第10話 ナイトクローラー

「よし、そろそろ帰らないと暗くなっちゃうな」

「うん。いっぱい取れたね!」


 森の浅い所で、木の実を集めていた直人たち。

 直人が手にしたビニール袋には、赤やら黄色やらの木の実が詰まっていた。

 毒は無いとオズに言われたため、直人も食べてみたが渋みの強いイチゴのような味をしていた。

 すごく美味しいとは言えないが、食べられなくはないような味だ。


 もう木の実は十分に集まった。空を見上げれば日が傾き始めていた。

 早く帰らなければ暗くなってしまう。

 この木の実はコボルトたちにあげる分なので、一度集落に戻りたい。

 遺跡に転移してから集落に戻ろうとした時だった。


「……なんか、変な音がしないか?」


 ガション。ガション。

 工場で機械が動いているような駆動音。

 それと同時に、わさわさと木々をかき分ける音が聞こえる。


「あ、夜回りさんだ!」

「……また新キャラか?」


 ネモが指さす方を見る。

 そこに居たのは灰色のロボット。まるで腕と首のないラプトルのような見た目をしている。

 二本の太い足でガションガションと歩いていた。

 コボルトたちは『夜回りさん』と呼んでいるらしい。


「ロボットだ。あれも古代文明の遺物か……危ない奴なのか?」

「ううん。夜になると森から出てきて、島中を見回るの。モンスターが居ると倒してくれるんだよ?」


 夜になると島を見回るから『夜回りさん』なのだろう。

 どうやら危険はないらしい。


「なんだ。ムベンベ様と同じように安全な奴なのか」


 直人が夜回りさんを無視して帰ろうとした時だった。

 オズからストップがかかる。


「いえ、お待ちください。マスターには危険な可能性があります」

「え⁉ なんで俺だけ……」

「データによると、アレは警備用の自立稼働魔道具――ゴーレムです。夜間の見回りに使われていたのでしょう。人間であるマスターを侵入者と判断し、排除しようとする恐れがあります」

「うへぇ、人間なのが逆にあだになってるのか……」


 人間やモンスターは排除対象。

 ネモの話によるとモンスターを倒していたらしいし、人間も無事では済まないだろう。

 なぜかコボルトたちは対象になっていないようだが。


「しかし、逆に利用できるかもしれません」

「利用って?」

「私を『夜回りさん』に押し付けてください。ハッキングをして乗っ取ります」

「そんなことできるのか?」

「はい。あれは耐久性が売りの旧式ゴーレムです。十分に可能です」


 直人はすぐ近くで動く『夜回りさん』を見た。

 なんだかんだロボットである。男の子の心がくすぐられる。

 手に入るなら欲しい。


「分かった。やってみる」

「危険と判断したら、すぐに転移します。ネモ様も離れないようにしてください」

「分かったー」


 直人はそろそろと『夜回りさん』に近づく。

 前面にセンサーが付いているらしく、後ろはがら空きだ。

 お尻の部分に、そっとオズを押し付けた。


 ビビビ!!

 『夜回りさん』は異音を響かせて止まった。

 まるで力が抜けたように、足を折りたたんでへたり込む。


「え、壊れちゃったのか?」

「いえ、正常に稼働しています。背中に乗り込んでください」

「あ、確かに人が乗れるようなスペースがあるな」

「私も乗るー」


 大きな頭の後ろにコックピットのようなスペースがあった。

 直人はネモと共に乗り込むと、バイクの操縦ハンドルのような物を掴む。


「それでは発進します」


 オズの合図と共に、『夜回りさん』が立ち上がった。

 ガションガションと足を動かして走り出す。

 風を切って走る『夜回りさん』は意外と速い。

 人を乗せた馬が全力で走れば、これくらいの速度が出るのかもしれない。


「わー、歩くよりずっと速い!!」

「凄いな! これなら集落まであっという間だ!!」

「このゴーレムは今後も利用可能です。移動の際にはご利用ください」


 夕日に照らされながら、草原を走る直人たち。

 島を移動するための足を手に入れた。

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