第3幕(1)

■長吉の家


       雨降り。薪小屋の前にアジサイの花。

       下手より、長吉とゆきが傘を差して帰ってくる。


ゆき   :「毎日、毎日、雨ばっかりだなや?」

長吉   :「雨が降らねば田植えができね。」

ゆき   :「田植えって、何すっだ?」

長吉   :「苗代の苗を田んぼに植え替えるんだ。雨が降らねば、田んぼに水が張れねえべ?」


       二人、軒下に傘を立てかけて家の中に入る。


長吉   :「だけど、こういつまでも降ってんじゃ、退屈で仕方ねえな。てるてる坊主でも作るべ。」

ゆき   :「てるてる坊主って何だ?」

長吉   :「(一つ作って)ほら、これだ。」

ゆき   :「うわあ、雪だるまみてえだなや。」

長吉   :「これを軒先に掛けといて、明日晴れたら顔を書いてやんだ。」

       てるてる坊主を軒先に吊るす。



■長吉の家


       天気がよくなる。戸口で出掛ける支度をする長吉。


ゆき   :「ええ天気になっただなや。」

長吉   :「んじゃ今日は、おらと母っちゃは名主様の田んぼの田植えさ手伝って来っからな。」

ゆき   :「学校は行かねだか?」

長吉   :「今日は休みだ。」

ゆき   :「なして、自分とこの田植えしねえんだ?」

長吉   :「おらとこの田んぼだって名主様から借りてんだ。名主様の本田を最初にやって、自分とこはそれからだ。今年は父っちゃがいねっから、おらがその分も頑張んねばな。」

       出掛けていく。

ゆき   : しばらく、上がり框で考え込む。急に立ち上がり、

      「おらも行ぐ!」

       長吉を追いかけて駆け出していく。

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