中で個人の実力が発揮されると思うか?」


「いえ……」

確かに……いくらショーンが強くても騎士団100人の統率された動きには敵わない。

「あの陣形は個の殲滅力を必要としていない。

 そして何より外界では戦い続けることが重要だ。

 ショーンくん、君も騎士団を見れば理解できるだろう」


「チ……」

ショーンは行動が早いが、頭が悪いわけではない。

今は怒りや焦りを必死に抑えようとしているようだ。










「これはこれは!! 狭間様!!」

トロゲンさんが走って近づいてくる。

会うたびに暑苦しくなっている気がする。


「狭間様って……ケンのこと?」

クラールが苦笑いで僕を見る。

「まぁ……そうだね」


「これから第七戦線の奥、外界へ向かうことになりました。

 前回出動した地域よりもはるかに危険な場所です。

 そして、そちらの方々も騎士団を見学すると伺っています」

「よろしく……」

「僕はクラール、彼はショーンです。よろしくお願いします」

ぶっきらぼうに挨拶するショーンをクラールが華麗にフォローする。


「あの、ショーン事情があって、いつもはこんなに無愛想じゃないというか……」

僕もショーンのフォローをする。

無理もない。

父親が意識不明で、兄がその容疑者となっているんだ。


「聞いておりますぞ!!

 みなさん、サワナ様のお弟子さんということで」

「ま、まぁ確かにそうなんですが……」

僕もクラールもショーンもややげんなりする。

なんというか、サワナ様の弟子ということで、変な目で見られるのだ。


「では騎士団に合流しましょう!!」

トロゲンさんがハイテンションで言う。

日に日に暑苦しいのは気のせいじゃない気がしてきた。











「な、なんですか……これは?」

「よくぞ聞いてくれました!!

 狭間様の睡眠対策です!!」

縦2m横1m高さ50cm程度の豪華な棺だ。

棺の四隅には金属の棒が取り付けてある。


「これをこのように担ぐのです」

騎士団の方が4人で、金属の棒を支える。


「えっと……?」

「狭間様にはこの中に入っていただき、前線へ【回復魔法】を使っていただきます」


「は?」

ちょっと待ってくれ。

おかしいぞ……

なんだって棺に入って狩りをするんだ?

しかもこの装飾……無駄でしかないだろ。

「さらに使い終わった魔石はここにどんどん置いていきますので、狭間様に後ほど補充をしていただきます。

 陣の中心に狭間様を置き、騎士団全員で守ります」


「この中に入って神輿みたいに担がれるってことですか!?」

クラールとショーンは唖然としている。

「その通りです!!

 そうすれば、騎士団の統率された動きに、狭間様の【回復魔法】が常時発動、半永久的に外界を進むことができるのです!!」


「ケン、この人……本気みたいだね」

「これは流石に……いや……でも半永久的に修行ができるな……」

見た目に驚いたが、効率としてはかなりいい。

むしろ最適化されていると言っても過言ではない。


「ケン……まんざらでも無さそうだね」

「あのさ、俺今そういう気分じゃねぇんだけど……」

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