紅い髪の二人

 木が生い茂り太陽が届かない森の中。

 急に強い光が現れ、そこに姿を現したのは全身血まみれの少女。

 地に足をついたと同時に崩れ落ち、そのまま草むらに身を伏せた。

 みるみる地面は赤く染まっていき、その少女の命が尽きる蝋燭のろうのようだった。


 その少女は錬金術師のトウカ。

 グレイとの戦いに破れ、誰かの情報を流そうとした時に遠隔魔法で不意をつかれ、全身を貫かれた。

 転移物質ですぐその場をのがれたがもうこれ以上動けない状態だった。

 「あ・・ぐ・・こぽ・・かは・・」

 (血が喉から湧きあがって息ができない・・体がしびれてきて痛みが感じにくくなってきた・・もう・・だめかな・・あたし・・)

 目の前に咲いてた一輪の小さな花が目に入る。

 それだけが終わりが近い自身への癒しとなった。白い花・・日が差さず暗がりのため灰色に見えた・・うっすらと弟子の髪色と同じように見え、自分を支えてくれた唯一の弟子の姿が脳裏に浮かぶ。

 「あ・・メリッタ・・ご・・めん・・」

 意識は混沌としていき、走馬灯のように楽しい日々を思い出していく。親しかった妹との別れ・・そして最愛なる弟子との楽しい研究の日々。

 そして涙を流す。大きくため息をつこうとした瞬間。人の気配がし始めた。


 「・・こっち・・血の匂いが強い・・」

 「まってメリー!足はやいねー」

 そしてその存在は目の前に座りトウカに手をかけてきた。

 「・・しょう?・・師匠!!やっぱり師匠だ!!」

 「・・?」

 「・・その・・声・・」

 最後の力をふり絞って顔を上げ、見上げる。

 そこには冒険者らしい衣装を身にまとい、大きな荷物入れを背負った自分より幼い少女。

 髪の毛は血のように赤く眩しく感じる。

 ・・しかし・・。

 「・・めり・・た・・?」

 その声をあげた瞬間少女は大量の涙を流しトウカを抱き起こす。

 「師匠!!師匠!!会えた・・!!」

 「・・めり・・た・・なの?」

 「うん、メリッタ・・トウカ師匠の一番・・弟子・・だよ?」

 トウカは力を振り絞って手を上げ、彼女の頬に触れる。冷たい頬だったが・・そのままゆっくりと髪をかき上げると、まぎれもなく自分の弟子だとわかったのだ。

 「・・めりった・・ ご・・めん・・いい・・せ・・せいに・・は・・」

 「しゃべらないで師匠・・!!これを・・飲んで・・」

 メリーは袋から小瓶を出す。

 中には・・光輝く液体が入っていた。

 その瓶をメリッタはトウカの口に添え流しこんだ。

 「・・」

 「・・?」

 「あ・・あれ・・痛みが・・手も・・動く・・」

 薬を流し込まれた瞬間痛みがすっと消え、体が軽くなっていくのに気づく。

 「うん・・やっぱり・・完璧・・師匠・・もう・・大丈夫・・」

 体が軽くなったのを知ったトウカは身を起こす。そして傷口を手でさすって確認した。

 「嘘・・傷口が消えている・・」

 血を拭い、自分の体を探る。体中に空いた穴は消え、傷跡もなく綺麗な肌になっていた。

 「メリッタ・・これ・・あなたが作ったの?」

 「うん・・」


***


 完治したトウカにメリッタはあれからの出来事をすべてはなした。最終的にはグレイに助けられたこと。そして冒険者となり罪滅ぼしの旅をしていることなど・・そして今の生活に満足していること。


 「へぇ・・メリッタも大人になったわね。ひとりでそんなことまでできるなんて」

 「うん・・師匠・・のおかげ・・かな・・色々・・おそわったから・・」

 「よかった・・で、こちらのお嬢さんは・・?森人のようだけどこの辺では見ない血統みたいい・・」

 遠くから様子をみていたエミルだったが急に声をかけられどぎまぎする。

 「は!!はい!エミルといいます。メリーにはいつもお世話になっております。メリーのお師匠様!!」

 「メリー?」

 「うん・・偽名かな・・昔の名前は捨てた・・かな・・」

 「どうして・・」

 「うん・・いまは自分であって自分ではない・・今は吸血鬼・・」

 「え!?本当に!?」

 とっさにトウカはメリッタの頬をつかみ、グイっと引っ張る。

 長い鋭い牙が生えているのが見えた。

 「・・本当に吸血鬼だ・・人を襲ったりとか・・」

 「うん・・それはない・・ちゃんと自分で制御しているから・・」

 「そうなんだ・・だから・・髪の毛も瞳の色もかわっちゃったのね・・」

 「うん・・でもこの体を直す方法も・・探すし・・後やることあるから・・」

 「やること?」

 「エミルを元の世界に返すこと」

 「エミルって・・このエルフ・・?別世界からきたから髪の色が違うんだ」

 「ふぁい!!」

 若干かみかけで返事をするエミル。

 「くす。へんな子」

 トウカは横においてあった自分に使われた小瓶を見て手に取る。中には光輝く薬品が微量にのこっていた。

 「これ・・あなたがつくったの?」

 「うん・・師匠が霊薬のレシピ・・残してくれたから・・それを改良した・・」

 トウカは小瓶を揺らしながら息を飲みこむ。

 「改良した・・って次元じゃないわよ・・これほどの治癒力の薬・・見たことがない・・」

 「・・いや・・師匠の・・おかげ・・かな・・」

 「いや・・すごいわ・・あたしにもこれは錬成できない・・メリッタ・・あなた・・目指すべき道がみつかったと思う・・」

 「目指すべき道・・?」

 トウカは笑顔でメリッタの頭をなでる。

 「あなた・・薬師を目指しなさい!もしかしたら蘇生薬まで作れるようになれるかもしれない。調薬も錬金術の一つ・・あなたにはその素質があるわ」

 「薬師・・」

 「うん、あなたが負に思っていた罪の意識を帳消しにできるときが来る。みんながあなたの薬で病気やら怪我で苦しむことがなくなるのよ」

 「・・うん・・」

 「その素質がある・・これからもがんばって」

 「・・うん・・師匠・・」

 そのまま二人は強く抱き合う。二人にとっては久々の師弟同士の抱擁。涙をながしながら抱き合う二人にエミルも感動して涙が流れてきた。


***


 「うん・・あたしももう完全に行き場がなくなったちゃった」

 「・・そうなんだ・・」

 髪の毛を指でくるくるしながらトウカは深いため息をつく。

 自分も身勝手な行動でこの国にきて大暴れしてしまった。

 そして共謀者に命を狙われた身、自国にも勝手に行動したことで重罪。国家錬金術師とはいえ反逆罪で死刑は免れない。

 ようはどこにも戻る場所はなくなったのだ。

 それを聞いたメリッタは提案をした。

 「・・それじゃあ・・師匠・・もあたしと一緒に名前を捨てよう?」

 「名前を捨てる?」

 「トウカ師匠じゃなくなれば・・だれも追わなくなると思う・・えと・・これ・・」

 メリッタは袋から別な薬を出す。瓶の中には真っ赤な液体。

 「これ・・飲んで・・?」

 怪しい色に少し気が引けたトウカではあったが、弟子の作った薬だ・・危ないものではないと思った。そしてその薬を一気に飲み干した。

 「・・・」

 「・・・!あぁぁ!!」

 急に体が焼けるように熱くなる。頭を掻きむしりこらえようとして髪をつかむ。

 「・・あれ・・髪の色が・・」

 手につかんだ髪が金色の髪ではなくなり真っ赤な赤色に染まっていた。急いでポシェットから手鏡をだし、自分の顔を確認する。

 「・・髪の毛が・・真っ赤だ・・」

 「くす・・これでお揃いの赤い髪・・師匠・・」

 メリッタはトウカの手をそっととる。

 「師匠はもうトウカじゃなくなった・・髪の赤い・・師匠は・・存在しないから・・」

 一瞬唖然としていたトウカだったが、メリッタの涙ぐんだ笑顔をみていたら、自分も楽しくなってきたのだ。

 「そうね!もうトウカはいなくなった!今のあたしはしがない名無しの錬金術師!!・・メリッタ・・ありがとう・・」


***


 そしてトウカとメリッタ・・エミルは転移術式の張ってあった洞窟に向かった。

 そこでトウカはメリッタにもう一度一緒に来ないかと伝える。

 しかしメリッタは笑顔で顔を横に振った。

 「ううん・・まだ帰れない・・さっきいった通りやることあるから・・」

 「そっか!じゃあまたお別れね♡メリッタ・・愛してる」

 そしてまた二人はまた強く抱きしめあったのだ。

 「あたしは国にもどったらそのまま旅にでるわ。あたしもやることがあるの。妹をさがさないと・・」

 「・・妹・・」

 「それだけじゃない!!メリッタにまけてられないもの!!どっちが最高にすぐれた錬成をするか勝負よ?」

 「だね・・師匠・・」

 トウカはそっとメリッタに近づくと軽く口づけをする。それをされたメリッタは真っ赤になった。

 「あはは!かわいい。じゃあねメリッタ。次会うときはお互いに最高の作品を見せあいっこね」

 「うん・・さよなら師匠・・元気で・・」

 「あたしはさよならはいわないわー♡またあうもの!」

 「うん・・そうだね・・」

 転移術を発動させトウカは光に包まれる。

 「エミルさんでしたっけ!?メリッタと仲良くしてあげてねー?」

 「あ!!ふぁい!!」

 そして手を振り続けていたトウカは光の中に消え、洞窟は静寂に包まれる。

  ・・そして、すすりなく声が響きだす。

 「メリー・・?」

 「うん・・大丈夫・・師匠とはまたどっかであうよ・・お互いに生きているから・・」

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