第5話

「あ、あの。ラナ様。書き取りはしましたが、植物の名前は知らないものばかりです。どうすれば良いでしょうか?」

「そうか、古すぎて植物の名前が違うのね。ちょっと待ちなさい」


私は王子を立たせたままふわりと浮いて上の階の部屋に入る。この忘却の塔は五階建てになっている。見た目は狭く一部屋ずつしか無さそうに見えるのだが、そこは長年魔女として暮らしている私。空間を弄り、部屋は沢山ある。


そして今入った部屋は図書館と言ってもいいほどの本を置いている部屋の一つ。


「確かここにあったはず。……あったわ」


一つの本を取り出し、本と一緒に先ほどの部屋へと戻り、乳母へと見せる。


「植物図鑑よ。書いたのは私だけれど。上手いでしょう?」


自慢しながら先ほどの植物を植物図鑑と照らし合わせる。絵を見た乳母には笑顔が浮かんでいる。どうやら今も現存している植物ばかりのようだ。


「集められるかしら?」

「大丈夫そうです」

「じゃぁ、用意をお願いするわ。さて、今度は王子ね。私の髪を持ちなさい」


王子は先ほどまでグズグズと泣いていたのに今はもう興味津々でこちらを見ながら髪をしっかり掴んでいる。

私は治癒魔法を髪を通して王子に掛ける。対象物に触れなくても魔法は掛けられるのだが、直接触れる方が効率がいい。特に目や指など欠損している。魔力量が限られている今はロスを少しでも避けたい。

髪の毛から伝わる治癒魔法を流していくと、王子の全身が淡く黄色く光っている。

どうやら目と手以外にも怪我をしていたようだ。胸辺りもひっかき傷を作っているのだろう。ある程度魔法を使った所で止める。


「え!? もう終わり!?」


ツィリル王子はとても不満気だ。とても治癒魔法が心地よかったのだろう。


「えぇ。今日の所はここまでね。胸にも傷があったみたいね。私は光魔法が使えるけれど、得意ではないから一度では治せないわ。また今度、治癒魔法を掛けてあげるわ。

あと、包帯はまだ取らないでおいて。怪我が治っている事を悟らせないでちょうだい」

「なんで?」

「ここに来ている事がバレてしまうでしょう? あぁ、ついでに首に掛けてある首飾りに治癒魔法を流し込んだからジワジワとよくなるはずよ。ずっと着けておきなさい」

「!! ラナ有難う! ラナが治癒魔法を掛けてくれた時、温かい魔力を感じてとっても気持ち良かった。傷が痛くて苦しかったけど、とっても楽になったよ」

「……そう。良かったわね。じゃぁまたね」


私はいつものように王子達を押し出してベッドへと潜った。あの王子は変わり者ね。

忘却の塔はその名の通り。

一定の魔力の無い者は見えない。そして罪人である魔法使いが暮らす塔だと周知されていたと思う。

王子曰く『何人たりともこの塔に近寄るべからず』と言い伝えがあるようだ。


極稀に興味半分で入ってくる輩は過去にもいたが、私の姿を見るなり逃げ帰るのが殆どだった。怖がらずに接するツィリル王子はやはり変わり者ね。私はまた深い眠りに入る。




……どれくら経ったのか。


魔力も回復し、私は目覚めた。多分今回は半月も寝ていないと思うのよね。私はボーッと窓を眺めながら貰った歴史書に目を通した。

中々に面白かったわ。

あの王子、次はいつ来るのかしら? と思っていた三日後、彼は大きな袋と共に私が思っていたよりも早くにやってきた。


「ラナ!! 持ってきたぞっ! これでいいのかっ?」


乳母と二人で抱えながら持ってきた大きな麻袋。


「中身を見せて頂戴」


乳母は一種類ずつ取り出してテーブルの上に置いて見せた。私はどれどれとテーブルの上に移動して一つ一つ丁寧に品定めをする。


「良い品ね。合格よ。そういえば目が見える様になったのね」

「そうだぞっ! ラナのおかげで毎日少しずつだが回復して完全復活とはいかないけど、見える様になったんだぞっ。ほら、指だって少しずつ生えてきている」


王子はそう言って掌をどうだと言わんばかりに私に見せた。根元から三本ほど無くなっていた指は第二関節まで生えてきている。あと一、二回程首飾りに魔法を詰めれば治りそうね。普段はバレないように包帯でグルグル巻きにしているらしい。目の方は大方回復しているため包帯は取ったようだ。


そして聖女はようやく怪我が治ったらしいのだが、今回の事で魔獣討伐に同行するのは嫌だとごねて急ぎ次代の聖女を育てているのらしい。

今までどのような魔獣討伐の同行だったのかしら?

私は魔女として参加していたけれど、光魔法特化の人は治癒をしながらも一緒に戦っていたわ。そう思うと聖女として大事にされてきたのだと思う。そんな考えに蓋をしつつ、今は目の前の事だけをやるだけね。


「一旦植物を袋に戻して付いてきてちょうだい」

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