第35話

「ラナ、これが漏れ出ている魔力ですか? とても禍々しいのがわかります」

「えぇ、そうね。漏れだした魔力が瘴気に変わっていく。早く止めないといけないわね」


ブラッドローは騎士達に祭壇をずらす様に指示をする。


「……凄いな」


祭壇がずれた途端に溢れてくる魔力。祭壇の下には地下へと続く階段があるようだ。


「ブラッドロー、出来るかしら?」

「あぁ。全ては難しいが奥まで進む分には問題ない」

「今から何をするのですか?」

「ブラッドローは闇属性なの。この魔力を自分に取り込むのよ」

「ラナの使っていた魔力奪取ですか?」

「えぇ、まぁ、近い物ね。私は純粋に魔力を相手から奪うけれど、闇属性の魔法は瘴気や黒い魔力と呼ばれる物を吸収して自分の魔力に変換するものがあるの。これから公爵は大忙しよねきっと」


この方法を知っていれば森に溜まる瘴気を吸収し、自分の魔力が跳ね上がる。そして瘴気が無くなれば自然と魔物も弱体化していくもの。

闇属性持ちが少ないから公爵家は大忙しとなるのは間違いない。


私がイーヴォ王太子に説明をしている間にブラッドローは溢れる黒い魔力を吸収しながら階段を降りていく。

その後ろを私達は付いて歩いた。もちろん私がライト魔法を使い、通路を明るく照らしているけれど、黒い魔力が邪魔をしてあまり明るくはない。


足元を照らす最低限の物になってしまっている。


「吸収した魔力はどうするの?」

「それはこうするのが一番だ」


突然ブラッドローは王太子に向かって魔力の玉を投げつけた。


「さっきの浄化で魔力をかなり使っただろう? さぁ、浄化をしながら歩いてくれ」

「あぁ、なるほど。浄化を掛けていくよ」


王子は魔力が回復したのに気づいたようで浄化をしはじめる。進むスピードは格段に遅くなるけれど、瘴気を減らすにはこうしていくのが一番よね。地上にある瘴気は魔獣達が吸い取るだろうから何年もかけて徐々に無くなっていくだろう。


そうして進んでいき一番奥の部屋へと辿り着いた。部屋の中央には一つ寝台が置かれている。その上には黒ずんだ首から下の身体が横たわっている。




ここに安置されていたのは身体の方だった。


黒い魔力は絶えず湧き出ていてブラッドローの吸収が押し負けるようになってきた。


「急がないとね。王太子、全力で浄化を続けてちょうだい」

「わかりました!!」

「ブラッド、すぐに終わらせるわ」

「あぁ」


私は黒い魔力を物ともせず、寝台まで歩いていく。


「ギャラン、久しぶりね。貴方がこうなるとはね」


物言わぬ身体に私は魔力封じの魔法を施す。魔力封じは封じられる物より封じる術者の方が強くなくては行えない。

もちろん千年以上魔力を放出し続けている身体は相当の強さだけれど、私だって同じ時を生きてきた人間。そして祝福を受けている。


ギャランに負ける訳がない。


普通の魔力封じとは違い、長い長い古代の詠唱を行う。


神の力を借りて完全に魔力を封印するために。


それまで動く事の無かったギャランの身体はビクリと動き、封印から逃れようとそれまで放出していた魔力を一気に身体に戻している。

そして起き上がり、私の首を掴んだ。絞め上げようとしているのだろう。


「ラナ!!」


ブラッドローは焦り、駆け寄る。途中で詠唱を止めることは出来ない。私は必死に詠唱を行う。

ブラッドローは剣で首を掴んでいる手を切り落とす。が、魔力で身体に引き寄せられまた繋がるとまた首を絞めようと手を伸ばしてくる。


護衛騎士達もギャランの身体を私から引き離すように羽交い締めをしているがその力は強いようですぐに振りほどかれてしまう。


「お待たせ」


私はそう言うと、ブラッドローは騎士達に離れる様に合図する。身体から距離を取ったブラッドロー達。身体は私に攻撃をしようとした時、最後の言葉を告げる。


すると頭上から稲妻のような光がギャランの身体を轟音と共にぶつかった。


その光の中で身体を焼かれているように煙が上がりはじめる。暫く煙が上がっていたけれど、光の収束と共に煙も無くなり、身体はまたパタリと倒れて動かなくなった。


「魔力の完全な封印が出来たわ」

「……ラナ、完全な封印とは何なのですか?」


イーヴォ王太子が聞いてきた。私は箱を取り出してブラッドローに渡すと彼は騎士と共に身体を入れ始めたのを横目に私は答える。


「魔法を使える者は多いわ。けれど、悪さをする者もそれなりに出てくるの。刑罰の一つとして魔力封じを行う場合がある。

一般的な魔力封じは王宮の魔法使いが犯罪者の魔力を封じるの。その場合魔法使いの方が犯罪者よりも魔力量や技量が勝っていないとできないわ。

そして魔力を封じた後、術者によって解除も出来るの。私が今ギャランの身体に施した魔法封じは神の力を借りた方法。全て古語で詠唱を行う事や精霊の祝福を受けた魔法使いだけが出来る魔法なの。

これは一度行うと解除は不可能よ。余程の罪人でない限り行う事がない魔法よ?」

「泉の事も今回の事も神の存在を再認識しました。神は本当に居たのですね」


イーヴォ王太子はまた感慨深げに箱に詰められていく身体を見ていた。


「箱はあんなに小さいのに身体が入っていくのが不思議ですね。あれはどういった仕組みなのですか?」

「あれは只の持ち運び用の箱よ? まぁ、暴れだすといけないから内側に結界が張られているけれど。闇属性持ちなら誰でも作れるわ」

「ラナ、準備は出来た」


ブラッドローは箱を私に渡しながら声を掛けてきた。

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