第36話
私は急いで魔法円を足元に書いて中央に箱を置くと転移魔法を唱えた。すると箱は淡い光と共にどこかへと消えていく。
「ラナ、あの箱は何処へ消えていったのですか?」
「あれは精霊の泉の中に飛ばしたわ。今は私達以外に触れられないようにしなくてはいけないの。
あと一つを確保するまで精霊たちに守って貰う予定よ。イーヴォ王太子はこれからどうするのかしら? 私達と共にもう一つの忘れられた地へ向かう? それとも城へ戻るのかしら?」
「もちろん私は一緒に付いていきます! こんな機会はもう二度とこないでしょうから。魔法大好きの父は残念がっているでしょうね」
「ラナ、次に向かうとしても数日掛かるから今日はパノ村で宿を取ろう」
「えぇ、そうね。ここの周辺も浄化しておくべきでしょうから私も村で一泊したいわ。まぁ、長年瘴気に曝されていたのだから瘴気が染み付いている可能性は否定できないけれどね」
私達はそうして地下から地上へと話ながら戻ってきた。
ブラッドローが立ち止まる。その様子にイーヴォ王太子は護衛と一緒にこれからどうするのか分からずブラッドローの前で立ち止まり私の方に視線を向けている。
私はというと、女神像の前に立ち、詠唱を始める。
久々の浄化魔法。
光魔法特有の淡い光が私の身体を包んだ後、波紋のように足元から広がっていく。
その光の波紋は私の魔力が底をつくまで広がり続け、やがて静かに消えていった。
「凄い!! 私の使った浄化の魔法とはまるで違うっ。ラナは本当に聖女のようですね」
浄化の魔法だと気づいたイーヴォ王太子は興奮している。
「瘴気の元は無くなったのだから少しずつ瘴気の影響は減って魔物も弱体化していくわ。何十年も掛るけれど徐々にね」
「ラナ、無理はするな」
ブラッドローがそう言うと、私を抱え上げた。
「私は自分で歩けるわ」
「魔力が枯渇しているんだ。無理したら倒れるだろう?」
有無を言わさず私は抱えられたままブラッドローの転移魔法で村まで帰ってきた。今日はそのまま宿を取り、私達は休むことになった。
イーヴォ王子と一度部屋で落ち合い今後の話をする。
「ブラッドロー、次の場所は何処か分かるかしら?」
「あぁ。大体だが。魔力を封じたから確たる場所をいうのは難しいが大体の場所は分かっている」
私がブラッドローに聞いた理由は、もちろん私も大まかな場所は分かっているの。けれど、昔の地名と今の地名が変わっているためここはブラッドローに任せるしかない。
ただギャランの身体は魔力封じをしたけれど、首には掛かっていないので多少の魔力は今も漏れ出ているはず。ブラッドローは地図を取り出し、王子達に見せる。
「我々が今いるのはここだ。ここから北へ行った場所、この辺りにあるはずなんだがその辺はラナの方が分かっているんじゃないか?」
「そうね。大体の場所は合っていると思うわ。後は私達の魔力が回復するのを待つだけね。明後日くらいには私の魔法でこの辺りまでなら転移できるわ。そこから一番近い街、このキュロルの街までブラッドローの転移が可能かしら」
「あぁ、そうだな」
「一度で街まで転移は出来ないのですか?」
「距離があるからね。人数も考えると一度で転移する距離はこの辺りがいいの」
「なるほど」
「馬車は王都へ戻した方がいいわよ?」
「わかりました。では父への報告を兼ねて馬車は城に戻します。今後の事を聞いても?」
「いいわよ? 何かしら?」
「もし頭部を見つけたらこの間のように魔力封じを行うのですか?」
「いいえ。頭だけでは何も出来ないから大丈夫よ。まぁ身体も魔力があったとしても常に魔力が漏れていたあの状況では魔法一つ扱えなかったと思うわ」
「そうなんですね。頭を見つけた後どうするのですか?」
「奴が今どんな状況かは分からないが、このまま放置していても危険だ。永久の首を解除する。そしてこの世から完全に葬り去る」
私の代わりにブラッドローが答えた。
「……完全に葬り去る」
この言葉に王太子は戸惑っているようだ。私は身体が戻る前から考えていた事で特に思う事はないけれど、先の魔法で神の存在を知った彼は彼なりに魂ごと消滅させるという事に思うところはあるのだろう。
「イーヴォ王太子。人の心は弱いわ。すぐに闇に落ちてしまうもの。人は千年以上一人でいる事に耐えるのは難しい。
ギャランは身体を見て分かっているとは思うけれど、既に中身は壊れてしまっているわ。このまま放置していても彼を苦しませるだけ。
十分に罪は償ったわ。消滅させてあげるのも彼のためよ」
「彼はどんな罪を犯したのですか?」
「ギャランは王族でありながら民の大量虐殺を行ったの。王都の街三つは消えてしまう程の虐殺。
その罪を私に擦り付けた。
私は今まで一度も行われた事のない刑である『永久の首』という刑罰を受けた。ブラッドのおかげで冤罪だと認められ、主犯であるギャランも同等の刑を受けることになったの」
「何故、ラナは冤罪だったのに元に戻されなかったのですか?」
「……それは、」
私が言い淀むと代わりにブラッドローが私を抱きしめながら答えた。
「それはラナが神託を受けているからだ。神はこうなる事が分かっていたのだろう。未来に魔法使いが居なくなる事を。神はラナに全てを託した。それだけだ」
イーヴォ王太子はブラッドローの言葉を理解したのかそれ以上質問する事はなかった。
「さぁ、私達も魔力を回復しなければいけないわ。休みましょう。出発は明後日の朝。それまでゆっくり休んでちょうだい」
「わかりました」
王太子と護衛はそのまま部屋を後にした。
「ラナ、疲れただろう?」
「ブラッド、ずっと側に居てくれる?」
「あぁ、もちろんだ」
お互いに身を寄せながらベッドへと入り、話をする。
「ブラッド、これが終わったらやりたい事があるの」
「やりたいこと?」
「二人で各地を旅行した後、ゆっくりと誰にも邪魔をされずに生きていきたい」
「そうだな。二人で旅に出よう」
今日の疲れもあって未来の事に夢を馳せながらブラッドとゆっくりと眠りについた。
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