第21話

魔法使いの訓練の方はというと、他の者も順調に育っていて、第二期生を募集してもいいのではないかとグリーヌが言っていた。魔法についてはやはり知識も大事だが、経験も必要になるので二期生は学校入学前の子供たちを中心に募集する事にした。


魔法使い予定の五人は私も含めて度々騎士達に付いていき、魔獣討伐にも参加するようになった。最初はみんな魔獣を見るもの怖くて震えあがっていたけれど、騎士達の身体を張る様子や避難した村人、怪我人、泣くのを我慢している子供。

何度も見ていると自分がもっと強ければ、魔法を使いこなせればと考える様になって自分から進んで討伐するようになっていった。


魔法使いが参加するようになってからは騎士達の怪我は格段に減っていき、騎士達からも感謝される事になった。そして気づいた事があった。私は光魔法が得意だから怪我人を治す事が中心になっていた。


他の魔法使い達は攻撃魔法を中心に教えていたせいか騎士達と戦っていたのだが、どうやら個人差はあるけれど、初期の回復魔法を使える者が二人ほどいた。


なんとなく出来るかも? とやってみたら出来たらしい。ノートに書いていた事を思い出し、この事かと理解したんだ。

それは騎士団にとってもこの国にとっても明るい話題だった。二期生を募集した時の条件に髪の毛や目の色が濃い者を優先して採用すると出したのが良かったのか、魔法をステータスの一部と考えたのか魔力量の多い者が沢山集まってきたのだ。


私とフラヴィは『流石に王族が直々に教えるのはちょっと……』と言われて二期生に教える事は無くなった。そうしてフラヴィは王妃教育を終えて、魔法を教える事もなくなり、執務を手伝うようになった。


「フラヴィ、少し休憩して庭で花を眺めながらお茶でもしよう。たまにはゆっくりしたい」

「ツィリル様、たまには良いですわね」


私はフラヴィをエスコートしながら庭へと向かった。他の者達が来るような中庭ではなく、限られた者しか入る事の出来ない庭へ。二人のために用意した席。今はシャンシャロの花が見頃なのだ。シャンシャロの花は花弁の根本は白く、先にいくにつれ淡いピンク色をしている。


グリーヌの持っていた本には魔法回復薬の素材なのだとか。回復薬はグリーヌが魔法円を研究し、質は良くないが再現する事が出来た。

魔法回復薬などの他の薬はまだ再現出来ていないのが実情。最近はフラヴィの父がグリーヌと協力し、魔法薬関係の研究をしているのでそのうちに出来上がるのではないかと思う。

アレフィオは魔法使いを育成しながら騎士団員に身体強化を使える者を発掘しては教えているようだ。

騎士達の中にも多少の魔法が使える者や、身体強化が使える者が増えてきていると報告を受けている。


「フラヴィ、結婚式まであと少しだね。待ち遠しいよ」

「私も楽しみです。まさかツィリル様と結婚出来るなんて夢のようですわ」

「この間の舞踏会ではみんな私とフラヴィは仲睦まじくて羨ましいと言っていたよ」

「嬉しいです。あの時は緊張していてダンスも必死でしたし、どうなるかと思っていました。でも、ツィリル様とダンスが出来て嬉しかったの」

「嬉しい事を言ってくれる。今、音楽はないけれど、私と踊っていただけますか?」


私はそう笑いながら手を出すと、フラヴィもぜひ、と手を重ねて席を立った。花達に見守られながらゆったりとしたワルツを踊る。もちろん音楽はないけれど、二人で話をしながら踊るダンスは幸せ以外何物でもない。

どうやらそれはフラヴィも感じていたようで魔力が漏れていたのか花が咲き乱れ、幻想的な世界となっていた。


……そんな二人の世界を壊す者が現れた。


「ツィリル殿下っ!」


その声にダンスを止め、咲き乱れる花達も元に戻った。


「ツィリル殿下、ここにいたのねっ。探したのっ」

「ここには許可の無いものは入れないはずだが? 聖女シャロン」


フラヴィを隠す様にシャロンの前に立つ。


「そうなの? 教会の名を出したらすぐに入れてくれたわ?」


何も疑問を持たずに歩いてくるシャロンに苛立ちを覚える。前回から何も学んでいないようだ。


「で、私を呼びに来た理由は何ですか?」

「神官長からの手紙です。すぐに読んで下さい」


シャロンから手渡された封書を従者に渡し、開封、中身の確認を行った後、目を通す。その流れを見てシャロンはそんなことをしなくったっていいと言っていたが、何があるか分からない。

従者から受け取った手紙に目を通すと、フラヴィとの結婚を取りやめ、聖女と結婚するように、国民はそれを望んでいる。要約すればそのような事が書かれていた。


「教会からの指示ですっ。後ろの方との結婚は取りやめ、私と結婚となります。これから妻として宜しくお願いしますねっ。旦那様っ」


シャロンはニコニコと笑顔でそう話している。


「聖女シャロンよ。貴女とは結婚するつもりなど欠片もない。今すぐここから立ち去るように」

「何故ですかっ!? 聖女と王子の結婚は全ての民の憧れなんですっ」


シャロンは私の言葉に反応するように言葉を返した。


「残念ながら、王家は実力主義なんだ。貴方のように聖女と持て囃され、努力してこなかった人に私の婚約者は勤まらない」

「なんで? なんで? 美男美女、魔法使いの王子と癒しの聖女。最高の組み合わせだわ」

「言っても理解出来ないようだ」


私はいい事を思いついた。

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