繋ぐ知恵と力
小鳥のさえずりを聞きながら散策をする一人の少女。
深く深くローブをかぶり、まるで日の光を避けるかのように木陰を縫うように歩いてる。
大事件をおこし今はグレイの知人にかくまわれている錬金術師のメリッタだ。
吸血鬼化させれることにより変わった形ではあるが自分自身が犯した罪の償いをすることになった。
木陰を歩くのは日に当たることが出来ないため、吸血鬼は夜行性ではあるが人間だった時の癖が抜けず、大好きな日向の散歩を続けている。
日が皮膚に当たると焼けるように痛いがそれすら我慢できるほど日の光と森の散策が好きなのだ。
理由はそれだけではない。一緒にいるグレイの知人が癖がつよくてなかなかなじめたかったのも理由の一つだった。
(・・ふう・・・やっぱり一人のほうが・・おちつく・・太陽は眩しくて痛いけど・・日向の森は嫌いに・・なれないかな・・)
日中の森も魔物がでるが幼いとはいえ敵ではなかった。メリッタの使う意思のもった金属を使役する錬金術はとても強力で夜の魔獣以外はほぼ瞬殺だろう。それほどの力をもった彼女だ。一人で散策するのも怖いものではなかった。
でも一人のほうが落ち着くとはいってもやはり幼子。寂しいのは心の奥底にはある。体が化け物になる前にいた師匠の事が忘れられなかった。一緒に寝てくれたり、遊んだりしてくれた。
本当は寂しい。ふと、師匠の事を思い出すと涙が頬を濡らす。
森の散策を進めるとメリッタは大きな洞のある大木を見つけた。
日の光も最高潮につよくなる昼頃だ。さすがに厳しくなった彼女は日が沈むまでその中で休もうと思った。
そっと大木に近寄る。・・が、なにか臭いを感じる。生き物の臭いだ。
(・・いままで嗅いだ事のない臭い・・人間じゃない・・うん・・別・・魔物?)
メリッタは意思を持った金属「ミスリル」を展開するとそっと洞を覗く。
きらっと光輝くのが見えた瞬間、目の前に矢先があった。
びっくりしたメリッタだが、その矢を向けた相手が敵意ではなく恐怖の意思を出しているのを察すると声をかける。
「・・うん・・魔物じゃないよ・・安心して・・」
「・・え・・そうなの・・?」
中にいた相手は弓を降ろして汗を拭う。
「お、女の子・・よかった・・ここに来てから初めて話せる人にであった」
明るい所に弓をもった相手が出てくる。
「・・うわぁ・・」
メリッタは思わず声がでる。
その相手は森人の女性だった。長い琥珀色の美しい髪、そして同じ色の綺麗な瞳に白い肌。あまりの綺麗さに息を飲む。
それよりなぜこんなところに一人でいるのかだ。
身なりを見ると冒険者と同じ恰好をしてる。軽い皮の鎧で身を守っていた。森人はこんな装備はしない。冒険者をやっているということも聞かない。
「こ、こんにちは。魔物だらけなのにこんなところで女の子に会うとは思わなかったわ・・私はエミル。よろしくね」
「こんにちは。あたしは・・うん・・メリ・・メリー・・」
「メリー?可愛い名前ね!!よろしくね!!」
初めてあった相手だというのにエミルはメリッタに思いっきりハグをする。
同じ一党の少女と同じようなことをされ、焦りを隠せないメリッタだったが・・。
(・・すごい・・肌・・さらさら・・そして・・いい匂い・・)
彼女の肌に触れ、その独特な森の香りのような体臭に安堵をを覚えるのだ。
メリッタも思わずそのまま抱きつく。もっと触れたい・・と思ったのだ。
「ふふ・・かわいい・・赤い髪の子って初めて見たわ・・」
はっと思ったメリッタはエミルと顔を見合わせる。かなり近い距離にあった笑顔の彼女を直視できなかった。
「顔真っ赤にしちゃってかわいい!!色々お話聞かせてほしいな・・とくに『この世界』についてね」
***
エミルは身の上話をしだす。その話にメリッタは興味が絶えなかった。
どうやら彼女は転移者だったようだ。
旧い書物に世界の均衡を保つため、神の意思かいたづらなのか、他の世界からいろいろな生物が招かれるらしいのだ。そういえばこの国の森人も女性が減っているという。長寿ゆえに繁殖に興味がわかないらしいからだ。
たぶんそれで女性の彼女が連れてこられたのかもしれない。
「えっとね、私は冒険者として活動してたんだけど、なにやら水がはっている球体が急にまってきてね・・包まれておぼれるー!!っておもったらいつのまにかこの森の中にいたんだ」
「そうなんだ・・」
「すぐわかった・・空気が全然ちがうから・・ここは別な世界そうでしょ?大国のアムリタって知ってる?」
「・・うん、そんな名前の国はないかな・・」
「やっぱり・・一番の大国なのに知らないとは・・やっぱり別の世界だ・・」
彼女はしょんぼりしている。この場合は同じ種族のいる里に案内したほうが筋だとメリッタは思った。
「うん・・元の世界に変える方法を見つけるまで同じ種族の里にいたほうがいいかな・・案内する?」
「ううん・・それは無理・・私達の種族は他の部族をものすごく毛嫌いするから・・最悪・・殺される可能性もあるの・・」
「・・そ・・そうなんだ・・それはしらなかった・・」
でも一人にしておくわけにはいかないと思った。特にこの世界は夜が危険。人里でないとかなりあぶないとは聞いていた。
「じゃあ・・あたしと一緒にくる?夜は・・危ないから・・」
すると彼女は首を横に振る。
「いいわ・・私、実は男性恐怖症で・・あまり男の人がいる場所にいきたくないかな・・ならここの大木を拠点にして狩りをしてしばらく生活しようと思っていた所・・」
「だめ・・それはあぶない・・」
「大丈夫よメリー!私も一応冒険者やってたから!」
この場を動きたくない彼女の意思はかなり強かったようだ。メリッタも無理に彼女を説得してせめて自分の仲間の所まででも・・というわけにはいかないだろう。仲間の元にいくにはどうしても大きな街の中をいかなければならない。彼女を怖がらせるわけにもいかない。
「・・わかった・・ただ・・一つだけ約束・・」
「え・・なに?」
「夜は・・大木の中から絶対に一歩も出ない・・約束・・」
メリッタはゆびきりの小指を差し出す。
きょとんとした顔でメリッタを見るエミルだったが、それがなにかの合図か、決まり事なのかと思うとにっこりとして小指を絡める。
そしてまたハグをしてくるのだ。しかし恥ずかしさや嫌な気持ちは起きない。とても不思議な気持ちだった。
そして日が暮れる前にメリッタは仲間の元に帰ることにする。エミルに別れを告げるとメリッタにまたきてねっと念を押した。
数歩歩く事に後ろを振り向くと、彼女は笑顔で手を振っていた。
***
次の日、約束通りまた彼女の元に合いにいく。彼女のあのさらさらの肌と臭いがわすれられないのだ。ハグしてもらえるだけで本当に心が安らいだからだ。それだけではない。一番心配なのは夜の森に彼女を一人にしてしまったことだ。やはり強引に森から連れ出したほうがよかったかもしれないとメリッタは思ってた。
・・そして彼女を一人置いてしまったことをものすごく後悔することになる。
大木に近づくにつれ・・ある臭いに気づく。
(・・血の臭い・・)
その臭いに自分の食欲より焦りがよぎる。メリッタは走って大木に向かう。
近づくにつれ、血の臭いが強くなっていく。
「エミル!!!」
大木の中に入った瞬間、メリッタはぺたんと尻餅をついた。
・・視界に入ったのは腹部に数カ所穴をあけ、大量の血をながし無表情で横たわるエミルの姿だった。
・・そっとあの柔らかい手に触れる・・。
・・・冷たかった・・・
「あ・・あぁあああああ!!!」
放心状態から一転、一気に感情がわき上がる。自分の誤った判断で大きな悔いで心が塗りつぶされた。
「エミル・・エミル・・しんじゃったの・・」
「・・けほ・・」
咳をする声がする。
「エミル!!!」
エミルはかろうじて生きていた。ゆっくりとうすら目を開ける。
「は・・あ・・ごめん・・メリー・・あな・・たの言うとおり・・一緒に・・いけば・・」
「しゃべらないで!!!」
「・・夜は・・こわいね・・あんな・・ばけも・・げほ!!かは!!!」
大きく咳き込み大量の血を吐くエミル。
そのまままた目を瞑る。
(・・どうしよう・・このままじゃ・・エミル・・死んじゃう・・)
知り合った知人の死に際を目の当たりにするメリッタ・・どうすれば助けられるか精一杯模索する。
そして、口を強く閉じ、涙を拭う。その瞳は覚悟。
「エミル・・はあたしの力と知恵で・・助ける・・・絶対に・・」
「ミスリル!!」
意思を持った金属を呼び起こす。ゆらゆらと揺れていた金属はものすごい速さでエミルの傷口に入り込んだ。
「ああああああああ!!!!痛い!痛いぃ!!かは!!げほ・・げほ・・」
「大丈夫・・止血しただけ・・我慢して・・」
メリッタは背負っていたリュックを降ろすと、試験管や薬物の入った瓶を大量にぶちまける。
(・・森人の秘薬の・・レシピ・・師匠の本に書いてあったのを写していた・・あれが作れれば・・)
メリッタは急いで洞窟を出ると材料の選別を始めた。慌てて出てきた為、ローブをかぶってなかった。太陽光がメリッタの皮膚を焼き、爛れさせる。
ものすごい激痛だったが、それよりもエミルを助けることで頭がいっぱいだった。
無心で材料を探し、森の中を走り回った。
***
気がつくと日が暮れていた。
(・・日が暮れている・・もう今日帰るのは無理・・というか・・ここは・・)
大木の中でメリッタは横たわっていた。
月明かりに照らされる器具類と薬瓶が転がって見えた。
(・・あたしは・・エミル・・を・・)
「・・エミル!?」
メリッタは起き上がる。
「痛っ!!」
皮膚が爛れていたため思い通りに体がうごかせなかったが、無理やり体をうごかし周りを見渡す。
エミルが横たわっていた。
・・そっと手を触れる。
「・・嘘・・冷たい・・」
メリッタを尻もちをついたまま後ろに下がる。震えが止まらない。
目に涙がこみ上げてきて、息が出来なくなった。
「え・・うえ・・」
「・・私は・・冷え性だから・・」
「!?エミル?」
声のする方向を見る。エミルが横たわりながら笑顔でミリエッタを見ていた。
「あなたが作ってくれたお薬・・完璧ね・・傷がすっかり癒えちゃった」
「エミル!! エミルぅ!!!」
メリッタは思いっきり抱きつく。
「ちょ!!い・・いったいって・・まだ・・完全に・・傷・・ふさがって・・いったー!」
薬の生成は成功していた。それによってエミルは一命を取り留めたのだ。
無我夢中で作っていたため、その間の記憶は完全に飛んでいってしまっていたらしい。
それよりも、はじめて人の命を救えたことがうれしくてしょうがないメリッタだった。
そしてその夜はエミルと一緒に抱きつきながら寝ることにする。
魔物避けはミスリルに指示しておく。まず忌まわしき魔獣はミスリルには歯がたたない。魔法金属には牙は通らないほど固いからだ。
その夜、彼女のぬくもりを感じながら一晩をともにした。涙が止まらない。助けたという事実・・そして師匠以来の人のぬくもりを感じたからだ。
涙を流すメリッタを眠るまでずっとなで続けるエミルだった。
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