第3話 変わり者同士
健やかなるエルの朝がやって参りました。
ドギンは寝癖は直しませんが寝台の敷布だけは綺麗に直して、ミスリルの鎖帷子を下に身に着けてから服を着ました。
ある程度支度が出来たら階段をおりてパブで朝食を摂ることにしました。
既にデーンは食卓について居たようで朝から麦酒を大きなマグに溢れんくらい注いで飲んでいたのでした。
「おはようございます。デーン卿は朝からお酒ですか?」
少し呆れた声で話しながら、同じ席に座りました。
「おうよ、今は手に職をつけていないからな!」
豪快な笑い声を上げるデーン卿にドギンは少し苦笑いを浮かべるしかありませんでした。ドギンが給仕に豚肉の塩漬けと目玉焼きを注文した時には奇異の目で見られましたがドギンは気にしないようにしました。今はもっと大事なことがあったからです。
「デーン卿、今回の事で大変ご迷惑をおかけいたしました。改めて謝らせてください」
そう言って頭を深く下げるとデーン卿は何も気にしていない様子でした。
「良いってことよ。あんなチンケな海じゃ俺には狭すぎるからな。それにいつでも酒が飲めるってのは圧倒的な至福というものよ」
そう言って一気に酒を飲み干してしまいました。少し給仕が困った顔をしていましたので、恐らくは山人にも勝ると劣らん酒豪でドギンが来る前からたくさんの量を飲んでいたのでしょう。昨日、立場の話で説教していた人とは思えない(お店側にとっての)迷惑さを兼ね揃えていたようでした。
少し咳払いをして一度場の空気を取り戻してからドギンは話し始めました。
「私は少なくとも昨日の償いをしなければならないと思ったのです」
新しく持ってこさせた酒に口をつけるデーンをよそに話を続けました。
「私は反省しなくてはならない。だから決めたのです」
「決めた?何をだね、小さな旅人のドギン君。ちなみに俺はお前さんに貰った恩にはお礼をしたから何も求めてないがね」
冗談めいた口調で話すデーンなんて見えていない様子でドギンは言いました。
「王に会って、私の過ちを認め、皆さんがもう一度船乗りとして旅立てるようにしたいのです」
そう言うとデーンは目を丸くして、驚きのあまりに酒を噎せ返らせてしまいました。
「お前さんや、西にいる
そういうとドキンは納得をするのですが、不満げな顔でした。
「王の言い分は分かりました。要するに私が小鬼だということを顧みずに不用意に魔術を使ってしまったことを咎めていらっしゃるのですね」
「そういうことよ。そこでお前さんが直談判してみろ、お前さんがあの時のことを反省したとは受け止めては貰えないだろう。寧ろそれどころか、お前に忠告したのにそれを無碍にして図々しく尊大な奴だなと思われるに違いないぞ」
「では、どうすればいいのですか?やはり、私の過ちは私が償うべきでしょう」
そう言うとデーンは食卓に足をのせ、行儀の悪い姿勢を取ったので今、朝食が食卓に並んだドギンは余計不満げな顔になりましたが、知らん顔でデーンは話しました。
「最終的にはそうすべきだろうな。だが、お前が全部一人で周りを顧みずに解決しようとすれば意味が無い。そこで俺の出番って訳よ」
胸を張るデーンに訝しげな目線をドギンは送りました。
「俺がお前と王に会う手引きをしてやる。そうしてやれば直談判よりかは力に過信している奴には映らないはずだからな」
そういうと、デーンは足を下ろして誇らしげに立ち上がり「善は急げ」と言ってパブを後にするのでした。ドギンは半信半疑で待とうと思ったのですが給仕に手渡された領収書の金額を数えて信じることを辞めました。
そして、その疑いは残念ながら的中しました。デーンは豪快に笑って帰ってくるものですから、まさか上手くいったのかと思ったのですが、第一声から「断られた!」と言われたのでやはりかとドギンは頭を抱えるのでした。あまりにも時間が経っていなかったものですから断られたのだとはドギンもさすがに分かってはいたのでした。
「お前はもう船乗りでは無いし、そもそも今回の事で一等航海士の資格は剥奪するので場内に入れる訳ない。と、門前で追い返されてしまったんだ」
「それはそうですよ。やはり期待しなくて良かったですよ」
そういうとお互いどうしたらいいものかと悩んでしまいました。傍らで給仕は腕を組んで神経質そうに指で何度もトントンと叩いていました。
しばらく考えてから時間が経ち、ドギンはようやく口を開きました。
「もういっそ、二人で侵入しませんか?どう転んでもダメなら貴方を案内人としてこっそり侵入し、魔術の類を使わなければ魔術を使ってないし、力を使わず他の者の力添えで会うことになるので、形としては問題ないかと」
あまりにも常識外れの回答にデーンは苦笑いをしながら最終的に納得したようでした。そして、胸中にやはり小鬼は小鬼かという思いを抱きつつ準備をするのでした。
決行は昼下がりとなりました。というのも、エンギレンの森人の兵士は昼下がりから夕方にかけて森に邪悪なる者達の痕跡がないか巡回するからです。
もし、付近にその痕跡があれば太陽が沈んだ後の暗闇に包まれた時に、彼の者たちがこのエンギレンの森人達が住む都市を襲うはずなので、すぐに対処しなくてはならないため、早期に対応する必要があったからです。昼下がりには兵士たちが出払い、僅かな見張りのみとなるその時間が侵入するには最適の時間でした。
それまでの間、いつでも動けるように準備はしつつもドギンは勉強を怠るようなことはしません。
それは自身の根本を忘れない為にも必要な行為だと感じていたので、習慣づけているのです。
しかし今日は木々に色が付く季節の空にしてはあまりにも眩しく、本の紙ですら白くその光を跳ね返してしまうものですから、一度窓帷を閉めたのですが、今度は暗すぎて何も見えず、ロウソクを使うのは勿体なかったのでほんの少し開けたのですが、丁度いい光の加減が難しく、悪戦苦闘していると扉を叩く音が聞こえ、勉強を中断せざるを得ませんでした。
結局、あまり勉強は捗らなかったのでした。
「やぁ、準備は出来たかね小鬼のドギン」
いつも通りの屈託のない笑みを浮かべるデーンが扉の前にいました。
ドギンもまた、覚悟を決めた顔でデーンを見ました。
「いつでも出来ています」
勉強が捗らなかったことなんかすっかり忘れているようでした。
二人はお互いに手を取り、ヒンデンブルクのあの城を目指したのでした。
まず、ドギン達は怪しまれないように城下町の外れにある城と城下町の境目の城壁まで来ました。すると、デーンは屈むと壁のあちこちを探るように手で触り始めました。
「うんとなぁ、どこにあったかな、見つけたのも俺がここに来て3年目の時でな、訓練生共が訓練をサボろうとして抜け穴を作っていた事があってだな。確かこの辺だったかな」
そしてデーンは石造りの壁の緩い部分を見つけると丁寧に引き抜き、窪みに手を入れると何かのからくりが動く音が聞こえると、なんと目の前に只人一人歩くことの出来るトンネルが姿を現したのでした。
「こりゃあ、良くないな。王に会った時にこの事を伝えておいてくれないか?何かあってからじゃ遅いからな」と皮肉ったことを呟くと二人はそっと城壁を通り抜けていくのでした。
隠し通路の先は城内の中庭へと繋がっており、辺りはこの通路を隠すように草木が生い茂っていたので隠し通路を作るには絶好の場所となっていました。
二人はなるべく誰にも悟られないように慎重に王の元へと向かいました。森人は耳と目が大変よろしいですから城内をこっそり歩くには気をつけないといけません。
ドギンは小鬼でしたから風呂で身体の汚れを洗うという習慣はほぼなかったのですが、それでは小鬼特有の匂いを消せないので、デーンに無理矢理風呂に入れられて、匂いを消したりなど入念な準備をしていました。この準備が功を奏したのか、訓練生が多く存在する中庭から訓練学校を抜け出し、居館や礼拝堂に繋がる通路まで難なく来ることが出来ました。
しかし、ここからが困難を伴う潜入となったのです。というのも、隠れられる物陰が少なく、小柄なドギンは何とか隠れ遂せるのですがデーンは反対に大柄な為にそういう訳にはいきません。
今も居館の前まで来た時に場内を巡回する兵士二人組に見つかってしまいました。
「おい貴様、ここで何をしている。確か昨日、アスラン王から一等航海士の任を解かれた只人だな?」
見つかってしまったにも関わらずデーンは大胆にも彼らと会話を試みたのでした。
「いやぁ、確かにその通り、おれぁ、王様に一等航海士の資格を剥奪されたが、何も入るなとは言われていないぞ」
「アスラン王のご命令で貴様を城に入れるなと言われている。入れるわけが無いのだ」
皆様もご存知の通り、デーンの言っていることは全くのデタラメでした。
しかし、デーンはその滑らかにエルフ語を話す口は淀むことなく、言葉を紡ぎ出すのでした。
「なるほど、では門番たちが私を通したのは何かの手違いということでしょうかな。はてはて、困ったものですな。私は門番の許可を貰って荷物を取りに来たのだがな」
「まだその戯言を動かす舌があったか。その喉を切ってしまっても構わんのだぞ」
そういうと片方の兵士は剣を抜き、喉元に剣を突きつけました。しかし、デーンは堂々とした口ぶりで話し続けました。
「何か勘違いされているかと思われますが、貴方たちの証言が正しければ、門番は私を通してしまったのは何かの間違いということになる。私がここにいるのはあってはならないのですからね。連絡事項が他の兵士達に伝わっていないのであれば、彼らの長や門番本人の責任ですし、わかって入れたのであれば門番が責を問われるはずです。私からしたら貴方たちも私を陥れようとしているように見えるのですよ」
「何だと?」
険しい表情をする兵士の手は怒りで震えていましたがデーンはその態度を崩しません。
「貴方達を責めたいわけではないのですよ。私はこのような事態になった原因と誰に責任の所在があるかを明確にすべきだと言っているのですよ」
このように数々の詭弁で兵士二人を困らせたのですが、あまりにも堂々としていた為に、愚かなこの二人はデーンの言う通り、他の誰かに責任があったかのように心を動かされてしまったのでした。
「とりあえず、門番にこの事について話をする。お前はそいつと一緒に待っていろ」
そうはさせまいとデーンはすかさず兵士に求めたのでした。
「いいや、俺も着いていこう。どちらにせよ出ていかなくてはならないのであれば、門番達のところで事の顛末を聞くほうが早いだろう」
そういうとあまりの潔さに面食らう二人の兵士達でしたが、デーンは何気ない顔で口を回らせるのでした。
「そういえば、この事はアスラン王にお伝えするべきではないかね?彼は今どこにいるんだ」
兵士の一人が彼の口車に乗って危うく口を割るところでしたが、もう片方の兵士はそれを静止しました。
「貴様には関係の無い事だ。言うわけが無いだろう!」
そう言って教えませんでしたが、この兵士は愚かにも片方の兵士を王の元へと走らせてしまったのでした。
こうしてデーンは兵士に連れられて城を追い出されたのですが、ドギンの存在は隠され、更には王の居場所を知ることに成功したのでした。
ドギンは王の元へと急ぐ兵士の後を追いました。彼はあまりにも急いでいた為にドギンにおわれていることに気がつきませんでした。そして、それは彼が王の元へ辿り着いた後も気づかれることは無かったのでした。
閉まりそうだった扉の隙間をするりと通り抜けると、屋根のない円形の形をした部屋の柱の裏へと姿を隠したのでした。
部屋の中心は噴水の庭園で、部屋の広さで見ると小さなものですが、ヘルロスの輝きを一身に受け、草木や花は瑞々しさと不思議な和みを生み出していたのでした。
そして、眉間に深いシワのある高貴な装いの森人が噴水の前で険しい顔で佇む姿は不思議で神秘的な空間と時間の流れを感じさせたのでした。
この高貴な森人こそがヒンデンブルクの王アスランに他なりません。
時間の流れを感じさせるような眉間や目の下の皺は彼を全体で捉えた時に厳かで風格のある人物像を表しているようでした。そして、その高貴な装いも厳格さを表すように無駄な装飾はなく、しかし、もはやどの種族の中でも今では上位森人しか着ないトガを身につけ、森人の象徴とも言える金色の長髪は短く切られており、それがエンギレンに住まう森人達の王という風格を感じさせるのでした。
言伝に来た兵士は萎縮しながらもしっかりとした声でデーンの真っ赤な嘘を高らかに告げるのでしたがアスラン王は何も言わず、ただじっと指先を見つめるばかりでした。
アスラン王の指先には緑色の芋虫が止まっていました。言葉を交わしているかのように身体を起こす芋虫と視線を合わせ、険しい顔に微笑みを感じるのでした。
芋虫を葉っぱ上に乗せると、どうしたものかと狼狽える兵士に振り向きもせずに答えました。
「それはやつの虚言よ、さっさと放り出すのだ。それとあやつがあやつ自身の意思でこの城に入るまい。必ずやつには仲間がいるはずだ。恐らく、かの危険な小鬼に違いない。見つけ出して、この国から追い出すのだ。よいな?」
そういうと慌てて兵士は飛び出すのでした。その様子を滑稽そうにアスラン王は見つめるのでした。
そして、ドギンのいる柱に向けて話しかけるのでした。
「これで誰も邪魔は入らないであろう。そなたも姿を見せたらどうかね、銀の君の弟子のドギン」
穏やかな声で話しかけられたので、警戒はしつつもドギンは柱から顔を覗かせるのでした。
「貴方がこのヒンデンブルクの王、アスラン陛下でおわせられますか」
「如何にも、私がこの国の王で、そなたにとっては悪しき王に見えるやもしれんな」
アスラン王は噴水の縁に腰掛け、ドギンをじっと見つめました。その目は強い意志を宿す青い目。ドギンの心を見通そうとしているようでした。
「いいえ、私はあなたを愚鈍だとは思いません。私は小鬼という存在を他者の目にどう映るのか、そして、そのような存在が強い力を持つことの意味を理解しておりませんでした。これは私の過ちに他なりません」
ドギンは深く頭を下げ、己の過ちを深く懺悔するのでしたが、アスラン王は顔色を一つも変えませんでした。
「そなたは何も分かっておらん」
ドギンは驚き、四角形の角のように下げていた顔を無理矢理押し込んで中身が飛び出したカバンのように勢いよく上げました。
「何故でございましょう。私が危険を犯したことをお咎めになられているのではないのですか?」
「いいや、私はそなたにそのように咎めたとも。ならば、そなたの善意につけ込んで君の中にある小鬼の血を思い出すような手段をさせた事についてドギンよ、私を咎めなくてはならなかったのだ」
顔色はちっとも変わらりませんが、声は大変厳しいものでした。
「そなたの優しさにつけ込んで、私は彼らを解雇し、そして侵入させ、罪を犯させるように理不尽なことこの上ない行為をそなたに私はしたのだ」
ドギンは黙ってアスラン王に耳を傾けました。アスラン王の声はあまりに真面目だったからでした。
「私にはかつて、悪しき者の知己がいた。だから私がそなたの優しさを狙って悪しき道へと導くこと方法なんぞ、幾らでも知っているしそうする事は造作もない。それを許すことは愚か者のすることよ。相手は間違っていないと思い込んで話すのはやめなさい」
アスラン王は続けて話すのですが、厳しい口調とは違って今度は穏やかに話すのでした。
「だから、そなたの中で小鬼としてではなく、そなたとしての善と悪の見極めをつけるのだ。侵入する行為が肯定されるべき行いでは無いし、そう仕向けた人物を肯定すべきではない」
ドギンは黙った後にはっきりとした声でアスラン王に向かって告げるのでした。
「だとしたら、やはり私の中では貴方を咎めるべきでないと思います」
アスラン王の眉間のシワはよりいっそう深くなりました。
「どうしてだね」
「貴方は私に全ての事柄に善意がある訳では無いと善意から私に教えて下さり、善意からの忠告をしてくださったのです。例えそれが自分の評判を下げる結果になったとしてもです。少なくとも私の善悪の観点から言えば、それは間違いなく貴方は善なのです」
そういうとアスラン王のシワは眉間にではなく頬に作るのでした。
ドギンはその表情につられて笑顔を浮かべるのでした。
「師は元気であったか」
アスランがそういうとドギンは驚きのあまりに目を見開くのでした。
「貴方様も銀の君の弟子にあられたのですか?」
「あぁ、そなたからすると私は兄弟子にあたるな。と言っても2000年前の話だがね」
「私の事を弟子にしたと知った時は驚いたのではないですか?」
アスラン王は不思議そうな顔をするドギンを見て、ほほ笑みを浮かべるのでした。そして穏やかな声を変えずに言いました。
「そんなことはないさ。あの方の弟子にはこれまで種族の垣根を越えて志願する者が大勢いたからね。それに私自身、他の種族の者と愛し合ったことがあったからね。そういった偏見がある訳では無いのだよ」
「それは先程申してました悪しき者との事ですか?」
アスラン王はゆっくり立ち上がり、ヘルロスの光を見るのでした。冬の前の季節にも関わらず強い光を放って、燦々と降り注ぐ空を見つめるようでした。
「あぁ、そうだとも。私は彼女を愛していた。私にはこの輝きに優って劣らんものを感じたのだ。だから、そなたにも道が必ずしも暗いものだとは思わんよ」
そういうと、アスランが衛兵を呼んで彼らにドギンへの命令を撤回し、丁重にもてなすように命令し、船乗りたちの解雇も全面的に撤回するように告げると、ドギンは喜ぶのでした。
「あぁ、偉大なるアスラン王、我が兄弟子よ、感謝します!貴方が彼らを救ってくださったおかげで私も悔やみ続ける夜を過ごさずに済みそうです」
「ここから東に森人の道を通ってまっすぐ向かうのだ。その道を外れるとそこは獣の領域よ。危険な悪魔狼共やもしかすれば野人に会うやもしれん。それに敵対的な
その日はアスラン王に金貨を5枚も貰い、酒場で身体中を怪我だらけにしていたデーンと共に飲んで食っての(とは言ってもドギンは小鬼の自分を抑えるために酒を一口もしなかったのですが)大騒ぎをして一日を終え、そして、深夜の寝静まった頃合いを見てドギンは客室の扉を開け、宿を後にするのでした。
長く留まればデーンやアスランのいるこの地を旅立つのを惜しんでしまいそうになるのです。そして何より、アスランやデーンの立場を危うくしてしまうと思ったからでした。
森人達にドギンの立場は知れ渡っているのですが、小鬼を快く思う者は多くはありません。だから、いつの間にか消えたことにして旅立つことにしたのですが、ドギンの肩を掴む者がいました。デーンでした。
「起こしてしまいましたか」
苦笑いを浮かべるドギンとは反対に表情は固く、ドギンをまっすぐ見つめるデーンはこう言いました。
「俺も連れていけ」
ドギンは困惑して、言葉に詰まっているとデーンは続けてこういうのでした。
「ドギンよ、お前さんは辞めさせられた船乗り達の恩人だ。それにな、短い付き合いだし、俺は小鬼という生物をよく知りはしないがな、こんな何でもない小さな種族を愛おしく思ったのさ」
デーンはまっすぐドギンを見つめることをやめません。
「お前さんを通して必死に生きようとする小鬼というものを愛しちまったんだよ。だから、お前の旅の手助けをさせて欲しい」
ドギンの声も顔も暗く沈んだものとなってしまいました。
「この旅がどんなに困難なものになるか、それに
「お前は
デーンの真っ直ぐな目にドギンの姿が映されていました。
「俺はパラメシア出身だと言ったがな、そこで奴隷として育ったのさ」
突然、衝撃的な告白をするデーンにドギンは目を見開きました。
「病人と孤児と罪人ばかりの浮浪者の溜まり場で育った。海の民の生まれであるはずの親には一日の生活費の為だけに売り飛ばされ、雇い主からの虐待なんて日常茶飯事だった。雇い主に捨てられ、森人に拾われて、船に乗せられた時に、俺は海の広さに感動した。俺は海の
デーンは少し黙って、言葉を続けました。
「お前には色んな柵や運命が縛り付けるだろうがな、それでも
デーンの笑みにドギンは涙し、彼を旅の友にすると決意するのでした。
彼らはヒンデンブルクの東門を抜けます。門の先は闇がより一層深くなっており、松明ですら心許ないものですが、彼らは恐れず歩みを進めるのでした。
アスラン王はその様子を城の窓から伺っていました。
「ここから先は、誰もお前たちのことを護ってはくれないだろうし、誰も助けることは出来ない」
厳しい言葉の割に眉間のシワは険しいものではありませんでした。
「されど、支え合う友がいれば暗いものばかりでもあるまい」
もう、見送るような真似はしませんでした。彼は窓を離れ、束の間の休息を後にするのでした。
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