第13話

 そうして彼等に魔法を教える事更に五年。

 王子は十五歳になった。


 子供っ気が抜けてきた。


 身長も少しずつ伸びているようで私としても祖母気分で感慨深いわ。


 王子達は塔へ来るのは月に1、2回で普段は王太子の勉強をしたり、視察やお茶会をしたりしているようだ。


 そろそろ婚約者が出来ても可笑しくない。むしろ乳母の話では遅い方なのだとか。


 乳母や護衛騎士の心配を他所にツィリル王子は全く興味がないようだ。


 暇さえあれば一人で魔力循環の訓練や魔法を使っているらしい。


 魔法が使える事はやはりまだ秘密のようで夜に誰も居ない所でこっそりと訓練をしているのだそう。


 練習をしては私の所へ来て合格を貰いにくるような感じかしら。


 そして練習していて気づいたようだが、王子や護衛騎士は上級魔法を使える。


 乳母は植物魔法であれば中級。

 ただ、訓練が遅かったせいもあり、数度魔法を使えば魔力の底が尽きてしまう問題が浮上しているようだ。


 護衛騎士は魔力を発動しない身体強化魔法が使えるようになったため、自分の剣術に上乗せできる分魔獣討伐を楽にこなせるのだと思う。


 王子は魔力の訓練が早かったため上級魔法を使えるようになったのだが、この長い年月の何処かで魔力無しの人間が血に入ったのだろう。


 王族本来の魔力量には及ばないのが実情だ。


 まあ、こればかりは仕方がないのだが。

 私はその事を告げる事はない。




 そしてツィリル王子はこの日も塔に来た。


「ラナ、この本に書いてある特級魔法、僕の魔力では使えないんじゃないかと思うんだ」


 そう言いながら塔の図書室から出てきたツィリル王子。


 そろそろ次のステップに入るために読めと差し出していたのだが、どうやらその本に特級魔法について書かれていたようだ。


 特級魔法はそもそも大きな魔法を一人で使用する魔法は少ない。


 どちらかと言えば魔法使い数人で魔法円を用いて発現させるものが一般的だと思う。


 そしてツィリル王子達が塔の図書室で難なく本を読めているのには私の翻訳魔法が彼等の目に掛かっているから。


 三人とも思い思いに本を手に取り、読み自分のノートへと移している状況。


 こうして少しでも後世に伝わればいいと思っている。


「ツィリル王子、良いところに気づいたわね。魔法も最低限は使える様になったようだし、そろそろ同時進行で魔法円の勉強に入るわ」

「魔法円!? もしかしてずっと前に回復薬を作った時に使っていたもの?」


「えぇ、そうよ。簡単な魔法円を覚えて理解出来れば複雑な魔法円も読み解いて使う事ができる。まず基本的な形から覚えていきましょうか」

「本当!? これで騎士達に回復薬を作る事が出来る様になるんだね」


「えぇ、そうね。そのうち出来る様になるわ。けれど、きっと作るのはそこの乳母になるでしょうね」


 私はクスクスと笑いながら王子に告げる。


「えー僕も作りたい!」

「大丈夫よ。何度もやっていけばツィリル王子でも出来るわ」


 乳母は少ない魔力を自覚しているため、細部まで丁寧に魔法を使いロスを減らしている。


 魔力を一定に流す事が出来る事が回復薬の品質に繋がる。


 ツィリル王子は魔力が豊富な分、扱いが雑になりやすく、まだまだ魔力循環も甘い。


 自分が理解し、より丁寧に心がけるようになっていけば伸びは違うと思う。


 そうして今回は基本の形である丸と三角、四角の陣を学んだ後、いつものように追い出した。


 文字については記号として最初は覚えて貰うしかない。


 私でさえ魔法円は古代語で書かれていると教わり、読み解くまでに時間が掛かった。


 古代語は象形文字のようで曖昧な命令も多く存在する。


 そこを術者のイメージや魔力でカバーする。


 古代は私が居た頃よりもずっと自然に恩寵や畏怖の念が強くそれを元に魔法円が作られている。


 文字の数は少ないのである程度読み解いてしまえば自分で魔法円を作る事も可能だけれど、果たしてツィリル王子はそこまで到達するかどうかは謎だわ。


 今回の魔法円についてはある程度出来る様になるまで塔の外でも練習してはいけない事にした。


 間違えて書いた時にうっかり大爆発なんてありそうだからね。


 大人二人は大丈夫だと思うけれど、お子様は何するかわからない。


 過去に一度だけ夜中の訓練場で地面が抉られるほどの魔力を感知した事があったわ。


 どうやら王子の魔力が不安定になる何かがあったらしい。


 魔法訓練を行っている最中に魔力暴走が起こったの。


 乳母も護衛騎士もあの時は対処法が分からずにおろおろしていたわね。


 私はたまたま眠りにはついていなかったので大きな魔力を感知し、塔から飛び出した。


 王子は魔力暴走で体内に貯まった魔力を身体から放出して危険だったの。


 すぐさま髪を王子の胴に巻きつけて魔力を奪いながら叩き落とした。


 魔力暴走している時は意識が朦朧としているか、感情に身を任せている事が多いの。


 王子は怒りに任せて魔力暴走を起こしたのねきっと。


 叩き落とした衝撃で怒りが収まり、私だと認識出来たみたい。


 そして王子を〆たのは言うまでもない。


 私はその後、吸い取った魔力で凹んだ訓練場を復元魔法でしっかりと直したわ。


 その時に護衛騎士と乳母に対処法を教えておいた。


 全力で殴りつけろってね。


 それ以降、魔力暴走を起こすことは無くなったわ。

 本人も自覚したのかもしれないわね。

 成長だわ。


 そして魔石の使い方も教えておいた。


 魔法が使えなくなって以降、魔物から取れる魔石は四級宝石として扱われているようだった。


 一級は王族が装着する程度の大きさがあるもの。


 二級はそれより小ぶりだが品質は良い物。三級は小さなカケラ程度の物。四級はガラス玉よりかはマシ程度、という大雑把なくくりだったはず。そうよね。


 誰も魔法を込める事も出来ないのだから。


 魔石は魔力を予め込めておくと大事な時に魔力を引き出して使えるの。


 大きな魔法を使用する時に予備の魔力としての使用や魔力切れを起こした時に魔石から魔力を取り込む。


 魔法を込めておくと、少しの魔力刺激と詠唱する事で魔法が発動する。


 因みに魔力を持っていないとされる人間は魔法一つ発動出来るほどの魔力量が無いだけで、誰でも体内には微量ながらも魔力はあるようで魔石に込められた魔法は誰でも使う事が出来る。


 だが、魔石自体、当時は高価な物だったので平民は手にする事が出来なかったわね。


 前に王子に渡したように魔石は魔装具として加工されて何かあった時の守りのために使用される。



 今後、魔石は貴重品として取引されるのだと思う。


 そして既に護衛騎士や乳母はそれに気づいて安い魔石を買い集めていると話をしていた。


 ……中々抜け目が無いわね。


 そうして魔石や魔法円、魔法の勉強をしていく。

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