第9話 王子side3
そうして討伐同行の日。
グリーヌは泣きながら僕を見送ってくれた。討伐に乳母は連れていけないと言われたからだ。
怖いくて不安はあったけれど、ラナから貰った指輪と首飾りは僕に叱咤激励してくれているようで頑張る事ができたと思う。
馬車に揺られて着いた村は既に魔獣によって荒らされていた。
騎士達はいつも討伐を行っているエリート達。
今回は王族の僕がいるからエリートを揃えたのだと思う。そして今回の魔獣討伐に同行した聖女様。『私が付いていますから緊張しなくても大丈夫です』と笑っていた。
騎士達の準備が整い、村の外へと向かった。
今回村に出たのはクマのような魔獣が三頭。騎士達は村の外に出るとすぐにその魔獣を見つける事ができた。
斬りかかる騎士達。血しぶきが飛びながらも反撃しようとする魔獣に僕は震えあがった。
難なく倒していく様子を見ているとようやく僕もホッと息を吐くことが出来た。
騎士達はいつもこうして頑張ってくれているのかと僕は感謝の気持ちで一杯になった。
「よし、討伐完了だ! 撤収!」
騎士団長がそう号令を掛けた瞬間に森の奥から木々がなぎ倒される音が聞こえてきた。
その場に居た全員に緊張が走る。
さっきの魔獣とは比べ物にならないほどの大きさの魔獣が現れた。
騎士達は撤収をしようとしていたけれど、態勢を整えで斬りかかっていく。
けれど、魔獣の大きな手で何人もの騎士達がふっとばされてしまった。
「撤退!! 全軍撤退だ! 一旦引くぞ!!」
騎士団長が大声をあげているけれど、逃げる余裕が騎士達にはなさそうだ。
苦戦している様子を見て騎士団長も柄に手を掛けていつでも斬りかかれる状態になっている。
僕もそれに習って剣を構える。
魔獣がギラリとこちらに気づいた。
僕と目が合った。
もう駄目かもしれない。
足はガクガク震えている。
泣きそうな気持ちをなんとか気力で抑えつける。
「きゃぁぁ、こっちに来ないで!!!」
斜め後ろにいた聖女がけたたましく叫び始めた。
その声に魔獣は僕から視線を外し、聖女にターゲットを決めたようにゆっくりと聖女の方に歩いていく。
聖女は走って逃げるのかと思ったんだ。
でも何故か僕の方へ走ってきたかと思ったら僕を突き飛ばした。
僕は魔獣の前に押し出されたんだ!
突き飛ばされた衝撃でよろけて膝をついて剣を落としてしまった。
聖女の叫び声はどこか遠くに去っていく。
……僕は、死ぬかもしれない。
震えて動けずにいると、魔獣が僕に噛みつこうとした。
すると、『バチンッ』と魔獣が弾かれた音がする。
音と共に何か薄い壁のような物が僕の前に現れて魔獣から守ってくれている。
……ラナだ。
ラナが守ってくれているんだ。
この首飾りで。
何度も大きな魔獣は僕に襲い掛かってくる。その度にバチンッと弾いてくれているけれど、その度に壁が薄くなっているのが分かる。
あぁ、もうだめだ。
そう思って僕は最後の抵抗をしようと剣を拾い上げ、震える手を見ると指輪が光っている。
【炎よ噴け】僕は気づいたら大声で叫んでいた。
指輪から炎の柱が魔獣を包む。
その光景を動けずに見つめるしかなかった。
やったんだ。
指輪が魔獣を攻撃している。
ホッとした瞬間、炎に焼かれながらも僕に向かって魔獣は攻撃をしてきた。
僕の意識はそこで途絶えてしまったんだ。
気が付くと何処かのベッドで寝かされていた。
体中痛くて動かす事も出来ない。
「こ、ここは……?」
やっとの思いで声を出すと、グリーヌが涙を流しながらすぐに顔を覗かせた。
「ツィリル様、ここは王宮の医務室です。殿下は大怪我をして運び込まれたのです」
「騎士達……は?」
「怪我人は数多くいますが、死人は出ていないそうです。殿下が一番深手を負ったのですっ」
「聖女様、は? 無事だった?」
グリーヌの表情が一瞬固まった。
「あ、あぁ。聖女様は殿下より怪我が酷かったようです。
すっかり記憶から欠落していました。聖女様は殿下達を置いて逃げた先で小さな魔獣に出くわして怪我をしたらしいですよ。
自業自得です」
そうしてグリーヌから僕が倒れた後の話を聞く事が出来た。
父上や母上は僕が怪我をしたのは騎士団長のせいだって怒って首にしかけたけれど、僕は必死で止める事になった。
元はといえば聖女のせいだから。
騎士団長は僕を庇ってくれていたんだ。
何とか騎士を首にならずに済んだけれど、父の怒りは凄まじく彼を地方に飛ばしそうだったので父に掛け合い僕の護衛として常についてもらう事になった。
騎士団長は泣いていたよ。
僕が不甲斐ないばかりに申し訳なかったなって思う。
これからもっと強くなろうと心に誓ったんだ。
僕は片目を失い、片手の指も失った。
もう王太子となるのは難しいと思う。
最近、父達は特によそよそしい。
今までは勉強しろと言っていたけれど、それも言われなくなった。
僕はとうとう父達から見放されてしまったんだ。
父に認められたくて頑張ってきたのに、悲しくなった。
もう、どうでもいいやって思ったんだ。
でもね、ラナの事を思い出した。僕の事を考えて指輪も首飾りも用意してくれたラナ。
きっと心配してくれている。
傷口も塞がったばかりだけれど、守ってくれたラナにお礼が言いたいと僕は忘却の塔へと向かった。
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