第6話

そう言うと乳母と王子は袋に植物を詰めなおしている。雑な王子を諫めながら乳母は丁寧に袋に入れている。乳母も私を見慣れてきたのか怖がらなくなっているわ。ふわりと浮いたまま隣の部屋へと入る。そして階下へと降りていく。


「ラナ!暗いけど地下に行くの?」

「そうよ。回復薬の調合は地下で行っているの。最近は滅多に使わないけどね」


私達は地下にある一つ部屋へと入ってきた。部屋の隅に幾つかの大きな籠やボウルなどの容器や器が置かれているだけの小さな部屋。


「ラナ、ここは?」

「調合室よ。乳母の貴女、そこの大きなボウルに薬草を入れてちょうだい。ちゃんと人数分全てよ? 数を間違えないようにね」


私がそう指示をすると乳母が数や量を確認しながらボウルへと植物を入れた。見ているだけのツィリル王子は退屈だと言っていたが。まだ子供には丁寧な作業は無理だからね。

「さぁ、ボウルに植物を入れたわ。壁際まで離れてちょうだい」


私はボウルを部屋の中央まで動かした後、水魔法で水を淹れてボウルを満たしてから詠唱を始める。すると床から魔法円が浮かび上がる。そのまま続けているとボウルからポコポコと泡が出てきた。

本来なら自分の手でかき混ぜながら魔力を流していくけれど、首だけの私には出来ない。手の代わりに縛っている髪の毛をボウルに少し浸けて微量の魔力を流していく。もちろん髪は事前に浄化魔法で綺麗にしてあるわよ? 薬作りなどは魔女の分野。

私の気分も上々よ。

ボウルの中身はぼんやりと淡い光と共に植物が溶けていく様子が見える。王子達は薬の調合を食い入る様にみている。ニ十分程経っただろうか。ようやく回復薬が完成した。


「完成したわ。そこの瓶に詰めてちょうだい」


乳母は丁寧に瓶に回復薬を流し込んでいく。ツィリル王子は興奮し早口で話をしている。


「ラナ!ラナ、凄い。凄いよ。いまのは何?何が出来たの?どうやったの?これも魔法?床に何か絵が出てきたよ」


矢継ぎ早に質問をするツィリル王子。


「今作ったのは回復薬よ?今のこの世界には存在しないのかしら?」

「ないよ?聖女が作る聖水はあるけどね。擦り傷くらいなら治るって聞いたことはある」

「あら、そうなの?これは腕を生やすことはできないけれど、そこそこの怪我には効くはずよ。ツィリル王子を守って怪我をした騎士達に飲ませるといいわ」

「飲み薬なの?」

「かけてもいいわよ?けれど飲んだ方が効果あるわ」

「分かった。ところでさ、ラナ。僕も魔法を覚えることが出来る?」

「そうねぇ。魔力はまぁまぁ持っている方だから出来ると思うわ」

「本当!?僕、魔法を使える様になりたい!」

「いいわよ。今度また来た時に教えてあげても。さぁ、その瓶を持って今日は帰りなさい。あぁ、瓶は後日返してね」

「わ、わかった。ラナ!ぜったいだよぉぉ~~」


ツィリル王子達はいつものように扉の外に押し出された。毎回同じなので最近は慣れてきているのだろう。即座に乳母と瓶を抱えていたもの。

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