魔力の無い魔法使い

@rihito0131

魔力の無い魔法使い

 佐藤陽介は、普段は地味な生活を送る男だ。彼は現代の日本で、魔法が一般的な存在である中で、魔法使いに憧れを抱きながらも、自分の魔法力の限界を痛感していた。


 町の魔法学院での日々は、彼にとって希望の光だった。学院の仲間たちは、彼の夢を支えていたが、同時に彼の魔法力に疑念を抱いていた。陽介の魔法は光る程度のもので、派手さはなかった。


 ある日、陽介は学院でポスターを見つけた。それは町で行われる魔法対決大会の告知だった。大会での優勝者には魔法使いの称号が与えられ、彼の夢に一歩近づけるチャンスだった。陽介はためらわず、大会への参加を決意した。


「君には勝てないだろうよ、陽介」友人の一人が肩を叩きながら言った。


 彼は微笑みながら答えた。「魔法だけが勝敗を決めるわけじゃないんだ」


 彼の目には、謎めいた光が宿っていた。「へぇ、面白い。じゃあ、期待しておくよ」


「ありがとう」


 すると、今度は別の友人が彼に聞いてきた。

「ところで、あの対決では君が使う魔法も注目されることになると思うけど、何の魔法を使うつもりなの?」


 彼は少し考えてから答えた。

「いや、まだ決めてない」

 友人の答えは意外だったようで、驚きの声が上がった。

「それはマズイんじゃないか?」と聞かれても、彼はすぐには答えられなかった。


「大丈夫。俺は魔法以外にだって自信はある」と彼は言ったが、その言葉はどこか苦しそうだった。

「まあ、君がそう言うなら……」

 友人たちは彼の挑戦を応援しながらも、その真意を探るような視線を向けた。陽介はそれに気づかないふりをして、話を続けた。


 ***

 ある日のこと佐藤陽介は小さな劇場の舞台裏に立っていた。彼は魔法を使えないことに悩み、夢の中で魔法使いになることを願っていた。


 暗い舞台裏で、彼の心は重く、希望が薄れていく。そこには、他の魔法使いたちが舞台で魔法を使って観客を驚かせる音が聞こえてきた。


 陽介は微笑んだ。だが、心の中では自分が魔法使いになれるのか、という疑念が渦巻いていた。


 その瞬間だった。劇場の裏口が開き、謎めいた男が入ってきた。彼は長い黒いコートを着ていて、顔は部分的に仮面で覆われている。


「失礼しました」 と、その男は深々と頭を下げました。


「私こそが、魔法のマスター、石川千夜です」


 佐藤陽介は驚き、石川千夜に興味津々で見つめました。


「陽介君、あなたは魔法が使えないと思っているでしょう?しかし、私はあなたの中に秘められた魔法を見てみたいと思っています」


 そして陽介は千夜に連れられ、街外れにある公園に連れてこられた。


 そこでは、男が観客に向かってトランプカードを使ったトリックを演じている。観客たちは熱心にショーに見入り、驚きの声を上げている。


 陽介は思わず感心の声を漏らしました。その男は魔法を使わずに、単純なトランプカードを駆使して、観客を魅了しているのだ。


 男に近づいた陽介は、思わず言葉を交わした。


「本当にすごいですね。魔法を使わずに、ここまで観客を引き込むのは驚きです。どうやったんですか?」


「タネも仕掛けもございません」

 その男はやる気に満ちた顔で言った。


「陽介君。魔法は一つの方法ですが、マジックには無限の可能性があります。観客に驚きと喜びを提供するのは、魔法に頼らずにもできることなのです」


 千夜は陽介に、彼が魔法使いになりたい理由を尋ねた。彼は自分の夢を語り、自分も何かできることがあるはずだと訴えた。


「陽介君、あなたは素晴らしい心を持っていますね」

 千夜は微笑みながら言った。


 彼らはしばらくの間、それぞれの特技を見せ合ったり、お互いについて話しながら過ごした。舞台裏にあるテーブルでお茶を飲みながら、マジックの練習する彼らの姿は微笑ましいものだ。


 そして陽介は千夜に弟子入りし、魔法対決大会に出場することを正式に決めたのだ。


 そして、そして大会当日。陽介はこれまで、マジックを練習してきた。その成果を発揮する時が来た。


 舞台上では、陽介が観客たちの前でマジックを披露している。カードを使った手品は、人々を魅了することが出来る。しかし、その様子を観客は冷めた目で見ていた。陽介のパフォーマンスに満足していないようだった。

「おい、あいつは本当に魔法使いなのか?」

 観客たちは口々に文句を言った。陽介は苦笑いを浮かべることしかできなかった。

 そこで、陽介の時間は終わった。舞台裏に戻ると、千夜が彼を待っていた。

「陽介君、お疲れ様でした」

 千夜は陽介にタオルを手渡した。彼はそれを受け取って汗を拭いた。

「ありがとうございます」


 彼は素直にお礼を言った。その目にはまだ希望の光が灯っている。


 舞台を見ると魔法使いたちが、呪文を唱えて、空中浮遊魔法を使っていた。

 観客たちは歓声を上げ、彼らは舞台上で美しく舞っていた。


 そして2回目の陽介のターンが回ってきた。


 そこで陽介は大きく出る。

「先程の空中浮遊魔法には欠点があります」

 彼は観客席に向かって説明した。観客たちは興味深そうに彼の話を聞いている。


「それは、魔法の発動に呪文が必要で、飛んでもせいぜい一〇秒程度ということです。私は今日、呪文を使わずに三〇秒以上も空中に浮かびます。その方法をお見せしましょう」


 観客たちは興奮し、期待に胸を膨らませました。


 彼は舞台裏で細くて透明なワイヤーを衣装に仕込んでおり、その一端は彼の背中や腰に隠れている。


「それでは、私も空中浮遊のショーを行います」


 観客たちは期待に胸を膨らませ、陽介は舞台中央に立つ。呪文を一切使わず、ただ衣装の一部を軽く引っ張る。それだけで、ワイヤーが作動し、ゆっくりと空中に浮ぶ。


 修平は三〇秒、四〇秒、さらに長く浮遊し続けている。彼の笑顔は幸せに満ちており、観客たちはその驚異的なショーに魅了された。


 魔法によってマジックというものが衰退した世界でワイヤーという答えを導き出せるものはそうそういない。

 陽介は視覚のみならず、その意識からもタネを隠してのけたのだ。


 そして、陽介は最後の空中浮遊を見せる。彼はワイヤーの仕掛けを作動させ、まるで宙を歩くように舞台裏に戻っていった。観客たちは驚き、信じられないといった表情だった。彼らの多くは魔法使いだが、こんなことができる者はいないと知っていたからだ。

「魔法は一つの方法ですが、マジックには無限の可能性があります」というキャッチフレーズを陽介は思い出した。

 その瞬間を見ていた千夜は笑った。


 そして最後に陽介は言った。

「タネも仕掛けもございません」


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