第34話

そうして王宮の準備が整ったと連絡が来るまで公爵家てゆっくりと過ごした。

私は平民の女性が着るようなラフな服装を用意してもらった。平民の間では作業着としてズボンを着る事も多くなってきているのだとか。

これから旅立つのにドレスのままでは動きにくいからね。


何日分かの食糧と服、魔石と箱、テントをリュックに詰めて私達はパノ村へと旅立った。ブラッドローの魔法でリュックの容量は広がったわ。こういう時に彼の魔法は羨ましいと思う。私には出来ないの。


そして驚いた事に旅立つ当日に王宮からはイーヴォ王太子が旅装でやってきたのだ。

どうやらフローラ王女が蔦で拘束された事が城で噂となり、兄としてどうして拘束される事になったのか父であるツィリル陛下に直接話を聞きに行ったのだとか。


その時にツィリル陛下から私達のやる事を最後まで見届けるように指示されたようだ。


イーヴォ王太子自身も是が非でも見届けたいと急いで準備をしたと言っていた。


彼も魔法の訓練を幼いころから行っていて偶に騎士達と一緒に魔獣の退治を行っていたらしく、森に入る事にも抵抗は無いと言っていたわ。


三人で馬車に乗り込んだ後、殿下の護衛騎士三人も後ろから馬で付いてくる事になった。

目的地に到着するまでの間、殿下は私やブラッドローに魔法の講義を強請ったのは言うまでもない。そのあたり血は争えないものなのね。


目を輝かせながら彼は聞いたり、時には練習をしたりしていたわ。私達は殿下に気を取られる事で不安や焦りから目を反らす事が出来たと思う。


パノ村へは馬車で三日ほどで到着した。


「野宿なんて何年ぶりかしら。えっと千年以上ぶり?」

「俺もだ。ラナと学院の討伐合宿で行ったきりだな」

「そうね。私達は学生でいっつも先生に怒られていたわね」

「あれは先生のテントにカエルを投げ込んだ奴が悪い」

「そうだったわね」

「ラナやブラッドローにもそんな事があったんですね。ちょっと意外でした」

「あら、ブラッドローはこう見えて色々とやらかしているわよ?フフッ。ツィリル陛下も王子の時は色々とやんちゃをしていたわ」

「父上が、ですか?普段は温厚で思慮深くてやんちゃとは無縁そうなのに」


イーヴォ王太子は少し驚いたような顔をしている。そんなに意外だったのかしら?


「魔法で護衛騎士の髪の束を切ってしまって泣きながら謝っていたわよ? 護衛騎士と魔法の打ち合いをして誤って乳母の回復薬が爆破された時には乳母に叱られてしょんぼりしていたわね。みんな若いうちは同じようなものではないかしら?」


懐かしい会話をしながら森に入っていく。パノ村に馬車は待機してくれるらしい。

村から出ると途端に雰囲気が変わる。


どことなく鬱蒼とした重い雰囲気の森に淀んだ空気。


心配していたけれど、例の物は村からはそう遠くないようだった。問題は途中に魔獣が出るかもしれないという事くらい。


「ブラッド、あいつの頭か身体がある場所は建物の中なの?」

「俺もよくは知らないが、確か壊れる事がないよう石造りで結界が施されたと聞いた。この状況では結界は切れているかもしれないな」


数時間ほど歩いた頃、ようやく森の中に石造りの神殿跡らしきものが見えた。


昔はここも教会の一部だったのだろう。今は苔や蔦が所々這っているが荘厳な神殿の面影を残している。

きっと神殿の様子から昔はしっかりと結界で覆われ私の身体と同じように王子の身体も安置されていたのだろう。けれど、王子の精神が崩壊したことで魔力が漏れだし結界を破り瘴気に変化していったのだと思う。

それでも魔法使いが存在している間は何度も結界を修復し、防いでいたのかもしれない。私達は気を引き締めて神殿の跡地へと入っていく。


「イーヴォ王太子、浄化が使えるかしら? 一度使った方がいいわ。護衛の騎士達が保たないと思うの」

「わかりました。浄化は得意ではないですがやってみます」


王子は纏わりついてくる魔力に顔を顰めながら浄化魔法を唱える。範囲は狭いが浄化しながら歩けば騎士達も楽にはなるだろう。

王太子の護衛となった騎士達も前回同様多少魔法が使えるようだ。だが、魔力は少ないため瘴気の抵抗は私達より格段に弱い。

先ほどまで顔色は悪かったけれど、浄化をしてから動きやすくなったみたい。


そうして浄化を何度も唱えながら神殿の奥へと入っていくと、やはり女神像の足元にある祭壇から特に黒い魔力が漏れている。


私もブラッドローも村を出てから見えていたけれど、王太子には見えていなかったわ。けれど、この濃さにはさすがの王太子も見えているようだ。

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