第37話
翌日は城に報告も兼ねて馬車が戻っていった。
出発の時間。
「さて、みんな準備はいいかしら?」
イーヴォ王太子や護衛騎士達も真剣な顔で頷く。そして私達は村の外まで移動し、詠唱を始めた。
「この魔法円の中に入ってくれ」
私が詠唱している間にブラッドローが指示をする。イーヴォ王太子も護衛騎士達も足元に浮かび上がった魔法円にソワソワと浮足立ちながら入ってきた。
「では飛ぶわ」
光に包まれたかと思った瞬間には移動が完了。久々の長距離転移も無事に出来てほっと息を吐いた。転移は過去に行ったことのある場所に飛ぶ事が出来る。
私はこれでも王女だったため視察へと出掛けたり、師匠の下で魔物の狩りに出掛けたりしていたので様々な場所に訪れてはいたの。
心配だったのは指定した場所に建物や木がある場合。身体が埋まる事はないけど、障害物を避ける様に建物の上だったり、木の上だったりする事がたまにある。
過去に行った場所でも時が立ちすぎてどうなっているか分からなないのが不安だったの。でも無事に障害物を避けることは出来ていたみたい。
「ラナ、交代だ」
森の中に用事は無いのですぐにブラッドローが詠唱を始める。イーヴォ王太子達は先ほどと同じようにいそいそと陣の中に入る。
どことなく嬉しそうだ。
そうして私達は目的のキュロルの街に問題なく到着した。ブラッドローは街の外を指定していたようで騒がれる事無く街に入れたわ。
ここキュロルの街は王都から離れているが五大都市の一つと言われるほどの大きな街らしい。
ここから神殿までそう遠くないはずなのだけれど、発展している所をみるとそれほど魔獣への影響は出ていないのかしら? 疑問はすぐに解かれる事になった。
街に入ってみると、騎士や冒険者と言った人達が沢山いたからだ。食堂で詳しい話を聞いたの。
どうやらここの領主は魔獣の素材は貴重な資源として狩りを推奨しているらしい。
集まった素材は加工され王都などに運ばれるのだとか。
私達はこの街で一番大きな宿に泊まることになった。
私もブラッドローも泊まる所はあまり気にしていなかったのだけれど、護衛騎士達から警備の面で高い宿の方が安全だという事らしい。
そして案内された部屋は王族も利用するという部屋のようだ。過去にイーヴォも視察でここの宿に泊ったことがあると言っていた。
急に宿を取れるのか心配だったけれど、一等級の部屋は高額なため普段借りる人がいないらしく泊まる事が出来たわ。
そして宿で出された食事も魔獣の肉を使った料理が出てきた。
魔獣肉を久方ぶりに食べたけれど、美味しさに感動したわ。王太子やブラッドローはたまに食べていたのか魔獣肉に興味がないのか普通に食べていたのがちょっと残念なところね。
私達が食事をしている間に護衛騎士達は周辺の事をギルドや領主に聞いて情報を集めてくれていたみたい。食後に王太子の部屋に呼ばれて詳しく聞く事になった。
「ラナ、説明を始めてもいいかな?」
ソファーに座るとすぐにイーヴォ王太子が話を始める。
ウキウキしている様子を見ると、褒めて欲しい子犬のような雰囲気でクスッと笑ってしまったのは仕方がない。
「領主からの話でこの街から五キロ程先に小さな教会があるらしいんだ。石造りで古くからある建物だと言っていた。そこは代々神官の一族が住んでいて管理をしているらしい。そして教会という話なんだけど、参拝客は殆どいない。
不思議な教会だと言っていた。領主自身も神事の時以外その建物に立ち入る事ができないのだとか。中はどうなっているんだろう。気になる」
今でも神官が住んでいるのであれば結界の維持が出来ているのかしら。身体の方を考えると少しは希望が持てる。
「領主が入れない事を考えると、結界が張ってあるのかもしれないわね。神官の一族が結界の修復を行っているか、神官の声を聞き、精霊が結界を張っているか、ね」
私がそう話をするとイーヴォ王太子が目をキラキラさせている。きっと彼の中ではまた精霊に会えるかもしれないと期待してそうね。
私は子犬のような王太子にクスリと笑う。
「明日は念のために休養して魔力を完全回復させたいわ。ブラッドも回復できそう?」
「あぁ。明日には回復出来る。その後に教会へ向かうか」
私達はそうして話を終える。
領主から神官にイーヴォ王太子達が教会に行く事を伝えて貰う事になった。
明日は何をしようかしら。
折角街に出たのだから色々と見て回りたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます