第7話王子side

「ツィリル様、本日の課題は~……」


 僕は毎日王太子教育がつまらなかった。


 僕だってお友達と剣で戦いごっこをしたいし、虫取りだってしたかった。でも気づけば勉学ばかり。


 たまに騎士団長が僕に剣術を教えてくれたけれど、毎日勉強ばかりでつまらない。


 それに父も母も執務で忙しく、いつも僕と遊んでくれない。 


 朝は一緒に食事をするけれど、父と母は業務連絡のような話ばかり。休み何て殆どない。


「ツィリル、先日教師達が褒めていたぞ」

「父上、有難うございます。先生方の期待を裏切らないようもっと頑張らねばいけませんね」

「いい心がけですね。王太子として恥ずかしくないよう頑張りなさい」

「はい。母上」


 そうして朝食の会話はすぐに終わりを告げる。


 いつも父と母は僕のそばに居ない。

 乳母のグリーヌだけがいつも僕の側に居てくれる。


 小さな内は寂しくて泣いていた。泣いても喚いても父も母も僕を呼んでくれない。


 仕事ばかり。

 仕事は大事だ。

 父も母も仕事をしなければ民は飢え死にしてしまう。


 僕だってそれくらい知っている。


 けれど、たまには休みをとって家族三人で過ごしたいと思う事は駄目なのかな。


 僕はいつも寂しさを埋めるようにグリーヌにくっついていた。


 何処へ行くにもグリーヌと一緒じゃ無きゃ不安なんだ。

 たまに何処かから聞こえてくる軟弱者という言葉。


 それでもグリーヌは僕を心配してどこにでも寄り添ってくれていた。


 たまに勉強が休みの日は騎士団長のところへ行き、剣の稽古をしていたけれど何となくこの日は図書館へ行こうと思ったんだ。


 王宮図書館は貴族でも事前に許可が無ければ入ることが出来ない。僕は顔パスだけれどね。



 殆ど人の居ない静かな図書館。

 どんな本があるのかも分からない。だから僕は司書に聞いてみたんだ。


 すると司書は『魔法使いのヤン』という本を出してくれた。元は古い、古い本らしいけれど、何度も書き直されて王宮図書館に置かれているらしい。


 部屋に戻って本を読み始めた。


 ヤンという少年が森に迷い、一人の老魔法使いの弟子になって成長し、りっぱな魔法使いになって魔物を倒していくという内容だった。


 僕はヤンが魔法を使える様になっていく様子が面白くて何度も何度も読み返した。グリーヌに話して聞かせたんだ。


 するとグリーヌがにこやかに言った。


「この本の作者は本物の魔法使いにあった事があるのかもしれませんね」

「グリーヌ、本物の魔法使い? 本当にいるの?」

「昔は実在したと言われておりますね」

「僕も会ってみたい! 魔法使いになれば魔獣を沢山倒せるでしょう? 国が平和になれば父上も母上も僕と遊んでくれるよね」

「そうですね」


 何気ない会話だったけれど、魔法使いが居た事を知って僕は会いたくなった。


 それから僕は暇を見つけては魔法使いが何処にいるのかずっと探すようになった。


 やはり王宮図書館は古くからの書物が沢山あって魔法使いが存在したような内容が書かれている本がいくつもあった。


 けれど、残念な事に今では魔法を使う人は誰もいない。


 聖女が祈りで人々の治療をするのは知っているけれど魔法とは違うのかな。気になって僕は何度か教会に足を運んだ。


 視察という名目で乳母や護衛と一緒に。


 聖女マーリンはいつも治療に当たって忙しいらしく一度も会えなかったけれど、次代の聖女シャロンには会う事が出来た。


 どうやら僕の一つ下で今、八歳。


 伯爵令嬢で治癒の力が使える事がわかり、教会で住み込みながら聖女の勉強をしているらしい。


 彼女は僕を慕ってくれているらしく殿下、殿下と僕が視察に来る度について歩いてくる。


 その姿は可愛い子犬のようでつい微笑んでしまう。


 シャロンが怪我人に治療する様子を見せて貰ったが、祈るとふわりと患者が薄く光り、傷を癒していた。


 幼いうちから何度も祈りの練習していくらしい。


 結局、魔法なのか僕には分からなかった。


 視察以外に王宮の外へ出ることも出来ないし、魔法使いの痕跡を見つける事が難しかった。


 諦めるしかないのかなぁ、と考えていたそんな時。


 訓練場から寮へ帰るところなのか若い騎士達が雑談をしながら歩いていた。僕に気づかずに騎士達は大声で話をしている。


「なぁなぁ、今度さ、忘却の塔に肝試しに行ってみないか?」


 忘却の塔?

 聞いたことがない。

 どこだろう?


「えー遠慮するよ」

「お前怖いんだろう?」

「正直に言おう。俺は怖い! 塔に入れば魔女の呪いに掛かるって話だろ? 昔、塔に入って頭に火がついて慌てて外に出たとか腕を切り落とされたとか色んな話があるよな。俺、まだ禿げたくないから」

「だっせーな」

「何とでもいえ」


 騎士達は笑いながらその場を去っていく。


 ……魔女の呪い?

 忘却の塔には何かあるのかな?


 魔法のような物が。僕は気になって仕方がない。


 いつも一緒にいてくれるグリーヌには心配を掛けたくない。

 僕は内緒で忘却の塔をこっそり見に行くことにしたんだ。



 騎士達の話を聞いてからそれとなく騎士団長に忘却の塔が何処にあるのかを聞きだした。


 忘却の塔というのは城の敷地内にあるけれど、敷地の端っこに立っている塔で大罪人の塔だから近づくなと常々言われている塔なんだ。


 どんな大罪人がいるのか誰も知らない。

 ただ居るとだけ。

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