繋ぐ力と永遠の友情

 ある日、北の深い森を歩く二人の女性の姿。

 深くローブをかぶりまるで日の光を避けるように歩みを進めていた。


 急に突風が吹きローブが風に煽られ、綺麗な赤い長い髪があらわになる。

 「あち・・」

 「だ・・大丈夫?メリー・・」

 「うん、これくらいの日の光は平気かな・・」

 琥珀色の髪の娘が走ってローブを追いかけていった。長い耳もった女性・・。

 メリッタが助けた異世界からきた森人、エミルだ。

 ローブをひろってメリッタにかけより、はおわせる。

 「ありがとう、エミル」

 「いいえ!どういたしまして・・それりも本当に森人の里に・・いくの・・?」

 非常に不安げな表情でメリッタの顔をのぞき込むエミル。

 メリッタは目をあわせられないでいた。

 「うん・・これは一党の党首の狩人の指示だから・・森人は森人の里にいないと色々とよくないって・・」

 「・・でも・・前・・私いったでしょ・・?同族でも同じ種族じゃないと嫌われるって・・」

 「うん、そう聞いた・・だけど・・たしかに狩人の話ではここの森人は女性はすくなくなっているっていってた・・貴重な女性なら待遇はいいんじゃないかな・・」

 「・・うん・・だけど・・男はこわいよ・・帰ろう?メリー。あなたと一緒にいれば・・私は幸せだから・・」

 メリッタは手でローブを深くさげ、エミルの顔を見えないようにする。

 「・・それは・・できないかな・・一党の党首の命令だから・・」

 「・・そっか・・じゃあしかたがないね・・あなたに助けてもらった命だから・・私はあなたの物・・だから・・メリーに従うわ・・じゃないとメリーが怒られちゃうからね!」

 ギリっと歯を食いしばるメリッタ。本心ではエミルを森人の里には預けたくないのだ。メリッタにとって師匠と別れ、そしてようやくみつけた安らぎの存在。それを手放したくないのが本心だった。

 かといって狩人の指示を背くことはできない。それが罪滅ぼしの制約だからだ。

 「・・ゴメン、エミル・・」

 「あやまることないよ。私がわがままいってごめんね?さ、いきましょ?この世界の森人の里に」

 満面の笑みで歩みをすすめるエミルではあったがその笑顔をみると苦痛でしかないメリッタ。

 (・・本当に・・この判断・・ただしいのかな・・狩人の指示だし・・間違いはないと・・思うけど・・)

 互いに心苦しい思いを抱え・・深い森を二人は足早に歩みを進める。


 ***


 森を抜けると広い集落につく。住民はみな驚いたようで二人の女性を見ていた。

 メリッタは近くの男に近づくと冒険者証を掲示して主との面会を願った。

 「XX国冒険者団 白兎のメリーといいます。主との面会をお願いしたいのですが」

 「はい、お疲れ様です。霊薬のご注文ですか?」

 「いえ・・実は、この子を保護してほしいと」

 「この子?」

 後ろでもじもじしているエミルを不思議下にのぞき込む森人の男性。それをみてビクっとしてメリッタの背後に隠れる。

 「取りあえず、主とお話を」

 「かしこまりました。ではこちらにどうぞ」

 メリッタとエミルは奥の主の館に通され、談話室にその主の長老と数人の有力者の男性と面会することになった。

 「はじめまして白兎のメリー殿・・今回はどのようなご用件で・・」

 長老が深々とお辞儀をしてメリッタらに挨拶をする。

 礼儀正しく挨拶を返すメリッタ。

 「お忙しいところ失礼致します。大変ご迷惑とは存じておりますが、あたし達の一党で異世界の森人の女性を保護しまして・・その子が帰る方法がみつかるまで保護を依頼したいのです」

 「!!女性・・ですか・・それは・・うむ・・保護ではなく・・永住を・・考えてほしいところですね・・あなた方も存じておるとは思いますが、この国の森人は女性がもう高齢者しかいないのです。 元々種族を増やすようなことのないものですが・・いまや女性不足なものでして・・」

 「え・・えと・・」

 何か言いたそうなエミルだったが・・深刻な長老の顔を見るととても切り出せるような雰囲気ではなかった。

 「エミル・・取りあえず・・失礼だからローブ脱いで・・そして挨拶・・」

 「あ!うん・・」

 エミルは着ていたローブを脱ぐ。

 そしてその若いエルフに男達は驚きをかくせなかった。

 綺麗な琥珀色の髪があらわになる。彼女は顔が真っ赤だった。

 (・・若い・・森人の女だ・・)

 (耳が同じだが・・緑色の髪・・我が部族は金色の毛髪・・異世界の森人には間違いないな・・)

 周りがざわめき出し、驚いてエミルはメリッタの後ろに隠れる。

 「うん、エミル・・挨拶・・」

 「あ・・うん・・」

 エミルは覚悟をきめ、大きく息を吸い込むと目を瞑って大声で挨拶をした。

 「エミルです!!冒険者をやってました!!よろしくお願いしま───す!!」

 あまりの大声に驚く長老。

 「はは・・元気がいいですな・・彼女なら元気な子が産めそうですわ・・」

 「は?子供!?」

 驚いたのはエミルのほうだ。保護が目的と聞いていたのだが。

 「メリー?なに子供って?私に子供を産めって?」

 「うん、なんとも言えないかな。保護の代償がそれなら・・あたしにも拒否権はないし・・」

 「そ・・そんなぁ・・でも・・これもあなたの為だものね・・」

 あなたのため・・それを言われるメリッタも心が痛くなる。男嫌いなのは耳が痛くなるほど彼女からきいた。それなのに子供の話は彼女には酷すぎるのは痛いほどわかる。しかし保護をとりつけなければ・・彼女の為にもよくはないし、狩人との約束を破ることになる。

 (うん・・子供の話は・・子供のあたしにはよくわからないけど・・でも男性と女性のつがいがひつようなのはわかる・・でも・・エミルがいやがっていたなら・・成立はしないとは思うけど・・)

 「はい、エミルはとても繊細な性格なのでなるべく刺激しないように保護していただければと思っています。あたし達でも彼女が早く帰れるように善処します」

 「やなり帰るまでの期間ですか・・まぁその間は若い者と話させてあげもいいですかな?」

 「・・エミル・・大丈夫だよね・・」

 「え・・うん・・お話・・だけなら・・」

 エミルは元気がない・・しかし、しかたがない。これが党首の指示・・そして彼女の為だと思ったからだ。本当に心底残酷なことをしている・・メリッタは思った。しかし本当に党首の命令の為、しかたがないのだ・・。


 そして、彼女を森人の長老宅に預ける。エミルはちょっと顔が引きつった感じで男性らと会話をしていた。

 しかし、気がかりがある。


 『森人は他の部族を嫌うのよ・・』


 『最悪殺される・・』


 初めにエミルから聞かされた言葉・・それは別世界の話ではあるから、この世界には当てはまらないかもしれない。男嫌いからくる苦しいいいわけかもしれない。しかし、彼女の声は悲痛な叫びにも聞こえた。

 (うん・・本当によかったのかな・・)

 メリッタは頭の中がもやもやする。里の出口をでて振りむくと、森人の若い男らにかこまれて笑顔で手を振るエミルの姿があった。

 その笑顔を見ても不安がぬぐえきれなかった。


 手で軽く挨拶をすると深々とローブをかぶり、森人の里を後にした。


 ***


 その夜、里ではエミルの歓迎の宴が盛大にひらかれた。

 様々な森の幸をふるまわれ、お酒をまわし、音楽に・・踊りに・・。

 そして若く盛んな男性は積極的にエミルに寄り添う。

 苦笑いしながらエミルは対応する。

 (・・これ・・絶対求婚の要求だわ・・)

 酔っているのか必用以上に体に触られる。触られるたびにぞくっとするエミル。

 (・・触らないでほしいなぁ・・やっぱ・・男性・・苦手・・ぞくぞくする・・)

 笑顔でいやいやしながら身を引くエミルだったが、夜深くまで男性からの口説きは終わらなかった。


 そして深夜、離れの小屋に通される。

 人気のない集落から離れた場所だ。

 弓や短剣の装備を外し、すこしベッドから離れた所におくとすぐに毛布にもぐりこんだ。

 (ぐす・・やっぱ・・こわいよ・・メリー・・)

 すこし涙ぐんでたが、歩きつかれと宴のつかれの為かエミルはすぐに寝息をたてたのだ。


 ・・・。


 ギシ・・っと音がした。はっとして目が覚める。

 (なに・・!)

 気がつくと両手を頭の上にされて押さえつけられていた。

 「え・・なに・・やめて・・」

 (え・・夜這い・・ってやつ? うそ・・やだ・・)

 ただの夜這いだったらよかった。しかし・・そうではない。

 押さえつけていたのは一人の森人の男性・・手には・・短剣を持っていた。

 「え!? え? なにを・・」

 「・・長老の命令だ・・他の男が手を付ける前にお前を殺せとな・・」

 「・・そ・・そんな・・」

 必死にもがくがびくともしない。しかし彼女は冒険者。押さえこまれたときの対処は知っていたのだ。とっさに膝で男に蹴りを入れる。

 「ぐあ!!」

 男の体制がくずれる。このすきに体をよじらせ抜けだそうとするエミルだったが・・。

 「こいつ!!!」

 男がエミルの腹に力一杯短剣を突き立てる。

 「は!!あぁ!!」

 深々と刺さる短剣。あまりの激痛にエミルは涙を流す。

 「この女・・どうせ・・霊薬も持っているんだろ・・直しきれないまでに裂いちまえば・・うごけねえぁろうなぁ・・」

 血でべっとりになった短剣でエミルの腹を真っ直ぐに引き裂く。

 「あぐ!!かは!!あぁ!」

 お腹が裂かれ,エミルのお腹から臓物があふれ出る。あまりの激痛に意識が飛びかけたがなんとかのがれ、自分の武器を手に取ると、男に振りかざした。

 男の手を裂き短剣が手から離れる。

 「糞! この女(アマ)!!」

 しかし激痛で男も手を押さえ一生懸命止血している。

 溢れた臓物を手で押さえながらよらよらと部屋からでて逃れようとするエミル。

 (はぁ!!はぁ!!くぅ・・やっぱり・・こうなる・・はやく・・にげ・・ないと・・)

 扉を開け、外に出た瞬間・・。

 

─ドス!! ドス ドス!!


 「か・・は・・!」


 無数の矢が飛んできて、エミルの胸の胸を貫いて数本貫通する。

 「あ・・やぁ・・・こぽ・・」

 口と鼻から血が溢れる。肺を貫通したのだ。

 視界には数人の弓を構えた森人・・そして真ん中には長老・・。

 逃げられないという絶望的な状況を涙目で見届け・・そのまま崩れおちるエミル。もう虫の息だった。

 「あ・・や・・だ・・怖い・・一人で・・し・死ぬの・・やだぁ・・一人で・・しにたく・・」


 『ひとりじゃない・・エミル』


 ひゅんと銀色の物体が飛び交ったと思った瞬間、弓をもっていた森人の男らの腕を切り裂いた。

 なんとも言えない男らの悲鳴が飛び交う。

 その光景に長老も息を飲んだ。

 そして夜の陰から現れた赤い瞳・・赤い目の少女。

 「あのときの・・冒険者・・なぜ戻ってきた・・」

 「うん、そんなことより聞きたいのはこっちかな。なんでエミルにこんな惨いことをするのかな」

 質問を質問で返された長老はケタケタを笑いながらいう。

 「はは・・我が部族の血を汚したくないからですよ・・血が混じれば力は薄くなるのが森人、ましてや異世界の血など、へたすれば我が部族がどうなるか得体がしれませんからな・・うちらの男らが発情期に入る前に汚れたメスは排除しなければなからなかったのですよ。それが我が森人のしきたり・・」

 「うん、ならなぜあの時、ことわらなかったのかな・・」

 「ふん、それは冒険者ギルドとの取引の関係ですよ。拒否したり始末したことがつたわると今後の商売に影響するからのう。もちろん、あなたも生かして帰すわけには・・」

 ・・っと長老が言いかけた瞬間にすでに長老の前にメリッタはいた。

 「う・・なんと・・お前は・・人間では・・」

 「うん、人間では・・ないかな・・今は吸血鬼・・あなた方の何倍も長く生き、何倍も力がある化け物・・あたしの力とミスリルがあわされば・・この里の森人は一刻も掛からず皆殺しに出来る・・かな・・」

 「く・・!!」

 動ける男達が一斉にメリッタに弓を向ける。

 「まわりの人たち・・へたにうごくと長老の首がなくなるかな・・」

 その言葉を聞いた周りの男らは弓を放棄する。

 「うん、それでいいかな。なにもしなければあたしもなにもしない。エミルを返してもらえればなにもいわないから」

 

 ひゅーひゅーと、かすかな息をたて、血まみれで横たわっているエミル。

 メリッタはそばによって涙を流す。

 「・・メ・・メリー・・あ・・いたかった・・こわかったよ・・」

 「ゴメンね、エミル・・もう離れたりしないから・・ちょっと痛いけど我慢・・」

 メリッタはエミルに刺さった矢を引き抜く。

 「かは!」

 「痛かった?すぐ傷を直すから・・」

 メリッタは道具袋から瓶を取り出す。中には光を放つ液体がはいっていた。

 それを見た長老は息を飲む。

 「・・まさか・・それは・・わが種族でもいまだ生成が出来ていない・・神薬・・?」

 周りの森人たちが一斉にざわめきだす。いまだ森人には生成できていない、霊薬を越える薬・・。

 「・・そうゆうのかな・・ただ、あなた達がつくった薬をあたしがもっとよくなるように調整しただけ・・」

 エミルの溢れた臓物を押し込みなから薬をかける。煙をあげ、みるみる傷口が消える。

 それをみてさらにざわめきを起こす森人達。

 メリッタはエミルの矢の傷にもかけそして、そっと飲ませる。

 「エミル・・飲んで・・楽になるから・・」

 「う・・うぷ・・うん・・こく・・こく・・」

 エミルの苦悶の表情は消え、かすかな笑顔を浮かべる。

 「うん・・効いたみたいだね・・たぶんこれで大丈夫・・」

 長老は這いずりながらメリッタに近寄る。

 「・・その・・薬の作り方を・・教えて・・いただけませんか・・?」

 その懇願する様子を、みて鼻ですんとさせる。

 「エミルを返してもらいにきただけだから・・教えることはなにもないかな・・ それよりもこのこと・・ギルドに知られたい?」

 その返しに答えられず長老は俯く。

 「・・いえ・・」

 メリッタはエミルの肩をもち、そのまま無言で森人の里を去る。

 後ろから多数の視線を感じる。もしかすると不意打ちで弓で撃たれる可能性はある。

  しかし、森人らにはその行動はできなかった。メリッタとは圧倒的な力の差があったからだ。


 ***


 エミルを支えながら森を歩く。歩きながら考えるメリッタ。

 (狩人の約束・・やぶっちゃった・・怒られるな・・)

 不安な気持ちのあるメリッタだったが戻ったのが正解だった。狩人の指示が全てではないとおもったのだ。自分の考えを尊重するべきだと・・。

 そしてメリッタはエミルにそっと声をかける。

 「ごめんね、エミル・・」

 息を切らせながらエミルは涙して答える。

 「こちらこそ・・ありがとう・・きてくれるとは・・思わなかったから・・」

 「うん、一人にはしないっていったかな」

 「そ・・そうだよね・・ほんとうに・・メリー・・大好き・・」

 メリッタはエミルの笑顔を見て安堵する。

 そして月明かりの中二人はゆっくりと人里へ帰る。


 ***


 メリッタは帰るとすぐに怒られるのを覚悟で狩人に事の全て報告した。

 しかし、狩人は自分の感を信じたメリッタを褒めたのだ。

 そして、同時一党を外される。

 「うん・・狩人・・あたし・・首・・なのかな・・」

 「まぁ、事実・・私の指示を無視した。それは罪・・」

 「・・はい・・わかってる」

 「しばらく一党から離れて貰うわ・・期間は・・彼女・・エミルが元の世界に帰る手段が見つかるまで・・そしてその時まで彼女を守り切るのが課題よ。それができたらまた一党に戻して上げる」

 「・・狩人・・」

 「まぁ、そうゆうところかしら・・しっかり彼女をまもってあげなさい・・そうすればあなたももっともっと成長できるから・・」

 後ろを向いて話掛ける狩人にメリッタは感謝の気持ちで一杯になった。

 これからもエミルと一緒にいられる機会を貰ったからだ。

 「狩人・・ありがとう・・」

 「礼は不要、これはあなたへの罰だから・・」

 深々と狩人にお辞儀をすると、一気に外にかけだした。

 するとエミルは笑顔で迎えてくれた。

 「メリー!!」

 そして彼女におもいっきり抱きつく。

 「うん、かならず元の世界に返して上げる・・だからそれまで一緒に・・」

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