170日目 異世界-2
「なんだと……」
ショーンのおでこには青筋が出ている。
「ちょ、ちょっと待ってください。
僕は外界へ行けるんですよね?
ショーンは僕よりも強いですよ」
シトン様の発言には違和感がある。
たしかに外界へ行っている騎士団、彼らは強い。
しかし、ショーンがあの中に入ったとしても引けを取らない。
「タイラ達と戦ったとき、あの時点で今の僕よりも強かったはずです。
現時点ならもっと……」
「狭間くん、騎士団の外界での戦いを見ただろう?(やれやれ……)」
シトン様が呆れたように言う。
「はい……あ……」
そうか……
あの統率された動き。
「あの中で個人の実力が発揮されると思うか?」
「いえ……」
確かに……いくらショーンが強くても騎士団100人の統率された動きには敵わない。
「あの陣形は個の殲滅力を必要としていない。
そして何より外界では戦い続けることが重要だ。
ショーンくん、君も騎士団を見れば理解できるだろう」
「チ……」
ショーンは行動が早いが、頭が悪いわけではない。
今は怒りや焦りを必死に抑えようとしているようだ。
◇
「これはこれは!! 狭間様!!」
トロゲンさんが走って近づいてくる。
会うたびに暑苦しくなっている気がする。
「狭間様って……ケンのこと?」
クラールが苦笑いで僕を見る。
「まぁ……そうだね」
「これから第七戦線の奥、外界へ向かうことになりました。
前回出動した地域よりもはるかに危険な場所です。
そして、そちらの方々も騎士団を見学すると伺っています」
「よろしく……」
「僕はクラール、彼はショーンです。よろしくお願いします」
ぶっきらぼうに挨拶するショーンをクラールが華麗にフォローする。
「あの、ショーン事情があって、いつもはこんなに無愛想じゃないというか……」
僕もショーンのフォローをする。
無理もない。
父親が意識不明で、兄がその容疑者となっているんだ。
「聞いておりますぞ!!
みなさん、サワナ様のお弟子さんということで」
「ま、まぁ確かにそうなんですが……」
僕もクラールもショーンもややげんなりする。
なんというか、サワナ様の弟子ということで、変な目で見られるのだ。
「では騎士団に合流しましょう!!」
トロゲンさんがハイテンションで言う。
日に日に暑苦しいのは気のせいじゃない気がしてきた。
◇
「な、なんですか……これは?」
「よくぞ聞いてくれました!!
狭間様の睡眠対策です!!」
縦2m横1m高さ50cm程度の豪華な棺だ。
棺の四隅には金属の棒が取り付けてある。
「これをこのように担ぐのです」
騎士団の方が4人で、金属の棒を支える。
「えっと……?」
「狭間様にはこの中に入っていただき、前線へ【回復魔法】を使っていただきます」
「は?」
ちょっと待ってくれ。
おかしいぞ……
なんだって棺に入って狩りをするんだ?
しかもこの装飾……無駄でしかないだろ。
「さらに使い終わった魔石はここにどんどん置いていきますので、狭間様に後ほど補充をしていただきます。
陣の中心に狭間様を置き、騎士団全員で守ります」
「この中に入って神輿みたいに担がれるってことですか!?」
クラールとショーンは唖然としている。
「その通りです!!
そうすれば、騎士団の統率された動きに、狭間様の【回復魔法】が常時発動、半永久的に外界を進むことができるのです!!」
「ケン、この人……本気みたいだね」
「これは流石に……いや……でも半永久的に修行ができるな……」
見た目に驚いたが、効率としてはかなりいい。
むしろ最適化されていると言っても過言ではない。
「ケン……まんざらでも無さそうだね」
「あのさ、俺今そういう気分じゃねぇんだけど……」
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