第10話王子side4
「ここに立ち入ってはいけません」
護衛となった騎士団長は僕が塔へ入るのを止めた。
「大丈夫だよ。ただお礼を言うだけだから入り口で待っていて」
そう言って僕はグリーヌと一緒に塔へと入っていった。
ラナを見ると我慢していた思いが一気に込み上げてきた。
泣きながら訴えるとラナはハイハイと少し困ったような顔をしながら僕の話を聞いてくれた。
結局上手く話せずにグリーヌが説明する事になったけど。
ラナは何か考え事をした後、グリーヌに植物を用意しろって言っていた。
それで僕に治癒魔法を掛けてくれたんだ!!
凄かった!
ラナの魔法は僕を優しく包み込むような感じで、温かくって僕は優しい気持ちになった。
ぜったい聖女よりラナの方が聖女なんだと思う。目は全然見えていなかったけれど、ラナの魔法で少し見える様になった。
僕は父から何も言われないし、怪我がまだ治っていないという理由をつけて勉強も休んだ。
毎日少しずつだけど首飾りから感じる癒しの力。
じわじわと傷は癒えて目は元通りになった。胸の傷はもうない。
指はまだ完全には元に戻っていないけれど、最初に傷口を見た時は根本から無かった。
今は第二関節まで生えている。
これにはグリーヌも元騎士団長のアレフィオも驚いていたよ。
アレフィオは罪の意識に苛まれていたようだから本当に良かったと思う。
そしてラナが持ってこいって言っていた植物を自ら調達してくれたんだ。
王太子費で発注すればすぐに集まると思うんだけれど、何に使うんだ? って追及されそうだからグリーヌにこっそり頼むつもりだったんだ。
因みにグリーヌは元子爵夫人。
夫も子供も魔獣の襲撃で亡くなったらしい。
僕の乳母になった理由はよくわからないけれど、物心ついた時から僕の母親としてずっと側にいてくれている。
元騎士団長のアレフィオは侯爵。
昔から騎士を輩出している名門貴族なんだ。僕のために騎士団長を降ろされたのは本当に申し訳なかったと思っている。
侯爵家である程度お金を出してくれたおかげですぐに植物は手に入った。
アレフィオにはまた扉の前で待ってもらって僕とグリーヌで大きな袋を抱えてラナの部屋に入った。
ラナは聖女の事をいくつか聞いてきたけれど、答えに納得しなかったのか聖女の事で少し不満気だった。
僕には分からないけれど聖女はもっと魔力の多い者がなるべきなのかもしれないと思った。
グリーヌと一緒に地下の一室に来たんだけど、僕達が持ってきた薬草を使ってこれから調合をすると言っていた。
部屋は真っ暗だったのに僕たちが入ると、四方からボゥと火が灯されて明るくなった。
どんな仕組みなんだろう?
そうそう、久々の調合だと言ってラナはさっきとは違い、上機嫌だ。
魔法も興味深いけれど、調合も気になる。
グリーヌはラナの指示通りに植物を器に入れているけれど、僕には手伝わせて貰えなかったのが悔しい。
僕はまだ子供で不器用だからだって。
そんなこと無いのに。ちょっと悔しかったけれど、確かにグリーヌの丁寧さには及ばない。
そして僕達は壁際まで下がって黙って見学する。
僕だって途中で声を掛けてはいけない事くらい分かる!
空気は読めるからなっ。
床から模様が浮かび上がり、器の中身から泡がポコリ、ポコリと浮かんでいる。
不思議な光景に息を呑む。
そうして出来上がったものは回復薬だという。
飲んでも掛けてもいいらしい。
僕たちは回復薬を大きな瓶に何本か入れるとそのままいつものように塔の外まで押し出された。
後から袋もポイッと。
アレフィオは僕達が大事そうに抱えている瓶を不思議そうに見ていたけれど、何も言わず僕の部屋まで運んでくれた。
「グリーヌ、どうしよう? ちょっと試しに飲んでみていいかな?」
「なりません。毒見役を必要とするのなら私がやります。その後、ツィリル様が味見をしてはどうでしょうか?」
僕とグリーヌでそう話をしていると、アレフィオが口を開いた。
「ツィリル様、その液体は何なのでしょうか?」
「あぁ、これは回復薬だ。そうだ、アレフィオ、お前、飲んでみろっ。僕を庇った時に怪我をしたんだろう?」
僕ほどの酷い怪我は無かったが、長年騎士団長をしている位だ、きっと古傷もあってグリーヌよりも身体はボロボロだろう。
試すのに丁度いい。
僕はそう思って一口グラスに回復薬を淹れてアレフィオに差し出した。
グリーヌはアレフィオなら毒見をさせてもいいらしい。
ちょっと困惑気味のアレフィオだったが、僕が飲めと命令すると一気にグラスを呷った。するとどうだろう。
アレフィオは飲んでも大丈夫そうだと言う。
回復薬の効果はないのか、と思っていたら急に立ち止まり目を見開いて何かを確認するような仕草をしている。
「どうしたんだ?」
僕が聞いてみると、アレフィオは震えている。
「ツィリル様、こ、これは危険ですっ!!な、なんて恐ろしいっっっ」
「……毒だったのか?」
「いえ。一口飲んだだけで先ほどまであった身体の痛みが全く無いのです」
どうやら効き目が凄いと言いたいようだ。
僕とグリーヌも一口だけ飲んでみると、僕の目は完全に元に戻った。グリーヌも元気いっぱいになったようだ。
指を確認するけれど、回復薬では治らなかった。
これは首飾りで徐々に治すしかないみたい。
あまりに効果がありすぎるのでアレフィオは薄めてはどうかと言っていた。
グリーヌもそれには賛成している。
確かに。
とびきりの回復薬を騎士達に飲ませて回復させても数に限りがある。
僕が作れるようになるまでは表に出してはいけないと思うんだ。
アレフィオとグリーヌと三人で話し合った結果、騎士達に日頃の疲れを労うという目的で王子費からワインや食事の提供をする事になった。
その提供されるワインにほんの少しだけ回復薬を混ぜて飲ませる事にした。
現在大怪我をしている騎士達には原液を少し飲ませて口外しないよう黙らせておくことにした。
僕たちの目論見通り騎士達は食堂で振舞われた食事とワイン。
騎士達は振舞われるワインに酔いしれたようだ。
そして翌日には誰も欠ける事無く厳しい訓練に参加できたようだ。
騎士達は不思議と身体が軽くなったとか怪我が少し良くなったとか言っていたようだ。
大怪我をしている騎士達に飲ませた回復薬だが、どれほどの量を飲めば良いか分からず一口グラス分を試しに飲ませてみた。
すると骨折していた者はたちどころに治り、背中に大きく裂傷を負った者は一瞬で塞がった。
魔獣に引っ掻かれると多くの者は化膿し、熱が出てそのまま亡くなる者も多いらしい。
みな一様に驚いていたが、『この薬はまだ研究の途中で世に出せないため黙っておくように』と言うとそれぞれ納得し素直に従った。
騎士達を見てやはり僕は魔法の事をもっと知りたくなった。
僕はラナの所に行って魔法を教えてもらおうと改めて誓った。
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