第11話

 ――コンコンコン


「ラナ! 来たぞっ」


 いつものようにツィリル王子は乳母と共にやってきた。どうやら今日は護衛騎士も一緒みたいね。


「あら、王子。いらっしゃい。目はすっかり良くなったのね。指も見せてちょうだい」


 王子は素直に私に指を見せた。しっかりと指は復活しているようだった。

 これで一安心ね。


「ラナ。聞きたいんけど、回復薬では僕のように指は治らなかったよ。何が違うの?」 「魔法と薬は違うわよ。薬は病気を治すのが主な役割ね。怪我も治るけれど、効果は薄いわ。治癒魔法は怪我に聞くけれど、病気には殆ど効果はないの。

 そして術者の練度や得意属性によって効果は違うわ今の聖女だっけ? 彼女達が使う治癒魔法ならツィリル王子が覚えて使う治癒魔法の方が効果はあるし、欠損も治るんじゃないかしら? ところで後ろの彼は誰かしら?」


「僕も治癒魔法が使えるの!? 本当!? そうそう、彼はアレフィオっていうんだ。元騎士団長で今は僕の護衛騎士」

「あぁ、そうなの。騎士団長を首になってツィリル王子が拾ったってことね」

「よくわかるね!! やっぱりラナは凄いやっ! で、僕は治癒魔法が使えるの? ラナはどうやって魔法が使えるかを見分けているのさ」


 いつものように目を輝かせて聞いてくる王子。


「この塔は一定の魔力を持っていないと見ることが出来ないし、入ることも叶わないの。ここに入れる時点で三人とも魔力はまぁまぁ持っているのではないかしら? そして髪の毛や目の色が得意属性を表しているの。


 あぁ、なんなら次回からノートを取りなさい。

 自分で学んだ事は使ってもいいわ。乳母も護衛騎士もね。ただし条件がある。

 私の名はもちろん、存在も明かしてはいけない。分かったわね?」

「うん! もちろんだっ! グリーヌもアレフィオも約束は守るよね?」


 王子がそう言うと、二人は従者の礼を執っている。条件をしっかりと守ってくれるようだ。


「まず、魔力を持っていない人間は様々な色が混ざったぼやけた色が基本ね。魔力が少ないとくすんだ色をしているわ。

 魔力が強ければ強いほど色が濃いの。

 黒は闇、黄色は光、緑は植物、赤は火、青は水、茶は土が得意な属性を表しているわ。


 ツィリル王子は金髪に緑がかった髪をしているでしょう? 治癒魔法と植物魔法が得意なのだと思うわ。

 護衛の彼は赤い髪だから火魔法が使えそうね。乳母は薄い緑だから緑魔法が使えるのだと思うわ。色はあくまで参考程度よ?」

「ラナは赤い髪で緑の目だから火魔法と緑魔法が得意なの?」

「えぇ、そうよ」

「治癒魔法は光魔法なのにラナはどうして使えるの?」

「それはあくまで得意魔法というだけで個人差が大きいの。全く使えない者もいるわ。あと特殊なのは身体強化魔法ね。

 これは出来るか出来ないかはやってみないと分からないの。どの魔法にも属していないから」

「僕はすぐ魔法が使える?」


「それは無理ね。何年も鍛錬をしなければ使えないわ。でも、今からなら間に合うわ。

 魔力量も伸びる。後ろの大人二人は使える様になるけれど、魔力の器は成長しきっている。ある程度しか使えないと思うわ」


 魔法が使える可能性があると聞いた護衛騎士と乳母は驚いているようだったけれど、少し嬉しそうにしている。


「どうやって鍛錬するの? お城でも出来る?」

「こっちに来て頂戴。私の髪に触って」


 王子はわくわく感が止まらないといった様子で私の髪に触る。私は静かに王子に魔力を流し込む。


「全身に何かが巡るのが分かるかしら?」

「うん! 温かい、なんていうのかな、上手く言えないけど優しいラナの魔力が身体の中を動いているのは分かるよ」


 私は魔力を止める。


「自分でさっきみたいになるように【身体の中に魔力よ巡れ】ってイメージしていくの。やってごらんなさい。あぁ、ついでだから護衛と乳母も来て頂戴」


 恐る恐るくる護衛騎士。


 乳母の方は慣れているからかすぐに来た。


 私は乳母から魔法を流していく。


 やはりいつも丁寧な仕事をしている乳母は色々神経を尖らせる事が多いのかしら?


 魔力に対して敏感に反応しているわ。

 彼女ならすぐに習得できそうね。


 その後、護衛騎士も私の髪の毛を掴んだ。彼の髪の毛の色は真っ赤なの。


 かなりの魔力量だと思う。魔力を流して気づく。


「貴方、普段は上手に隠しているようだけれど、よく寝込んでいるわね?」


 護衛騎士は驚いたような表情をしている。


「魔力塊を起こしているわ。痛かったわね」


 私は王子に棚の引き出しを開けるように言ってまた一つの指輪を取り出した。


 王子にあげた指輪とは違い、黒くくすんで装飾のない指輪。


「これをはめて頂戴。あぁ、貸し出すだけだから魔法が使える様になったら返してちょうだい」

「魔力塊って何?」


 王子が不思議そうに聞いている。


「魔力が多い人に起こる一種の病気みたいなものよ。魔力の行き場がなくて身体の至る所に塊が出来てしまうの」

「それって一杯塊があったらどうなるの?」


「身体の血の巡りが悪くなって全身肩こりになった状態と言えば分かりやすいかしら?子供の王子では難しいわよね。

 体中に塊が出来ると痛みが出てくるし、その部分の感覚が鈍くなる。最悪は死に至るわ。まぁ、余程の事がない限りはないけれどね」


「治すにはどうしたらいいの?」

「魔力を使うしかないわ。今渡した指輪は強制的に外に魔力を出す指輪なの」


 そう言ってからまた護衛騎士に魔力を流し始める。


 魔力塊が小さいながらもゴロゴロとあるから循環が上手くいかない。

 少しずつ塊を潰していくしかないようだ。


 少しずつ塊を潰したり、指輪に押し流したりする。


 時間にして十分くらいだろうか。上手く循環し始めた。


 護衛騎士も流れ始めた魔力をしっかりと感じ取る事が出来たようだ。


 血の巡りが良くなるように魔力の巡りも良くなってきたおかげか護衛騎士の顔は赤みを差している。


 普段魔法を使わなくても人間は無意識に余った魔力を排出しているけれど、たまに魔力の多い人は排出が上手くいかずにこうして塊になる事がある。


 塊になると上手く排出が出来ずにさらに塊になるという悪循環に陥ってしまう。


 それを防ぐためだけに作られているこの指輪。


「さて、魔力循環は教えたわ。これは基礎の基礎。出来る様になったらまた来なさい」


 そうして私はまた彼等を塔の外へと押し出した。


 私はあくまでも魔法研究職に就いている魔女。


 治療者ではないので治療の類いは苦手なのよ?


 護衛騎士に魔力を使ったから疲れたのでまた眠る事に決めた。


 最近は王子をかまっているから薬を作っていないわ。

 そろそろ作ろうかしら。

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